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Vittorio Zunino Celotto//Getty Images ミシェル・ロビンソンを「母性」とか「妻」といった言葉で括るのは愚の骨頂。というのも彼女はそもそも夫以上に才能ある弁護士であり(社会が成熟していれば彼女の方が大統領にふさわしかったのではと思えるほど)、独立したひとりの才ある人間だったのだから。彼女は将来への道筋を、夫の夢や家族のため、自分に掛かった制約内で出来うる最上の結果を見出す方向に転換せざるを得なかった“だけ”。
ミシェルはホワイトハウスを去ったあとこう笑いながら訴えた。
「結婚して子供を持ったら、人生プランは立てる度に全部崩れてしまうの。とくに夫がすべてを飲み込んでしまうキャリアの持ち主だった場合はね」
(画像)『マイ・ライフ』出版記念ツアーの一コマ
Aflo ミシェルが焦燥感を抱くほど能力に自信をもち、それゆえに悩んだことは著書でも嫌と言うほど描かれているし、それ以上に原題『Becoming』(邦訳がなぜか『マイ・ストーリー』となっているため伝わりづらい)によく表れている。
政治家の妻になるまでに彼女は「あなたは高望みよ」とアンダーエスティメイトした進路指導担当者をプリンストン大合格で見返すと、その後ハーバードに進み、創設は19世紀に遡る巨大法律事務所に就職。文句のつけどころのない道を歩んでいた。
Aflo 幼いころから父と自分が信じたその賢さと勇気で自分のなりたいものに「なって」きた才女だった。
ところが仕事先でバラク・オバマと出会ってしまったことで、人生プランを変更せざるをえなくなる。バラクが強引に変えていく道筋に沿った自分に「なる」ことでベストな結果をもたらすことに決めた。
Aflo 如何にバラクが無邪気にミシェルの人生を浸食していったのか。決して彼女がそれを甘んじて受け入れていたわけではないことがドキュメンタリーに端的に表れている。いくつもあるそんな瞬間のうち、とっておきのシーンはこのような感じだ。
REX/Shutterstock//Aflo 米国史上まれにみる観客動員数を記録した出版記念ツアー。ある会場に夫バラクがゲストとして呼ばれる。しかしゲストの彼は口頭いちばん、キラキラしながら笑い話として「(ここに書かれていることは)僕の視点とは異なる」と口にしたのだ。それに反論する直後、顔を曇らせるミシェルをカメラは逃さなかった。監督の“匂わせ”手腕に脱帽するばかりだが、あの瞬間オバマからかぐわしいマンスプレイニングが香っていた。
カップルセラピーに通うことになったのも納得。
Charles Ommanney//Getty Images そもそもバラクは自分の偉業にミシェルの能力だけでなく、出自までも絡めとった。“奴隷の子孫”ではないバラクが、米国黒人層を取り込めたのはミシェルが文字通りの“奴隷の子孫”の役割をしっかり演じたから。言ってみればミシェルがバラクを大統領にしたようなもの。
Charles Ommanney//Getty Images そのことで彼女が負った黒人としての責任感は、彼女自身を自由な人間ではなく、黒人コミュニティを代表する立場にした。自分の行動を、黒人代表として、黒人コミュニティに所属するものとして「正しく」矯正する日々の苦労は想像して余りある。
Scott Olson//Getty Images また、政治家の妻という肩書のせいで、彼女の最たる魅力の一つである言葉も制限された事実がドキュメンタリーの彼女の言葉から垣間見られる。
彼女が大統領選がスタートした際、妻であるせいでトーンポリシングされたことを受け、自分の言葉を手放して台本を作るようになったのはその一例だ。
Aflo ミシェルのアメリカ人女性最大の権力を最大限活用して羽を広げたイメージはまやかしに過ぎない。
彼女はむしろ、両方の羽根を退化させられたことで飛ぶことができなくなり、ならば海で泳ごうと進化(これにはいろな説があるけれど)したペンギンだったのだ。
(画像)バラクが米国史上5人目の黒人上院議員となった祝いの席で
Universal History Archive//Getty Images それを成功だと称し「おかれた場所で咲け」だったり「才能ある男性を支える“内助の功”を学べ」だったり、女のライフハックとしてミシェル・ロビンソンの半生を利用するのは罪悪に値する。羽をがんじがらめにしたものの責任を無視しているのだから。
これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
ドキュメンタリーの中で老齢の黒人女性グループとミーティングのシーンで、自分と話したいことは何か尋ねると、ある女性が「becoming」と答える。これを「あなたの今後の事よ」と訳した翻訳者は称賛されるべきだ。なぜなら、彼女が自分自身の人生を取り戻し、想定外の曲がり角を曲がらせられながらも、自分のやりたいことをやろうと「becoming」しているミシェル・ロビンソンなのだから。
(映像)Netflixで5月より配信が開始された『Becoming(マイ・ストーリー)』
Hau Dinh//Aflo 今彼女は「オバマ夫人」ではなく、ミシェル・オバマの名前で同時にいくつものプロジェクトを抱え、アクティヴィストとして精力的に活動している。その勢いは増すばかり。自分の名前を取り戻した彼女が世界をどう変えていくのか。期待も増すばかりだ。
(画像)2020年2月 ベトナムの女子支援の活動でジュリア・ロバーツらと
Aflo