現地時間の9月2日(水)~12日(土)にかけ、イタリア・ベネチアにて行われる「第77回ベネチア国際映画祭」。世界三大映画祭のひとつとしてだけでなく、パンデミック下で開催されたことでも世界が注目しているこのイベントの、おさえておきたいトピックや作品、受賞結果を、随時更新でお届け。
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対策もぬかりなく、“コロナ時代”の映画祭
猛威を振るう新型コロナウイルス感染症により、半年以上も大苦戦を強いられた映画業界。この映画祭は、コロナショック以降初となる“フィジカル”な国際映画祭として、業界人や映画ファンたちから視線を浴びている。
開催を踏み切ったからには徹底した感染予防対策が不可欠だが、現地からの報道によると、会場では検温や消毒が念入りに行われたり、観賞時にはマスクの着用を求められたり、劇場内も空気の循環をよくするために冷房が強めにきいていたりするそう。
上映会場では空席が目立つが、これは密を避けるためだけでなく、来場者自体が例年より激減してしまったことも原因。初日の注目作ですら客入りがかなりまばらで、国際映画祭としては異例の光景となった。
今回審査員長を務める女優のケイト・ブランシェットをはじめ、姿を見せた俳優やセレブたちの多くも、マスクを着用したり、他人との距離を置いたり、握手のかわりにエルボー・バンプを交わしたりするなど、コロナ時代を感じさせる場面が散見された。
映画産業に再び力を!
映画祭のディレクター、アルベルト・バルベラ氏によると、今回のイベントは、パンデミックにより閉鎖を余儀なくされた劇場が多いことに加え、Netflixをはじめとするストリーミングサイト勢に飲み込まれかけている映画産業を改めて活性化させようという意味合いも強く込められているそう。
業界全体が連帯感を示さない限り、致命的な事態になってしまうことを懸念する氏は、イベントを「文明と文化のための闘い」とも喩えており、劇場体験の豊かさを改めて知らしめたいともアピールしている。
過去にもカンヌ国際映画祭でNetflix作品がコンペから閉め出されたり、ブーイングと歓声の両方で迎えられたりしているが、“劇場と配信の共生”は、今後も大きなテーマとして横たわることになりそう。
ティルダ・スウィントンが功労賞を受賞「ワカンダ・フォーエバー!」
オープニングセレモニーでは、女神のようなマスク姿でもSNSを沸かせたティルダ・スウィントンが、功労賞にあたる名誉金獅子賞を受賞。
ケイト・ブランシェットからトロフィーを受け取ると、「映画は私にとって幸せな場所であり、本当の母国」「ここには、私たちが必要とするものすべてがある。魔法の絨毯は今も、これからもずっと空を飛び続ける。魂を守るための道具として、望みうる最高のものです。ビバ、ベネチア! シネマ、シネマ、シネマ! ワカンダ・フォーエバー! 何よりも愛を」と、映画への想いを熱く語り、さらに先日ガンで亡くなった『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマンを追悼。会場からは大きな拍手が沸き起こった。
レッドカーペットのリサイクル女王、ケイト・ブランシェット
審査員長のケイト・ブランシェットは、過去に着用したドレスを積極的にリサイクルしている人物のひとり。今年もオープニングから着回しを披露し、サステナブルなメッセージを投げかけた。
チョイスしたのは、パリで活躍するコロンビア人デザイナー「エステバン・コルタサル(Esteban Cortazar)」のケープドレスで、2015年の話題作『キャロル』のロンドン映画祭でのプレミアで着用したもの。
さらに後日には、2016年の英国アカデミー賞で着用した「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」のフルレングスドレスをトップにお直しし、ワイドパンツに合わせて再着用。
これらのドレスはこの後、ケイトのスタイリストであるエリザベス・スチュワートが主催するチャリティオークションにかけられ、収益は100%寄付に回されるそう。「美しいものはサステナビリティからも生まれ得る」と語るケイトらしい、エコ&スマートな取り組みに拍手。
VR作品を気軽に体験
今年は完全なオンラインでの開催となった、VR部門「ベニスVRエクスパンデッド(Venice VR Expanded)」。コンペ部門には、SFからドキュメンタリーまで31作品(日本人の作品も含む)が出品されているほか、その他にも多彩な作品がお披露目中。
映画祭期間中は、世界中どこからでもVRヘッドセットやPCを用いてバーチャルで参加でき、交流会でチャットを楽しんだり、登録(英語もしくはイタリア語)すればいくつかのコンペ作品への無料アクセスができたりすることも可能に。
VRファンも初心者も、いざ自宅からバーチャルの世界へ飛び込んでみよう。ここからVRにハマる人も多いかも?
マスクファッションならテイラー・ヒルにお任せ
来場者のなかでもマスクを誰よりファッショナブルに着用し、ギャラリーやパパラッチたちの視線を独占していたのは、モデルのテイラー・ヒル。
会場入りした際は、「エトロ(Etro)」のトップにデニム、同系色のマスクでカジュアルな装いを披露。いっぽう同日のオープニングセレモニーでは、同じく「エトロ」のシアーなストラップドレスと「ショパール(Chopard)」のジュエリーでグッとセクシー&ゴージャスに変身、ドレスと同じ柄のマスクをここでも着用していた。
会期中、さらにマスク七変化ファッションを見せてくれることに期待。
監督デビューのレジーナ・キング、歴史的快挙
今回大きくバズっている人物のひとりは、オスカー女優のレジーナ・キング。監督デビュー作『One Night in Miami』(原題)が、映画祭の88年もの歴史において、黒人女性監督として初めて公式選出された作品となったから。
リモートで記者会見に出席したレジーナは、選出を誇らしく思うと同時に「この作品の評価が、自分の後に続く黒人女性監督たちの未来にもかかっていることに責任を感じる」とコメント。
「残念ながら、これが今世界中で起きていること。ある女性が挑戦し成功しなければ、次の女性が挑戦するまで、何年も道が閉ざされてしまいます」
「世界には恵まれた才能が、才能ある監督があふれています。もし『One Night in Miami』がここで評価されれば、みなさんは我々の作品をもっと観ることができるでしょう」と、映画業界における女性や黒人の活躍について触れた。
1964年を舞台に、カシアス・クレイ(モハメド・アリ)やマルコムX、アメフト選手ジム・ブラウン、ソウル歌手サム・クックら4人の出会いを描いた本作は、有名レビューサイトで現在100%の高評価を叩き出している。偉業を成し遂げたレジーナを称えるとともに、日本でも公開されることを願いたい。
ブレイク必至、ヴァネッサ・カービー
さらにもうひとりバズっている人物といえば、イギリス人女優のヴァネッサ・カービー。
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018)や『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)などのアクション超大作のほか、Netflixの大人気シリーズ『ザ・クラウン』でも鮮烈な印象を残していた彼女は今回、『Pieces of a Woman』『The World To Come』(ともに原題)というコンペ部門の要注目作2本に主演。
前者では自宅出産で我が子を亡くし打ちのめされる母親を、後者では19世紀アメリカを舞台に禁断の恋に落ちる女性をそれぞれ見事に演じ、そのエモーショナルな演技が高く評価されている。
女優賞受賞の可能性も十分にあるとみられており、今後さらに大きく羽ばたくのは間違いなさそう。
最高賞にあたる金獅子賞は、女性監督クロエ・ジャオ
コンペ部門には過去最多となる8名の女性監督作がラインナップしていたが、作品賞にあたる金獅子賞に見事輝いたのは、中国人女性監督クロエ・ジャオ(写真)の『Nomadland』(原題)。
当初より最高賞としての呼び声も高かった本作は、2010年の『SOMEWHERE』でソフィア・コッポラ監督が受賞して以来、女性監督としては初めての受賞、さらに2001年のミーラー・ナーイル監督以来初めて、有色人種の女性監督としての受賞にもなった。
『ファーゴ』(1996)や『スリー・ビルボード』(2017)で2度のアカデミー賞主演女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンドを主演に迎えたこの作品は、リーマンショックによりネバダ州の家を失った女性が、ノマドとしてアメリカを旅するロードムービー。
ジャオ監督はこのあとMCUの超大作『Eternals』(原題)なども公開(2021年予定)を控えており、最も注目すべき存在として覚えておきたい。
銀獅子賞(審査員大賞)はメキシコ人監督作、黒沢清監督も受賞
銀獅子賞(審査員大賞)は、ミシェル。フランコ監督(写真)がメガホンをとった『Nuevo Orden』(原題)がゲット。
そしてあの黒沢清監督の話題作『スパイの妻』も、銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。日本人のこの賞の受賞は、第60回の北野武監督『座頭市』以来17年ぶり。
ベネチアに飛べなかった黒沢監督は、現地会場に日本から喜びと感謝のメッセージをビデオで贈った。本作は10月16日(金)よりロードショー。
最優秀女優賞はヴァネッサ・カービー、男優賞はピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
ヴォルピ杯(最優秀女優賞)を獲得したのは、主演作2本が出品されていたヴァネッサ・カービー(写真左)。我が子を亡くした母に扮した『Pieces of a Woman』(原題)での受賞となった。
いっぽう最優秀男優賞は、イタリア映画『Padrenostro』(原題)のベテラン人俳優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(右)が受賞。こちらは、1976年に実際に起きたテロ事件を少年の視点から描いたスリラー。
そのほかコンペ部門では、審査員特別賞を『Dear Comrades!』(原題)のアンドレイ・コンチャロフスキー監督(ロシア)が、最優秀脚本賞を『The Disciple』(原題)のチャイタニヤ・タームハネー(インド)が、マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人賞)を『Sun Children』(原題)のルーホッラー・ザマニ(イラン)がそれぞれ受賞する結果に。
第77回ベネチア国際映画祭は、現地時間の12日夜に無事閉幕。受賞作&受賞者のみなさん、おめでとう!