チェスプレイヤーが5倍増!? 「クイーンズ・ギャンビット」が2020年のネトフリ全米１位になった理由
チェスの天才少女の快進撃を描いてグローバルヒットとなったNetflixオリジナルドラマ『クイーンズ・ギャンビット』。世界63ヵ国でナンバーワンに輝き「Netflixで最も成功したリミテッドシリーズ」になるばかりか、新たなチェスプレイヤーを爆発的に増加させるほどの文化現象に！ 老若男女関係なく同作が圧倒的人気を獲得した理由をおすすめポイントと共に総ざらい。
【理由①】王道な面白さ、チェスがわからなくても大丈夫
日本のスポ根少女漫画とも比較される『クイーンズ・ギャンビット』の一番の魅力は、万人が楽しめる「王道」な面白さ。1960年代アメリカを舞台に、母を亡くし養護施設に入った少女・ベスが無口な清掃員にチェスを習っていき、ドラッグ依存に蝕まれながら世界的な才能を発揮していくストーリー。
もちろん、チェスのルールがわからなくても大丈夫！ むしろ、静かな対面式ゲームという都合上「映像化に向かない」と言われていたチェスをCGI交えて臨場感たっぷりに映した「わかりやすさ」が高評価の一因に。ほとんどの出演者のチェスに疎かったというけれど、主演のアニャ・テイラー＝ジョイは、クラシックバレエの経験を活かしてリズミカルな駒の打ち方を編み出したそう。
【理由②】男性社会で孤高に戦う構図
チェス大会に出場するようになった主人公ベスにたちはだかるのが、男性優位なチェス業界。決勝戦であるにも関わらず女性のベスを見くびって堂々アクビをする男性プレイヤーも出てくる性差別的な環境で果敢に攻め入るストーリーに多くの女性が鼓舞されていった。そして、その上で熱い展開を魅せてくれるのが『クイーンズ・ギャンビット』。
ベスと同じくアウトサイダー気味な天才青年ベニーらと結ぶ友情やサポート、ロマンスなど、白黒つかない男性選手との関係は、まさしく2020年の新しい「王道」。
【理由③】複雑な母娘関係 「毒親」か否か議論も
もちろん、女性同士の関係もはずせない。「男性優位社会で道を阻まれがちな女性」がテーマであるゆえ重要になっているのが、主人公ベスと母親たち。とくに話題を呼んだのは、母親を亡くし孤児院に入ったベスを養子に迎えた養母アルマ。
マリエル・ヘラー演じるアルマは、ピアニストの夢を諦めたリッチな専業主婦で、冷え切った結婚生活のなか酒浸りの日々を送っている。養子に迎えたベスがチェスで稼げると知ると、学校のズル休みを許して大会遠征の援助を行うように……これだけ聞くと「毒親」のように聞こえるけれど、お互い孤独と依存症を抱えるベスと独特な絆をはぐくむストーリーが感動や議論を呼ぶことに。また、物語が進むにつれ、1話で事故死した生物学的母親の秘密も明らかになっていく。
【理由④】あらゆる意味が込められたシックな60年代ファッション
エル読者に一押ししたいトピックは、チェスの報酬で経済的自立を果たしたベスが爆買いする、シックな1960年代ファッション！ 当時のバレンシアガや女優イーディ・セジウィック、そしてカウンターカルチャーを参照したルックは、どれもファッショニスタに大人気で、Netflixと協力したブルックリン美術館がバーチャル衣装展を開催するほどに。
物語の展開やベスの心境ともリンクするようになっているので、とくにチェス盤を模すチェック模様のルックは要注目。ほかにも、パリ遠征ではピエール・カルダンにオマージュを捧げたベージュドレスが登場。
※写真がファンの間でピエール・カルダンにオマージュを捧げたと言われているベージュドレス
ほかにも作中名前が挙がる大女優エリザベス・テイラーのアカデミー賞ドレスと似たイエローのノースリーブ・トップが着用されたりするなど、ファッション史の観点でも見どころ満載。
※1961年『Butterfield 8』でアカデミー女優賞を獲得したときのエリザベス・テイラーの衣装
【理由⑤】細部にまでも意味が隠されている!? ロケーションや建築デザイン、インテリア
チェス界でみるみる頭角をあらわしていくベスは、パリやメキシコ、そして強豪ロシア勢が待ち受けるモスクワなど、さまざまな地域の大会に出場していく。つまり、欧米の美しい街並みを見てヴァケーション気分にも浸れる眼福さ！
養母アルマと暮らす家のミッドセンチュリーデザインも大人気なので、華やかな壁紙にインテリアなど、おこもり下のお部屋改造の参考にしてみて。また、考察がはかどる仕掛けも豊富。なかでも、プロダクション・デザインを担当したウリ・ハーリッシュが意味を持つようにこだわったのが、女性を中心とした絵画の数々。パリのホテルルーム等で目にすることができる女性たちの絵は、男性たちに囲まれながら孤高に戦うベスの「仲間」のような存在だという。
【理由⑥】あの元人気子役がいたり、アニャがフェミニズムアイコン化の兆しになったりキャスティングも◎
大ヒットした「クイーンズ・ギャンビット」は、活躍間違いなしの若手俳優の宝庫。たとえば、天才でアウトローな選手ベニーを演じるのはトーマス・ブロディ＝サングスター。
なんと、2003年の映画『ラブ・アクチュアリー』の少年サム役！ 同作のファンは、その成長ぶりに驚くこと間違いナシ。
※親戚でもあるヒュー・グラントと、2003年『ラブ・アクチュアリー』のプレミアお披露目会の写真
また、女性差別的な男子選手として登場するハリー役は『ハリー・ポッター』シリーズでダドリー・ダーズリーを演じたハリー・メリングなので、2000年代ムービーファンには見どころ多し。
※『ハリー・ポッター』ダドリー役をしていた頃のハリー・メリング
フェミニズムなホラー映画『ウィッチ』で脚光を浴びた主演アニャ・テイラー＝ジョイは、なんと『マッドマックス 怒りのデス・ロード』にてシャーリーズ・セロンが演じたフュリオサをスピンオフ『Furiosa（原題）』にて演じることに！ 新世代のフェミニズムアイコンになりつつある彼女の活躍を今後も待ちきれない。
【理由⑦】天才主人公にはモデルがいる？ リアルで奥深きチェス描写
『地球に落ちてきた男』で知られるウォルター・テヴィスによる1973年の同名小説を原作とした『クイーンズ・ギャンビット』は架空の物語だけれど、モデルと噂されるのは、15歳でグランドマスターになり、ベスと同じ頃にキャリアピークを迎えた天才ボビー・フィッシャー。このボビーにも関連ある名作チェス映画『ボビー・フィッシャーを探して』も2020年12月25日現在Netflixにて配信中なので、ドラマを視聴したあとはチェックしてみて。
もちろん、チェスのルールを勉強して『クイーンズ・ギャンビット』を再見するのも最高に楽しいはず。専門家からも「正確な描写」と評されるだけあって、現実にあった対戦と同じ駒運びが行われていたりも（ハリー戦は1955年ラトビアのRashidNezhmetdinov対Genrikh Kasparian戦、ラストバトルは1993年スイスのVassily Ivanchuk対Patrick Wolff戦）。
なにより、タイトルになっているオープニング定跡「クイーンズ・ギャンビット」と物語の熱いリンクを理解できるはず！ コロナ禍、『クイーンズ・ギャンビット』によって火がついたチェスゲーム。創造的な熟考を行う頭脳戦は、おこもり生活にもピッタリとのことなので、この熱いドラマを見て、扉を開いてみて。
