ミシェル・オバマが「タクーン」や「ジェイソン ウー」など若手デザイナーの服を次々にまとうファーストレディとして大衆を驚かせていたのがはるか昔のことのように感じる。彼女のNetflixドキュメンタリー「マイ・ストーリー」で、ミシェルは意思伝達のひとつとして衣服を受け入れるようになったきっかけについて以下のように語っている。

「女性を見るうえで、ファッションは未だに重要な要素とされる。おかしいことだけど、それが現実なの」

ミシェル・オバマは自らの選択によって中身と知性のある女性でありながら、同時にファッションも愛することができることを証明し、大きなインパクトをもたらした。

kamala harris at san francisco pride in 2019
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2019年、サンフランシスコでのプライドパレードに参加したカマラ・ハリス。

最近では民主党の副大統領候補であるカマラ・ハリスがファッションを自身の武器として巧みに使いこなしている。2019年のプライドを祝うために彼女が着ていたレインボーカラーのデニムジャケットは象徴的で、説明の必要もないだろう。

カマラはカジュアルな公開討論では履き慣らしたデニムと「コンバース」のスニーカー、それに彼女の鎧とも言えるダークカラーのテーラードジャケット姿で登場し、自分が現実的であることを人々に示している。デニムに「エルメス」のバックル付きベルト、そしてビーズやスタッズで刺しゅうされたジャケットを合わせるのが彼女のスタイルだ。スカートやワンピースの代わりに実用的なシューズやパンツを選ぶことで、自分が利便性や素早さに興味があることを表現する。彼女の選択は質がすべてだ。それらは権力の服であり、余分なものは一切ない。

alexandria ocasio cortez speaks about sexism in july
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7月、アメリカ下院の議事堂で性差別問題についてスピーチを行うアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員。

スタイルアイコンとして台頭する現代のポリティシャン

2020年現在、女性の政治指導者たちは真のスタイルアイコンとなり、良い外見で対価を得ているハリウッドセレブやスーパーモデルよりも広く影響を及ぼしている。彼女たちはビヨンセのレッドカーペットの服装を見てもショッピングに行こうとは思わない消費者層に受けている。鮮やかなカラーパレットと、シンプルなテーラーリング、そして大胆なリップカラーが彼女たちのシグニチャーだ。政界の女性たちは躊躇なくファッションを利用して、非伝統的パワールックを確立しようとしている。(ファッションの分野はかつて真剣さの欠如と同義であると捉えられていた)

アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)はゆったりとした真紅色のジャケットに身を包んで性差別について訴え、ステイシー・エイブラムスは体にフィットしたコーラルカラーのジャケットとドレープが入ったTシャツ(そしてナチュラルヘア!)で自分の野心について包み隠さずに語る。彼女たちは引き合いに出されるブランドになっている。

AOCのお気に入りの口紅は「スティラ」の“Stay All Day Liquid Lipstick”だし、ナンシー・ペロシがトランプ大統領との会談に「マックスマーラ」の赤いコートで臨んだことを知らない人はいない。かつてのファーストレディのように、彼らの選んだものはファッションブログや雑誌で取り上げられる。

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speaker nancy pelosi and house democrats unveil the moving forward act
Drew Angerer//Getty Images
6月、ワシントンDCで撮影されたナンシー・ペロシ。

彼女たちは服を売上にも貢献している。ナンシー・ペロシが2018年の冬のある朝、自分のクローゼットから“あの”コートを引っ張り出してきて、ホワイトハウスに向かったことでカラフルなオーバーコートが人気になった。最近では彼女のマスクとウェアのカラーコーディネイトがネットで称賛されている。AOCの影響で「スティラ」のリップで唇を彩る集団も登場。デボラ・バークス医師のスカーフ使いについては、それ専用のインスタグラムのファンアカウントがあるほどだ。

政界のリーダーたちのファッションのチョイスは、レッドカーペット御用達ブランドや広告とは必ずしも協調しない、という点も重要だ。彼女たちは働く女性たちであり、だからこそ、女性たちは彼女らに注目しているのだ。

coronavirus relief bill
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9月、米上院の動議の採択に出席したキルステン・シネマ上院議員。

ワシントンD.C.の従来の取り澄ました感じは、ファッションを恐れない若い女性指導者たちの流入によって随分と緩和された。

アリゾナ州上院議員のキルステン・シネマは紫のウィッグとマスク姿で議会に颯爽と登場(彼女はソーシャル・ディスタンスの運動をサポートして、ヘアサロンに行っていない)。

トランプ氏に「ミシガンの女」呼ばわりされたミシガン州グレッチェン・ウィットマー知事は2019年2月の施政方針演説で着ていたワンピースに対する批判について、ジェンダーバイアスまみれの“ゴミ”だとバッサリ。その後、TV番組「The Daily Show With Trevor Noah」に、真紅のリップに「ミシガン出身のあの女」と大きくプリントされたTシャツ姿で出演した。

democrats hold unprecedented virtual convention from milwaukee
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グレッチェンウィットマーGretchen Whitmer)ミシガン州知事

アメリカは近い将来、初の女性副大統領を迎えるかもしれない。カマラ・ハリスはジョー・バイデンとの合同プレス発表でお互いにマッチさせたブルーのスーツを着ていたが、オフホワイトのニットシャツとシックなパール×ゴールドのネックレスを合わせた彼女のスタイルは現代性のメッセージを伝えていたことを特筆しておこう。今後彼女が何を着たとしても、パワフルな女性たちはそのスタイルに注目し、彼女の真似をすることになるだろう。

biden harris announcement
The Washington Post//Getty Images
カマラ・ハリス上院議員とジョー・バイデン氏

Translation & Text : Naoko Ogata