私って「コロナうつ」? 不安定な時代を乗り切るためのメンタルケアTIPS6
コロナ禍によって長期化している自粛ムードや、日々流れてくる様々なニュース。先がどうなるか見えなくて、気持ちが落ち込んでイライラしたり、ストレスからつい食べ過ぎたり……。そんな状態が続くことを「コロナうつ」と呼ぶようになりました。それでも、しばらくはコロナや見えない不安と付き合っていくことになりそうです。私たちは一体どうやってこの時期を過ごしていったらいいの? 公認心理師として多くの女性達のメンタルヘルスに関わってきた枚田香さんに心のケアやライフスタイルへのヒントをもらいました!Text: Rie Kumada
▼今回お話を伺ったADVISER
枚田香(ひらた かおり)/一般社団法人おおさかメンタルヘルスケア研究所理事。公認心理師・臨床心理士・大学講師。関西学院大学文学部教育心理学科卒業後、総合商社広報室に勤務。退職後はIT革命に興味をもちパソコンインストラクター、ライターに転職。長時間労働による“うつ”が問題視される中、2003年、出身大学の大学院で心理学を学び、教育心理学修士の学位を取得。2006年、働く人のメンタルヘルス支援を目的に起業。現在はメンタルヘルス研修講師、大学の心理学講師、精神科のカウンセラー、職場のメンタルヘルスのコンサルタントとして活動している。著書は、「現代社会と応用心理学4 クローズアップ メンタルヘルス・安全」や「働く人たちのメンタルへルス対策と実務: 実践と応用」など。
米調査によるとコロナ禍で女性の方が不安を感じる割合が高い
「コロナうつ」は医学用語ではありませんが、コロナによる自粛ムードの長期化、ライフスタイルや仕事、人間関係の変化などから気分が酷く落ち込んで、不眠、身体のだるさ、やる気が出ない状態が続くことなどを一般的に「コロナうつ」と呼ぶようになりました。心療内科や精神科の医師が診断する病気としての「うつ病」より、幅広い捉え方で使われています。
日本ではまだ本格的な調査は行われていませんが、欧米では流行初期からメンタルヘルスの問題は重視され、世界保健機関(WHO)は3月に、メンタルヘルスに関する指針を発表し、今後うつなど精神疾患の患者が増えることに危機感を持っていました。
米国のカイザー・ファミリー財団(KFF)が4月に発表した調査では、感染拡大で精神的な悪影響を受けた成人が45%いたと報告されていました。中でも特徴的だったのは、女性の方が不安を感じる割合が高かったこと。コロナ禍による不安やストレスで精神的な悪影響を感じていたのは、女性54%、男性37%と差がありました。18歳未満の子どものいる親で睡眠不足や食欲不振、感情のコントロール困難など何らかの悪影響を感じていると答えたのは、母親69%、父親51%と、家庭の中でも女性がつらさを抱えていると示されています。
今も、感染者数は各地で増減を繰り返し、収束する見通しは立っていません。このような中で、私たちはどう過ごし、混乱するコロナ情報と付き合っていったらいいのでしょうか? 枚田さんに尋ねたところ、「今こそ、自分自身の心の持ち方を捉え直すチャンス」と、コロナ以前では見落としがちだった心のケアを考えるのに良い時期という前向きなアドバイスをもらいました。
>>次ページから公認心理師、枚田香さんにWithコロナ時代の女性のメンタルヘルスの向き合いかたについてASK!
【アドバイス①】コロナ禍は“非常事態”、落ち込んでも当たり前
私の行うカウンセリングの現場でも、仕事に影響が出て心身に不調を感じている人、外出自粛によって家族と過ごす時間が増え過ぎて不調を訴える人がいます。人類にとって未知の新型コロナウイルスが流行している今は「非常事態」と言えます。そういう時に、ストレスから食べ過ぎてしまったり、「なんとしても感染を防ぎたい」と強く思って何度も手洗いや消毒を繰り返したりしてしまうのは、生存本能を持つ動物である人間なら誰にでも起こり得る防衛反応で、私も同じです。
もし、あなたが「こんなに落ち込んでるけど大丈夫なのかな」、「感染が怖くて過剰に反応するのは私だけかな」と思うことが不安に拍車をかけているなら、そのこと自体は誰にでも起こる反応なので、心配し過ぎなくても大丈夫ですよ。
【アドバイス②】不眠などの症状があれば受診、話を聞いてもらいたいならカウンセリングを
ただ、「こんなに苦しいのに、みんなの不安と私の不安は一緒じゃない」と思う方もいるはずです。そのような方には、私たちのような心理の専門家に自分の心の中をしっかり聞いてもらうことをお勧めします。ただ、中には不眠が数日続く、働けなくなるなど、明らかに日常生活に支障をきたしている人もいます。その場合は迷わず心療内科や精神科の受診をお勧めします。もし「病院やクリニックは敷居が高い」と思ったら、医療機関に併設されているカウンセリングルームから入っていくと抵抗が少ないと思います。医療機関にいる心理職なら、必要に応じて医療機関につなぐことができます。(カウンセラーをお探しのかたはこちら)
【アドバイス③】自己肯定感は他人に求めるより、“自給自足”がオススメ
人には多かれ少なかれ、「誰かに自分を分かってもらいたい、理解してもらいたい」という気持ちがあるものです。ただ中にはとても強くその思いを持つ人がいます。コロナ禍は、多くの人の精神的な余裕を奪ってしまったので、余計にそれが表面化したと感じています。
コロナが話を複雑にしているのは、そういう思いをストレートに表現するのではなく、「自粛警察など他人への攻撃」「感染予防など自分の行動の正当化」によって表現している人が多い事です。例えば、「パートナーが手洗いをしてくれない」という言葉の裏側には「彼が私を思いやった行動をしてくれない、私の事を理解してくれない」という思いがあったりします。本当は「私の事をきちんと受け止めてくれている、考えてくれている」と、相手から尊重されていると感じたいのです。でも、本人も自分の心の動きに気付いていないことも多く、自分を正当化しやすいものを探します。コロナ禍なら「手洗い」と言えば周囲が賛同してくれやすいので、「それは酷いね」と友人から言ってもらえたり、パートナーに自分の要求を正当なものとして表現しやすいです。「自粛警察」をする人たちにも同じ心の構造が見え隠れしています。
この傾向は、育った環境の中で親や周囲から「認めてもらえていない」と感じている人に出ることが多く(生まれ持った気質としてそう感じやすい人も一定数います)、カウンセリングの現場では「自己肯定感」というキーワードに行き付くことが多いです。自己肯定感とは、自分で自分のありのままを認め、受け入れることができている感覚です。クライアント(カウンセリングを受ける人)から「私は自己肯定感が低いから自分を受け入れられない」と言われることがあります。
でも、こうした他人から認めてもらう方法は、自分にとって本当の意味での安心につながらないことが多いです。私はよくクライアントにお伝えしますが、基本的に他人を変えることは難しいです。パートナーから自己肯定感を得ようとしても期待通りにならないことが多く、人は常に変化するので他人に気持ちを埋め続けてもらうのはリスキーです。だから私は、「自己肯定感の“自給自足”をしましょう」と言っています。
かといって、無理やりポジティブになるのはお勧めしません。ネガティブな感覚を持つのは当たり前だからです。狩猟生活をしていた頃の人間は、不安や変化を恐れる感覚から命の危機を察知し、生き延びてきました。ある意味、適切に不安や恐怖を感じられる慎重な人の方が、生存する確率が高かったとも言えます。このため、脳は変化を恐れ、不安があれば取り払いたいと感じるようにできています。ネガティブな気持ちになるのは人間が生き延びてきた証であり、重要な機能なのです。
要は、ネガティブとポジティブな気持ちのバランスが重要なのです。ネガティブな気持ちは、ボコボコにやっつけてなくすものではありません。それもあなた自身として、「ネガティブでもいいじゃん」「ダメな自分でもまあいいや」と、自分で欠点だと思う部分があっても、それも自分の一部と認めていくことが重要です。
でも、自分で自分を認めるって、難しいですよね。特に日本は小さいころから公私ともに他人からの評価にさらされる機会が多いので、簡単ではないと思います。でも、これは単純に自分の心の反応のクセなので、自分で修正できます。
私がお勧めしていることに、生活の中での「良いこと探し」があります。誰でも、生活していたら一つは良い事を見付けられるはずです。素敵な景色を見た、この音楽で気持ちがアガる、ご飯が美味しかった、ぬいぐるみのもふもふが好き、など自分が心地良い、楽しい、と思う事ならなんでもいいのです。それを寝る前に一行でいいから日記や手帳などに書いていくと行動化、視覚化できて良いです。インスタやツイッターに毎日投稿していくのもいいでしょう。そんな気も起こらないなら、とりあえずこれを読んでいる今、「ありがとう」と言うか、無理にでも顔を笑わせてみてください。脳は、身体の反応に理由をつけたがるクセがあります。それだけで気持ちが上向きになったり、勝手に何か良い事を見付けてくれたりしますよ。
【アドバイス④】ネガティブ思考はただのクセ。心の“筋トレ”でいくらでも変われる!
これを“心の筋トレ”だと思って日々地道に続けていくと、そのうちネガティブに捉えていたことを、自然にポジティブに感じるようになっていることに気付く日がきます。そうすると自分が心地良く過ごせるなり、周囲の人も楽しく過ごしているあなたにポジティブなかかわりをしてくれるようになります。
“筋トレ”と書いたのは、ダイエットで体脂肪率を落とすのと同じで、時間がかかるからです。スポーツやダンスで体の動き方にクセがついてしまっていると、修正に時間がかかるのと同じです。地道に心を筋トレしていくことで何が起こっても物事を前向きに捉え、変化に動じないメンタルを作っていけます。心と体は連動しているので、肌の調子がよくなったり、自信がついて姿勢がよくなったりします。
コロナ流行の今後は誰にも予測できないものですから、これをチャンスと捉えるのも一つの考え方です。ネガティブに物事を捉えやすいこの時期、自分の心の動き方が見えやすくなっている今は、心の筋トレに良いタイミングだと思います。
【アドバイス⑤】在宅ワークにオススメの、気持ちの切り替え方法
・仕事の前後で服を着替える……私もこうしていますが、気持ちの切り替えができます。
・会社のパソコンは、仕事が終わったらお気に入りの布などをかけておく……自分の家というリラックス空間に職場のものがあると、テリトリーを侵食されたような気持になりやすいです。終わったら、自分の好きなもので覆ってしまうと気になりにくくなります。
・終了後に飲み物で気分転換……終わったら、毎回この飲み物を飲んで落ち着く、などと決めておくと美味しくて落ち着くだけでなく、体がオンオフを覚えるのでいいですよ。
・終了後にアロマを使う……女性は男性よりも嗅覚からの影響を大きく受けます。終わったら、リラックス効果の高いラベンダーなど、自分の好きな香りならなんでも良いので嗅ぐとリフレッシュできます。
このように、仕事のオンオフを切り替える“儀式”があると在宅ワークが楽になります。習慣化する、自然に切り替えられるようになってきます。また、太陽の光を浴びずに過ごしていると、うつになりやすいことが医学的にも明らかになっています。在宅ワークでも、散歩などで日光を浴びることをお勧めします。
【アドバイス⑥】スマホやSNS、今こそ積極的に離れる時間を持ってみて
コロナ禍で様々なニュースが氾濫するようになりました。私は、スマートフォンは触る時間を決めておくなど、なるべく離れる時間を作るよう勧めています。なぜなら、人は情報を集める時、無意識に自分の考えを肯定する情報ばかり集めてしまう「確証バイアス」と呼ばれる心の働きがあるからです。特に今は不安になる情報が多いので、自分の感じた不安の“証拠”を突き止めるような情報ばかり検索しがちです。これに拍車をかけているのが、ヤフーニュースなどニュース系キュレーションサイト・アプリ、iPhoneのSiriなどアシスタント機能で、自分が見たニュースの内容を記憶し、似通った情報ばかり流してきます(「フィルタリング」という機能です)。YouTubeの関連動画もそうですし、一度見た通販サイトの商品が何度も別のサイトの広告で上がってきたことがあると思います。機会があったら、他人の端末のニュースサイトを見てみてください。全く違うニュースばかりで驚くはずです。その意味で、ニュースをオンラインで見るなら、新聞社のホームページから見るなど、フラットに情報を掲載しているサイトがお勧めです。
SNSもやり過ぎると他人の投稿や自分の投稿への反応が気になって何度も見てしまい、そのうちメンタルヘルスに影響を及ぼすので、時間を決めて関わることをお勧めします。どうせなら「良いこと探し」の投稿に使うと、そのうちネタ集めのために日常の中で良いことを探すクセがつき、前向きな気持ちで日々を過ごせるようになりますよ。
なんでもスマホで情報を得られるようになっている私たちは、「不安でいること、答えが見えないこと」に我慢できなくて、とにかく早く答えを求めるクセがついてしまっています。でも実際の世の中は、はっきりした答えが見つからないことの方が多いものです。少し立ち止まってスマホから離れ、種から植物を育ててみたり、料理をするなど、じっくり時間をかけて何かと付き合ったり、取り組んでみることで心が落ち着くこともあります。
コロナ禍は先が見えませんが、この時期をどう過ごすかでこの先が変わってくると思います。何か一つでも嬉しい、楽しい、よかった、と思うことを見付けながら生活していくことで、あなたがより素敵な女性になってもらえると嬉しいです。