アート界の女性差別と闘った草間彌生の本当の姿を探して
ドキュメンタリー映画『草間彌生∞INFINITY』の女性監督に訊く、Yayoi Kusamaの本当のすごさ。
今や誰もが知る偉大なアーティストとなった草間彌生。彼女の真の姿をフィルムに収め、17年もの歳月をかけたドキュメンタリー映画『草間彌生∞INFINITY』がついに日本公開に。監督であり日本人と結婚した女性であるヘザー・レンズ監督に独占インタビュー。ともに男性社会に敢然と立ち向かっていった女性同士の絆から生まれた作品に見られるシスターフッドに注目!
誤解されていると感じた草間彌生の本当の姿
―――日本人でしかも女性である、アーティスト草間彌生を題材に映画を撮ろうと思ったきっかけは?
90年代のはじめから草間氏のキャリアを追いかけ始めました。当時アメリカでは、彼女について書かれた本はたった1冊しかありませんでした。それを読んだ時に、彼女がアメリカのアート界に残した功績がちゃんと理解されていないと感じたんです。
非白人女性に立ちはだかる白人男性
―――映画を通してどんなことに焦点を当て、表現したかったのでしょうか? また、映画の原題『Kusama: Infinity』にはどんな意味を込めているのですか?
たとえば、草間氏は60年代に戦争反対のメッセージを込めたアートを製作したのですが、当時のレポーターは彼女の作品に対して非常に表面的にしか書いておらず、戦争反対のメッセージよりもヌードのほうに焦点を当てています。私はこの映画を通して、彼女の背景や困難を乗り越えてアーティストとしての夢を叶えた女性であると理解して欲しかった。彼女の粘り強い部分が彼女を魅力的な人間にしていることを題名に込めました。
Credit: Peter Moore, Photo of Yayoi Kusama with "My
Flower Bed" in her NYC studio, c. 1965
―――映画の中で、1960年代のアメリカでは日本人であり女性である彼女は、当時の白人男性が主流だったアメリカのアート界で相手にされなかったとのことですが、彼女の映画を製作し公開することに、アメリカの映画界で体験した困難はありましたか?
はい。それはもう……。非白人女性である草間氏を題材にした映画の資金集めは、特に最初の頃が非常に苦労しました。後になって状況が変わり、「どうして日本人という題材を映画にしたのか」と聞かれるようになりました。草間氏はインターナショナルなアーティストで、アメリカに10年間以上住んでおり、西洋に東洋を紹介し、西洋を東洋に紹介した人です。私は日本文化のエキスパートではないけれど、日本人と結婚しているので、日本文化については平均的な知識を持っていると自負していますが、とても丹念なリサーチを行ってからこの映画の撮影に入りました。映画芸術アカデミーの世界では、残念ながら女性監督の作品が公開されるのが難しいことが事実です。だから、私のこの小さなステップがハリウッドの映画界で正しい方向に向かっていることを感謝しています。
Credit: Yayoi Kusama, Infinity Mirrored Room-Love Forever, 1966/1994. Installation view, YAYOI KUSAMA, Le Consortium, Dijon, France, 2000.
語ることが難しい両親との関係
―――この映画を観て、草間氏の人生にも芸術にも、両親との関係が非常に大きな役割を果たしていることが見て取れました。母親が破り捨ててしまうから、テーブルの下で隠れて絵を描いていたと……。
私の意見としては、どんな人も子ども時代の出来事は大きなインパクトを残すものだと思います。彼女が幸福な幼少期を過ごさなかったことは明らかです。でもここで彼女の母親がしたことについて語ることはできないです。私が他の人に語れるのは私が経験したことだけ。ご両親に会ったこともないのに草間さんの代わりに語ることなど、誰にもできないですから。
「なぜ『外国人女性』を題材に映画を?」と訊かれて
―――この映画の製作に17年間という長い歳月を費やしたとのことですが、その間に周囲の変化はありましたか?
H: こんなに長い間、この映画に時間を費やすなんで全く予想していませんでした。こんなに映画製作が困難なものだと分かっていたら、始めなかったかもしれません。現実的には、映画製作を始めた当初は、世界はまだこの映画を受け入れる準備が出来ていなかったように感じます。当時は、草間氏はまだ今のようなグローバルなアーティストとしては認められておらず、映画に出資する人たちも彼女が映画の題材として価値があるとは信じてくれませんでした。ある人には、なぜ『外国人女性』を題材に映画を取ろうとしたのかって聞かれたこともあります。ですが、この17年の間に色々なことが変化し、それは草間氏がものすごく有名なアーティストになっただけでなく、映画界もすごく変わったように思います。最近では自伝ドキュメンタリー作品が人気を集めており、芯のある女性を題材にした映画がトレンドになっているみたいですね。
故郷でも上映されるドキュメンタリー
―――草間さんの故郷である長野県でも映画の上映があることのですがどんな気持ちですか?
この映画が長野で公開されることは本当にうれしいです。
―――実際に監督自身が長野に実際に行かれたのでしょうか? そうであれば長野に関して感じたこと、土地の印象やエピソードを教えてください。
映画の撮影中に2回ほど松本市を訪れました。撮影チームと一緒に東京からの日帰りの予定で、元松本市の市長である有賀正氏に会いに行きました。松本市美術館でインタビューを予定していたのですが、彼は親切にも私たちを彼の自宅に招待してくれたので予定を変更しました。そのせいで進行スケジュールが遅れて少しハラハラしたのですが(笑)、彼のおかげで伝統的な日本の建築や習慣など普段隠れて見ることが出来ないことを見ることが出来ました。彼にとても感謝しています。
―――この映画をどんな人に見て欲しいですか?
草間氏のアメリカでの認識を変えたいと思い、アメリカの観客のことを考えて映画を製作しました。しかし長い年月をかけた作品なので、世界中の人にこの映画を観てもらえたら嬉しいですね。
Interview & Text : Kiyoko Matsushita
『草間彌生∞INFINITY』
監督 : ヘザー・レンズ
出演 : 草間彌生ほか
原題 : 『KUSAMA: INFINITY』
© 2018 TOKYO LEE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
渋谷PARCO8F WHITE CINE QUINTOほか公開中
公式サイト : http://kusamayayoi-movie.jp/