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SKY-HI(日高光啓)と田中宗一郎が対談。ファンとの対話から生まれる、「密」になれない時代の音楽の楽しみかた

新型コロナウィルス前後の分岐点となる2020年。音楽業界のイベント視点で言うと、緊急事態宣言が解除されても、言うまでもなく新型コロナウィルスの影響で、ライブやクラブイベントが軒並み中止となり、直近数カ月は新型コロナウィルス前と同じような条件での開催が難しくなっている。そんな状況下で、日本のミュージックラバーはどう音楽を楽しんでいけばいいのか? 自粛期間中にSNSやサブスクを通し、早い段階でファンに向けて曲を発信したSKY-HIさんと『2010s』の著者で音楽評論家の田中宗一郎さんが、音楽を作る人、運営する人、聴く人の3つの側面からソーシャルディスタンス時代の音楽についてポジティブに(たまにネガティブに)放談。

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1 オフラインが手段として選べなくなったときの制作事情の変化は?

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“#Homesession -0406-” / SKY-HI
“#Homesession -0406-” / SKY-HI thumnail
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―――フェスやライブの中止やリリース延期など、音楽ファンで暗たんされるかたも少なくないと思いますが、この状況でポジティブに音楽を楽しむ方法を今日はお2人に聞ければと思います。

田中宗一郎(以下田中):日高さんのパンデミック後の活動を追ってみると、ツアーとかライブパフォーマンスって作業がすっぽり抜けてしまって、ファンとのダイレクトの繋がりも欠けてしまっているということ以外は、いつもとやることって変わっていない人の、アーティストのひとりなんじゃないかなっていう印象です。

日高光啓(以下日高):そうですね。家で作って録ってということを元々やってたアーティストからすると、作曲面では、影響がそこまで大きくないかと思います。

田中:例えば以前のロックは、ライブするのもオフライン中心だったはず。でも日高くんの場合はここ3、4年の間ずっとオンライン・オフラインでやることも両方並行して自然にやってましたね。

日高:元々10年前くらいになるけれど、最初にラッパーとして名前を上げたのもインターネット上だったりしたし、自分の周りのラッパーもそうだったけど、音楽を自分の部屋で作ってネットにあげるっていうのは普通の行動ではありましたね。

※「#Homesession」はSKY-HIとして2020年4月6日に発表した1曲

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Charli XCX - claws [Official Video]
Charli XCX - claws [Official Video] thumnail
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―――日高さんのような、普段からオンラインとオフラインを意識していたアーティストは、コロナ禍前後でやってることに変わりがないことも多かった。

日高:変わりないこともありましたけど、ただ、やはり音楽ってコミュニケーションの延長だから、一度も会ったことない人と会ったことある人だと、制作に対する成り立ちは多少変わってくるので、それは会えれば会えるだけいいんですけど、実際の作業はオンラインでということはこれまでもやってきたことです。

田中:オフラインでやるにもオンラインのプラットフォームを使うということですかね。

日高:そうですね。

※コロナ禍の2020年5月15日リリースされた、チャーリーXCXができる範囲ですべてのプロダクションを行なうとのアイデアから作られたアルバム『ハウ・アイム・フィーリング・ナウ』の1曲「 claws」。自身がミュージック・ビデオを作り、彼氏がアートワークを制作。

2 アーティストとファンが能動的に参加し、クリエイティブを作る

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―――チャーリーXCXのアルバム制作工程も然り、日高さんが発表された「#Homesession」も、楽曲の歌詞やステムデータ(編集しやすくするために複数のトラックをひとつのトラックにまとめたもの)を公開し、ファンやアーティストも楽曲に参加できるという試みで話題を呼びましたね

日高:やってよかったなってことが大きく3つくらいあって、今までにもインストをまいたりとかそういうことはやっていたんだけど、今回はステムデータでバラまいたら、意外と多くのアーティストがリミックスとか作り直しみたいなことに参加してくれたのが驚きでした。

田中:つまり、ほかのアーティストの能動性を感じられたと。

※DATSのMONJOEがステムを基に、4月10日にUPしたSKY-HI「#Homesession」のリミックス

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# Homesession with THE SUPER FLYERS
# Homesession with THE SUPER FLYERS thumnail
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日高:はい。それと、自分のバンドと一緒に何かできたこと。最初は、自分のバンドとはいえ、提案しても全然それどころじゃない感じだったらどうしようと心配だったんですけど、いざやってみたらみんなノリノリでやってくれたのが嬉しかったというのがひとつ。

田中:その動画も上がっていますよね。

日高:はい。で最後のひとつは、世の中に社会を反映したような歌詞が響きやすくなったことが嬉しかったです。

―――確かに、私自身もいちリスナーとして、以前より言葉(歌詞)が身に沁みるような経験が増えた気がします。

日高:今回の自粛期間中に、極端な例だと、 若いファンの子とかに「歌詞にメッセージのあるもの初めて聞きました」「音楽ってこういう楽しみ方もできるんですね」ってコメントをもらったりとかオンラインを通じて声はもらいましたね。

※自身のバンド・SUPER FLYERSと共に“自宅セッションで作り上げた「#Homesession」




3 オーディエンスの歌詞や曲に対するリアクションが以前より大きく

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星野源 – うちで踊ろう Dancing On The Inside
星野源 – うちで踊ろう Dancing On The Inside thumnail
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田中:特にファンからのリアクションが大きかったのは曲のどういった部分でした?

日高:テレビでホームセッションをやらせてもらったときとかに、リアクション大きかった部分が、例えば、「否定は何も生まない」「批判は社会を育てる、違いはわかるかい?」だったり、「明日自分が死んじゃうかもしれない、自分が殺しちゃうかもしれない」みたいなライン。そういう問題定義しているような歌詞が新型コロナウイルス感染症の拡大前に制作したものより響いてる気がしました。

田中:なるほど。常に問題意識とか批判精神みたいなものが作品に込められてるんだけど、響きやすくなったと。

※豪華アーティストとのコラボでも話題となった星野源の「うちで踊ろう」は首相官邸のインスタグラムにもあがるなど各方面で拡散された。

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米津玄師 - 馬と鹿 Kenshi Yonezu - Uma to Shika
米津玄師  - 馬と鹿   Kenshi Yonezu - Uma to Shika thumnail
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日高:俺は星野源さんとか米津玄師さんの楽曲みたいに、最大公約数的なところにも届きながら、文学的な匂いを殺さない音楽作りがいつもすごく美しく見えていて。そういった臭みはとっちゃうけど深みは取らないみたいな感覚が、おこがましく言えばシンパシーを感じることが多いんです。(もっと直接的な表現をする事も多いですが、そこは矜持もあれば不安もあります。)だから、今回のリスナーからのリアクションは生活と音楽の距離感が近いタイプのミュージシャンとして嬉しい感触でした。

田中:星野さんとか米津さんとかの作品って、もちろん常に問題意識とか批判精神みたいなものが作品に込められてるんだけど、あまりダイレクトにやっちゃうとリスナーを傷つけたり、不安にさせることもあるから、メタファーやアナロジーを使って、文学性を高めたりでコーティングして伝えてたと思うんです。

日高:そうですね。野田洋次郎くんだったり、川谷絵音くん、常田大希くんとか、最近の若手だと、藤井風くんとがそういったことが上手だなと羨ましくも感じます。

※1億回再生を突破した2019年9月2日公開された米津玄師 MV「馬と鹿」

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重盛さと美feat.友達 TOKYO DRIFT FREESTYLE🍜🔥
重盛さと美feat.友達 TOKYO DRIFT FREESTYLE🍜🔥 thumnail
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田中:では、今回のリスナーの受け取りかたの変容によって、日高くんの作品も含めて、それがよりもっとダイレクトな表現になっていくっていう可能性はあると思いますか?

日高:文化・芸術に関しては、以前よりも尖った音楽性も受け入れられていく可能性はあると思っています。だからといって急にトップチャート全部がそういうトゲがあるものやクセの強いものになっていくのは違いますが、これは日本のヒップホップやラップミュージックにとってはポジティブな傾向なんではないでしょうか。

田中:でも、それを引き起こしたのがこういう大規模な災害だったっていうのはすごく皮肉ですよね。

※88rising所属のラッパー、リッチ・ブライアンが3月末に始めたTERIYAKI BOYZの楽曲「TOKYO DRIFT」をビートジャックする企画「TOKYO DRIFT FREESTYLE」にタレントの重森さと美が挑戦。リッチの566万回再生を超えて、855万回再生を突破し、世界中でバズっている。

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『ミス・アメリカーナ』予告編 - Netflix
『ミス・アメリカーナ』予告編 - Netflix thumnail
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―――『ミス・アメリカーナ』が公開された頃から、自らの政治思想を表に見せることを解禁したテイラー・スウィフトが最近したツイートもダイレクトにトランプ米大統領を非難したことで話題になってますね。

日高:アーティストも政治的意思表明をSNSなどを通じて、発しやすくなったことはポジティブに捉えています。と言ってもこないだの法案改正のハッシュタグのときに、芸能人が、不特定多数の顔の見えないところから「芸能人なんだから芸だけやって、政治に頭を突っ込まないで欲しい」みたいな誹謗中傷もたくさんあったのも事実ですが、でも若い子たちは今回のコロナ禍でよその国の事情や対応をリアルタイムで見て、社会で起こってる全ての出来事が他人事じゃなくて、自分の事であるっていう当たり前の事に気づくきっかけになったのではと思います。

※SNS上で反トランプの意思表示をするかしないかで、スタッフと論争をするテイラー・スウィフトの姿も映し出されたドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』。その後、トランプ大統領はテイラーに「彼女は歌を歌っているだけだから、よくわかっていないんだろう」と言った。

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Lady Gaga Talks Quarantining in Her Office and Doubles Down on Kindness
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田中:普段、海外のニュースを見ない人が、初めて日本と海外の状況の違いを知った、みたいなことはここ数ヶ月たくさんありましたよね。例えば、アメリカだと大統領自体は補償とかそういったことに関して、アクションは割と遅いんだけど、州ごとにその保証の対応が違うとか。そういうことから、それこそアーティストのリアクションだったり。

日高:自分が生きている環境に精一杯だと、違う環境の視点が見えないことって多々あると思うし、それはこれから先も世界共通であることだと思うんですが、皆が共通意識として「何かこれやばい」と問題意識や疑問を持つこと自体は、ポジティブなことかもしれません。もちろん状況自体はポジティブなことではないですが……。

※2020年4月6日、世界保健機関WHOなどと提携してチャリティに励むレディー・ガガは、司会者ジミー・ファロンとの対談で裕福なセレブと困窮する人々の状況は一緒ではないとして、格差の問題を指摘。

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4 ライブができない今、ファンとのフィジカルな繋がりについて

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Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical (Full Event Video)
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―――例えば、最近だとゲーム『フォートナイト』内のトラヴィス・スコットのライブが世界的に話題になったりしましたが、当分はCOVID19と共存していかなきゃいけないなかで、フェスやイベントはどう形態を変えていくと思いますか。

田中:この質問って3つに切り分けるべきだと思うんですけど、それは多分日高くんみたいに実際のコンテンツを作ってる人たち、大型のフェスとか運営してる産業の人たち、全体を支えてるオーディエンス。その3つのそれぞれが存在してで出来上がってるカルチャーだから、その3つの立場から言えることがあると思うんですよ。

―――なるほど。

田中:例えば運営面でいうとライブネーションは、早くても来年2021年の後半のタイミングで、以前に近いことを段階的にやってくことになるだろうと思ってるみたいなんですね。やっぱり大きな産業というのは、そういう風な大きな計画を立てなきゃいけないんですよ。立てていかないと、実際そのライブ・ネーション(世界最大手のライブ・エンタテインメント及びEコマース企業)とか20%の人を解雇してる状態です。

※4月24日~26日、『フォートナイト』内で開催されたトラヴィス・スコットのバーチャルライブ『Astronomical』はリモートワークによって作られた。同時接続数1230万という記録は、現実のコンサートイベントの史上最高レコードに。

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Billie Eilish & Finneas perform "Sunny" | One World: Together At Home
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日高:アーティストとして言うと、激流の時代の流れは止まらないと思うので、いつ再開できるかわからないライブやフェスのスケジュールをしっかり立てるというよりは、「じゃあ今できるライブのベストは何かな」って考えいます。例えば、家でやるならどういうテクノロジーでどういうプラットフォームでどうやろうかなとか、それに向けてどういう曲作ろうかなっていうのを、プカーって浮いて、流されてく先の岸を選ぶとか、お腹すいたから自生してる藻を食べるとか、流されながらやってかないと、無理な気がします。

田中:アーティストはまさに日高くんの言った通りで、その時々流されながら、その時々の判断を積み重ねていくしかないと思います。

日高:はい。自分でやるものに関しては判断のデッドラインもあるわけじゃないですか、そういうときはギリギリまで粘って答えを出すようにしてます。例えば会場の賃料とかもあるわけで、決断の連続ですね。もちろん、来年のスケジュールの話も事務所としたりしますが、延期してずらし込んだスケジュールもダメという可能性があることも心折れないように、想定してお話してます。

※4月18日に開催されたWHOとグローバル・シティズンが主催した慈善コンサート「One World: Together At Home」に、ビリー・アイリッシュも出演。COVID-19パンデミック対応に当たる医療従事者などへの支援のためのコンサートであり、全世界のYouTubeで生配信された。

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「この道」(Social Distancing Version)  佐野元春 & ザ・コヨーテバンド
「この道」(Social Distancing Version)  佐野元春 & ザ・コヨーテバンド thumnail
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―――ではフェスやライブを楽しみにしていたオーディエンスに関しては、どういった方法で待っていたらいいと思いますか。

日高:みんなフィジカル体験は得がたいものだと思うし捨てがたいものだと思うから、どっかで戻ってくと思うんですよね。

田中:ただいつ戻ってくるかわからない今は、やれることの楽しみを見つけるってことにフォーカスすべきだと思います。それで、その彼らが今やれることの楽しみのなかで、アーティストをサポートできたりとか、産業をサポートできることもあるから、そこに軸足をおくべきかなと。オーディエンスが「早くフェスが再開するといいよね」とか思ってるのとはちょっと反動的かもしれません。

日高:オーディエンスって楽しむ側の人たちだから興行に対する責任はないわけじゃないですか。なので、好き勝手に要求していいし好き勝手に怒っていいと思います。ただ、日本とか韓国って例えば音楽だとファンダム文化が強いから、そういうところの応援の仕方に変化がでてくるんですかね。

※4月8日、日本人アーティストではいち早く、佐野元春&THE COYOTE BANDが新曲「この道」をYouTube公開。それぞれの自宅からインターネットを介したマルチレコーディングによって制作したもので、楽曲の完成から動画の公開までを、わずか2週間で収録。「この曲で、コロナ禍で疲れた人たちを応援します」とリスナーへメッセージを送っている。

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田中:日本でいうと例えばアーティストやアイドル側がインスタライブなどで、ファンと触れ合うって形が日本では自粛中に多かった気がします。


日高:アーティストや運営する人たちがそういうものにしてしまったのか、オーディエンスがそういうものを望みすぎてそうなったのか、どっちが先かわからないから議論が難しいのですが、 自分がやってるインスタライブと海外のものとの完成度の差に愕然としてしまって。その危機感があったおかげで自宅で出来るライブとしてのクオリティを高めた自宅ワンマンに繋がったのはよかったですが。


田中:やっぱり海外はインスタライブに関してもバリエーションありましたよね。ちょうどデュア・リパのライブとか見てて、彼女の新作は今のアッパーでフィジカルな集まりを称賛するようなレコードで、このタイミングに一番合わなかったんだけど、彼女はコロナ禍にリリースして、そのあとにインスタライブ何回かやったんですよ。で1回目はすごいロウキーな感じでやっちゃって、「全くなしってわけじゃないけど良くなかったよね」って話になったんだけど、その次にもっとガッツリダンサーまでつけたようなのをやる、みたいな。段階的な学習みたいなのがあったりしたのがオーディエンスとして観ていても面白かった。

※ジミー・ファロン司会の米人気トーク番組「ザ・トゥナイト・ショー」で最新アルバムから「Break My Heart」を自宅から披露。デュアはグリーンスクリーンの前に座って熱唱し、バンドとダンサーも後ろのスクリーンで参加。

田中:リアーナとチャーリーXCXがそのへん非常に面白いことをしていて。自粛中にHBO Maxでセレーナ・ゴメスがお料理ショーみたいなのを始めて、それはそれでイマドキっぽいじゃないですか。それで、それに対するパロディをリアーナがしたんだけど、口から物を吐いたり、裸でお尻をブルブル振るわせて見せたりする。明らかにファンとのコミュニケーションを、対等に、何なら文句を言いあえるような関係にしようとしてるんですね。「いつアルバムが出るの?」みたいなファンがコメントを送ってくるんだけど、それに対して「ふざけるな」みたいな。「今自分がアルバムを出すことよりも世界を救う方が大事なんだ」ってひとりづつファンと喧嘩を始めるっていう。なかなか日本ではできないというか、リアーナしかできないことでもあるんだけど、そういうやりとりは観てて面白かった。

日高:チャンスザラッパーもよくファンにキレてるイメージがある。 そういうファンとのある種の信頼関係もアーティストが積み重ねてきたものであると思うんですが、もっと日本って即物的な繋がりが多くて。それこそ「○○して」って言われてただ芸能人がやるだけみたいな、主従関係が進行していくのはちょっと怖いな、みたいには今回色々見て思いました。全部が悪いわけじゃないんですが、危機感は少し感じていて、アーティストとして違う形で頑張りたいなと思いました。

田中:やっぱり圧倒的な表現をした人とは偶像信仰的な関係ができるのも当たり前なんだけど、それと同時にシンプルな関係でいること、そういう、別のベクトルを意識していかないとこの激流時代にうまく回っていかなくなりそうですよね。

※リアーナによるお料理番組のパロディ動画

5 演者のメンタルヘルス問題の受け取りかたについて

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Ariana Grande & Justin Bieber - Stuck with U (Official Video)
Ariana Grande & Justin Bieber - Stuck with U (Official Video) thumnail
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―――日本やアジアのファンダム特有の文化として、アイドルやスターは握手会やファンとの会話などの直接的な繋がりを求めるところがコロナ前にあったと思います。そういった関係性に違和感を感じたのはなぜですか。

日高 なんでそれに問題意識感じるかというと、そういうメンタルヘルスに対する意識が欧米とアジア、特に東アジアで大きく違くて、アイドルの子だったりTVに出演している子が自殺しちゃったり。日本でもそういう(ファンやヘイターとの関係で負った)精神的な痛みとか、メンタルのやられ具合とかを表に出せない人が圧倒的に多いし、出せないだけで病んでるっていうのはいっぱいあって。

田中 それこそ海外だと、メンタルヘルスに関するセレブたちの発言も多くて、ケアに関して具体的に議論していますよね。ビリー・アイリッシュだったり、セレーナ・ゴメスも言ってたりする。

日高 例えばジャスティン・ビーバーが完全に自分の都合だけでツアーやめちゃうということもあった。この決断ってもしかしたら極端にも見えるけれど、彼としては今この決断をしないとメンタルがやられちゃうから無理みたいな感じだったのかなって。プロ意識としてと問われると答えるのは難しいことだけど、人間として、そのやらないという判断は絶対に正しいと思います。

※アリアナ・グランデとジャスティン・ビーバーが、新型コロナウイルスに最前線で立ち向かうファースト・レスポンダーの子供たちを支援するために、リリースしたチャリティ・シングル「Stuck With U」。

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そこにいた 20200115 -SKY-HI
そこにいた 20200115 -SKY-HI thumnail
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田中 プロフェッショナルとしてもベストなものができないんだったらやらないっていうのも選択のひとつではありますからね。その2つの選択をアーティストサイドが持ててるっていうのが良いんじゃないですか。

日高 日本で置き換えて言うと、精神的な痛みに対して「これこれこういう傷とかがあったのにそれを噯にも出さず、全うした」みたいなのが結果としていいとされがちで、それを美談として消費しちゃうのは本当に危ない。良い悪いで確実に言えることがあるとしたら、不幸な人はひとりでも少ないほうがいいし、幸せな人はひとりでも多い方がいいし、アーティストや芸能人が自分の才能以外のことで続けられなくなるのは不幸なことだって思います。それこそ海外でも「27クラブ」(27歳で亡くなったミュージシャン、アーティスト、俳優)の死という歴史的な事件も数々あったわけですから。東アジアもこんだけアーティストやアイドルの精神的な苦しみみたいなのが表面に出てるんだから、もうちゃんとしないとヤバイと思います。

※1月の時点で既に制作していたと話す、「#Homesession」後にすぐに配信した「そこにいた」は今の状況にマッチする部分があるがゆえに、暗く響いてしまのではないかという心配もあったそう。(4月10日配信)

6 アーティストの作品作りにファンが参加する時代に!?

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―――では日本のミュージックラバーに関してですが、「withコロナ時代」とも呼ばれる現段階でどういった音楽の楽しみかたができるか、お2人からお聞きしたいです。

田中:僕はやっぱりオーディエンス、つまりは受け手、観客なわけですけど、もっと能動的に参加していくということでしょうか。例えば、冒頭でもお話ししたチャーリーXCXは、インスタグラムのストーリーズ機能とフィードを駆使して、ファンと一緒に作ったんです。

―――シングルのジャケットのデザインをZOOMでやりとりしている様子だったり、デモに関するみんなからの意見を聞いたりしているところも公開してましたよね。

田中:彼女はポップアーティストで自分から発信する存在でもあるけど、オーディエンスの力を受け取って跳ね返すものだっていう意識もあると思うですね。で、作家は、作品自体のクリエイティビティはとても重要なことだけど、それより大事なのは、観客の喜びだったりファンの能動性を促すことだと思います。

日高:なるほど。

田中:それこそ日高くんのファンが日高くんの発信を受け取るだけじゃなくて、日高くんの今までのミックステープだったり、Spotifyでプレイリスト作って、自分のSNSにUPするみたいなこと。で、それに対して日高くんが反応したりファン同士で反応してその積み重ねで、いいものが生まれていくとか。

※チャーリーXCXのアルバム『how i'm feeling now』は、4月6日に制作プロジェクトを発表し、5月15日リリースを約束。今作のグッズ収益のほか、使用したアートワークのオリジナルをオークションにかけてチャリティに回した。

―――そう聞くと、オーディエンスやファンがやれることと楽しみかたって、コロナ禍でもたくさんありますね。

田中:だから今回、チャーリーXCXのアルバムの作りかたを見ていて、「チャーリーXCX自身はもちろん、ファンも超かっこいい!」って思ったところがあるんですよ。

日高:それで言うとちょっと前ですが、ブラックピンクのLISAのファンが作った動画も今でこそよく見る手法かもしれないけれど、こういうファンアートとかは加速化していきそうだし、それも含めて、作り手と受け手の繋がりかたがもっと人間対人間になってくと思います。それこそ、音楽ビジネスの在り方も変わるから、より、アーティストがやってることに対して直接対価、お金を払うみたいなことも多分増えていきそうですね。

―――それは今オンライン上で言うと、例えば課金とか投げ銭システムですかね。

日高:MOROHAとかは、既に投げ銭で新曲出したりしてるんだけど。なんかより直接的にはなってくると思う。今って多分、応援している人がお金を払って観たり、聴いたりしてるものが、直接的なコミュニケーションであるっていう実感がある人って少ないかなと。だからこそ、即物的なインスタライブとかのコミュニケーションに意識が向きやすいと思うんだけど、実は今までもこういったコミュニケーションはされていて。

※件のブラックピンクのLISAのファンアート

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MOROHA「主題歌」MV【投げ銭リリース】
MOROHA「主題歌」MV【投げ銭リリース】 thumnail
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日高:ライブで「バスや電車に乗って、家から俺のライブ会場きて、チケットのお金を払って、この人とこの空間にいる2時間にいくら費やそうと思ってくれた瞬間に、俺がアーティストになる」みたいな話をよくするんですけど、そういうコミュニケーション方法は今までもずっとあって、だから俺のファンはそういう気持ちを持ってる人が多いとは思うんだけど、そのコミュニケーションがより可視化されてくと思う。ライブの投げ銭とかってわかりやすいじゃないですか。良いパフォーマンスを見れたからこれくらいだそうって、だから本当は美しい関係性であるんじゃないかな。

―――アーティストもそれに対して、しっかり結果を出していかなきゃならないとってなりますね。

日高:だから配信ライブだからこのレベルだろう、みたいなのを塗り替えていかなきゃならないし、人間としては普通に嫌だけど、例えば不甲斐ないパフォーマンスしたら缶が飛んでくるみたいに、本来ライブはもっとピリピリしてても良いものだと思うし、そういう音楽のためとか、文化芸術のためとかにアーティストとして頑張らなきゃいけない。

※MOROHAの5月18日にリリースした新曲「主題歌」は投げ銭方式を導入し、音源は彼らのオフィシャルサイトで公開した。

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SKY-HI自宅ワンマン -2020.05.06- (SKY-HI One-Man Show at Home)
SKY-HI自宅ワンマン -2020.05.06- (SKY-HI One-Man Show at Home) thumnail
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―――人間対人間の対等な立場で作り上げていくということですね。

田中:ファンとの距離が短くなったことはそもそも距離があるとかそういうのじゃなくて、そこに回路が生まれたことが一番大きいと思う。どちらか一方通行じゃなくて、その方法をアーティストも模索すべきだし、ファンも一緒に模索するとアフターコロナに、もっと楽しいことが待ってるって感じがしますね。

日高:そうですね。全部画面の向こう側の人が同じひとりの人間であるって思う必要は絶対にあると思ってて、「芸能人だから何言っても平気でしょ」みたいなので傷ついたりもそうなんだけど、絶対保証できるのは、楽しむ側もそっちの意識の方が絶対楽しいから。インスタライブの向こう側の人も皆、環境はぜんぜん違えども、同じように生まれて同じように育っていて、同じ人間としてのもがいたり、喜んだり。そういうファンの人間としての感情をアーティストも想像しながら、音楽に投影して、それを一緒に楽しみたい。そのためのサポートをするとか、そういう風にお互い対話して影響しあっていったたほうが絶対に楽しいと思います。あんまりコミュニケーション方法を白とか黒で言い切れるものではないから、すごい別に歯に布着せてるつもりないんだけどそういう表現になっちゃうの申し訳ないんだけど、人間同士の付き合いとしてもっと前向きな付き合いかたができてくような気がしてます。

※SKY-HIが5月6日に、 3時間に渡って開催した”SKY-HI自宅ワンマン”ライブ

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