11月7日、各報道機関はジョー・バイデンとカマラ・ハリスが2020年の大統領選挙で勝利したことを明らかにした。ハリス上院議員は、正式に次期副大統領となり、初の女性、初の黒人女性、初のインド系アメリカ人、南アジア系アメリカ人、アジア系アメリカ人として、その地位を確固たるものとした。US版『ELLE』では11月号の巻頭企画として選挙前のカマラ・ハリス氏にズーム通話を使ってインタビュー。次期副大統領の考える自由・平等・尊厳と、そのための正義について、我々が持つべき未来への希望について、率直な意見を交わした。
▼こちらもCHECK!!
ベビーカーに乗せられて公民権運動に参加した幼少時代
カマラ・ハリス上院議員は自分のライフワークを幼い頃から始めていた。ストラップのついていないベビーカーに乗せられて、両親と叔父と一緒にカリフォルニア州オークランドの公民権運動の行進をした思い出を語りながら、彼女はまるで家族と一緒に居るときのようにお腹を抱えて笑う。その時、彼女はベビーカーから落ちてしまったのだが(当時は子供用の安全規則は無いに等しかった)、大人たちは抗議活動の熱狂に巻き込まれて行進を続け、小さなカマラがいなくなったのに気づいて彼らが後ろに引き返してきたときには、彼女は当然おかんむりだったという。「私の母は、私がどんなふうにぐずっていたか教えてくれました」とハリス。「彼女が『ベイビー、何が欲しいの?』と尋ねたら、私は彼女をじっと見てこう言ったそうです。フリーダム(自由)!と」
この早熟な子どもは、今ではアメリカの上院員議員となり、今年8月アメリカ国旗に囲まれたほとんど誰もいない講堂の壇上で、女性、黒人、そしてインド系米国人として初めて、民主党の副大統領候補になることを受け入れた。その一週間後には、再び同じ旗に囲まれ、同じ日の夜に共和党全国大会で行われたドナルド・トランプ大統領の演説から注意をそらすためのスピーチを行った。彼女は「正義」という言葉を力強く発して、観衆の目を釘付けにした。それはウィスコンシン州ケノーシャで起きた警察官によるジェイコブ・ブレイクの射殺事件に抗議するために街頭で平和的デモを行う人々の権利を擁護したときだ。「そのことについて話しましょう。なぜなら、アメリカでは黒人の命が完全な人間として扱われたことがないというのは現実だからです。法の下での平等な正義を保証することはまだ実現されていません」
「今この国では、すべての人が、尊厳を持って自分の完全な姿を見てもらうことが非常に重要です」
このインタビューに向け、スピーチを見返しながら、彼女の言葉は最も必要としている人たちに希望を与えるのに十分なのだろうか、と考えた。誰に尋ねるかにもよるが、希望は私たちが共有する痛みに対してナイーブさになるか、あるいは解毒剤になるかのどちらかだが、この4年間、この国で最も弱い立場の人々にとって、希望はますます捉えどころのないものになってしまっている。ハリス上院議員とのズーム通話の間、私は多くの疑問といくつかの信用問題について質問を投げかけた。私は取り繕ったりせずに、まず多くの人が知りたいと思っていることから始めた。この国の裏底しか知らない人々が、どうやって、もう一人の政治家である彼女が正しいことをすると信頼できるだろうか? 狭い視界のなかで生きる人たちが、彼女が彼らを見ていることをどうやって知ることができるだろうか?
ハリスは、画面を覗き込みながら、アフリカのさまざまな文化から学んだ、彼女のお気に入りの挨拶の方法について教えてくれた。「初めて紹介されたときには、『お会いできて光栄です』と言わず『私はあなたを見ています』と言うのです。これは完全な一個の人間として相手を見るということです。今この国では、すべての人が、尊厳を持って自分の完全な姿を見てもらうことが非常に重要です」
ワシントンD.C.に到着後間もなくの“ムスリム・バン”(イスラム教徒追放令)の衝撃
「尊厳」という言葉は彼女がよく口にする言葉だ。彼女は、ワシントンにやってきた初日から人の尊厳に係る権利を守ってきたと語った。「私は(2016年11月に)オリエンテーションのためにワシントンD.C.に来ました。それから就任式があり、翌日には私がスピーチを行ったウィメンズ・マーチがありました。それから委員会に参加しました。(ジョン・F.・)ケリー大将らの承認公聴会もありました。そして、その直後に“ムスリム・バン”(イスラム教徒追放令)が発せられたのです」
トランプ政権が実施した入国制限は、家族や旅行者を混乱させ、空港に閉じ込め、結婚や養子縁組の状況を不確かにしてしまった。それは混沌としたものだった。私たちはそれを様々な報道を通じて見ていたが、そのときハリス上院議員は、ワシントンD.C.のアパートで開梱していない引っ越し用ダンボールに囲まれながら、彼女が何年にも渡って一緒に仕事をしてきた公民権専門の弁護士たちからのひっきりなしの電話に対応していた。彼らは、アメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)の職員によって拘束されたクライアントのことや、いかに彼らが情報を内外から得ることができないかを彼女に訴えた。「カマラ、彼らは我々の依頼人と話をさせてくれないんだ」と彼らは慌ただしく電話してきたという。ハリスはカリフォルニア州の司法長官時代について、「私は行政府で物事を成し遂げてきました」と語った。「そして許可を求めることはしてきませんでした。実際、私が要職に立候補したのはそれが理由です。私は許可を求めるのが苦手な場合があるからです」
実行のためなら手段をいとわず。当時の国土安全保障長官の自宅に電話したことも
彼女は上院において新人だったが、それは彼女にとって物事を成し遂げる妨げとはならなかった。彼女はジョン・F・ケリーの自宅の電話番号を手に入れて、当時国土安全保障長官だった彼に電話をかけた。「彼が最初に放ったのは、『どうやって私の番号を知ったんだ?なぜ家に電話してくるんだ?』という言葉でした」画面越しに彼女が見せた眉をつり上げ、唇を少し歪めた表情から、彼の挨拶が芳しいものではなかったことが伺える。彼女は電話口で「私はアメリカ人の11人に1人を代表する米国の上院議員であり、あなたは今、どうして人々が彼らの弁護士と会わせてもらえないのか、私に説明しなければならない状況にある」と伝えたという。
「あなたが平等、自由、公正を達成したとき、それは私があなたにそれを与えたからではありません。それは、あなたの権利であり、あなたがそのために戦ったからです」
政治的腐敗と警察の残虐行為が一番の関心を引いている今日、この国の人々全員のために一度に戦える強力な擁護者がいるとは信じがたいかもしれない。私たちの誰もが未来を語ることができず、手掛かりを探し、正しい質問を投げかけるよう努力している。私は、我々の公民権を守りたいと願う、いち検察官にとって正義とは何かを尋ねた。ハリス上院議員は微笑みながら、以下のように説明した。「それは自由のことであり、平等のことであり、尊厳のことです。あなたが平等、自由、公正を達成したとき、それは私があなたにそれを与えたからではありません。それは、あなたの権利であり、あなたがそのために戦ったからです。これは博愛や慈善ではなく、すべての人間が神から与えられた権利についての話です。そのための戦いで私たちは集団として何をすればいいのでしょうか? それこそが私にとって正義の意味するところであり、それは人民をエンパワーメントすることです」
「結束は『ホールマーク』のグリーティングカードのような耳に心地よい決まり文句のようなものではありません」
彼女は何度も「人民(the people)」という考えを持ち出した。これは、「結束(Unity)」が生涯のうちに達成されるだろうと公民権運動家の両親に教え込まれて育った子どもから出てくる言葉として驚くべきものではないだろう。結束は彼女の家庭では希望でも願いでもなく、彼らのToDoリストの箇条書きのうちの1つだった。「結束とは『さあみんな部屋に入って。みんな一緒にいましょう』というものではありません。例えば、その部屋にいる一人の人間が他の人間に『ああ、少し声量を下げて。そのことについて話している場合じゃないわ。結束のためにそれについては少し静かに』と言ったらそれは結束ではありません。結束とは、誰もが尊重され、平等な発言力を持つことです。私たちは自分たちの意図についてはっきり認識しなくてはいけません。そしてそれは『ホールマーク』のグリーティングカードのような耳に心地よい決まり文句のようなものではありません」
正義のために闘うことは、自分の義務である
時々、実際にハリス上院議員は「ホールマーク」のカードの中で育てられたように感じることがある。それは間違いなく“マホガニーコレクション”(※1)のカードの一つではあろうが。子供の頃、彼女は「レインボーサイン」と呼ばれる場所を頻繁に訪れていた。そこはカリフォルニア州バークレーにある黒人家族のためのコミュニティセンターのようなもので、ニーナ・シモン、ルビー・ディー、マヤ・アンジェロウのような指導者が頻繁にやってきていた。彼女の名付け親であるメアリー・ルイスは、サンフランシスコ州立大学の黒人研究学部の共同創設者だ。このような強い個性と価値観に囲まれた環境で育ったことが、彼女をどのように形成したかについて聞いてみた。「ある程度、正義のために闘うことに自分を捧げなければならない、というのが当然のことでした」と彼女。「自分を測る尺度というのは自分よりもはるかに大きなものであり、自分が与えた影響や、他人に対して何を奉仕したかが問われます。私はそうやって育てられました。それは慈善や博愛ではなく、義務だと教えられました。そのことについて、誰もあなたを祝福してくれません。それは自分がすべきことなのです」
「あなたが食卓に座って何かを言いたい場合は、あなたはそれを主張するために、あらかじめ準備しておいたほうがベターです」
彼女の家では、自分の考えのための論拠を常に用意しておくことが求められていたが、彼女は今でもその基準を守っている。「あなたが食卓に座って何かを言いたい場合は、あなたはそれを主張するために、あらかじめ準備しておいたほうがベターです。たとえあなたが若くても、年老いていても」と彼女はアドバイスする。彼女はこれまで野心の強さを批判されてきたが、もし言葉を最初に学ぶ段階から、自分が何を信じているのか、そのためにどのように戦うべきなのかを教えられていれば、もっと多くの人が彼女のように、高尚な目標を設定するようになるのかもしれない。
「私が望み、そして祈っていることは、困難な会話を経て、我々がアメリカの本当の歴史に直面するようになることです」
これから決戦の日までの数カ月間、ハリス上院議員にとってどんな日々になるだろうか?想像以上に忙しくなるだろう。バイデン氏と並んで選挙運動をしながら、彼女は 「ブラック・ライヴズ・マター」運動の支持を続けるつもりだ。そして現在、警察の残虐行為をなくすためのいくつかの議論に関わっている。現時点で、彼女は警察と刑事司法の改革を支持しているが、そのうちのいくつかは、サンフランシスコの地方検事として、そしてカリフォルニア州の司法長官としてすでに実施した経験を持っている。正義を追求し、実現するための最善の方法についての彼女の考えは、時が経つにつれ、より進歩的になってきているが、彼女は未だ検察官時代の過去について批判を受けている。彼女は自分の視点を進化させてきたことを恥じず、今の瞬間が終わりではなく、何かの始まりであることを願っている。「私が望み、そして祈っていることは、困難な会話を経て、我々がアメリカの本当の歴史に直面するようになることです」「愛に突き動かされながら、同時に完全に公正な方法でそれを行うのです」
人種差別をなくすために彼女が考える方法とは
彼女は、より多くの白人が人種差別によって自分たちも傷ついているのだと理解すれば、彼らも人種差別的なシステムや行動に対してより積極的に戦うようになるだろうと信じている。そして彼女は、差別が自分たちの生活をも破壊することを理解できないように見える白人、特に社会経済的に困難な人たちに向けた質問も用意している。それは「貧しい黒人女性たちを特徴づけして、ウェルフェア・クイーン(※2)と呼ぶことは、人種に関係なくお腹をすかせた子どもたちみんなを養う公的プログラムに対してどんな影響があると思いますか?」というものだ。私はこれには反論する。私も彼女に同意した時期があったが、今はどうかと聞かれたら私は懐疑的だ。反マスクのデモに参加し、COVID-19によって死ぬ権利を求める人々を見たことがある。その人たちが人種差別の副作用によって自分たちが苦しむことを気にするかどうか私には分からない。私は彼女に、白人が人種差別がどのように自分自身を傷つけるかを理解することで、彼らの心の一部が変わる可能性があると本当に信じているのかと尋ねた。彼女は一瞬悲しそうな顔をして、「私は信じています」と答えた。そして、「でも、それだけが唯一の方法ではないでしょう?」と付け加えた。
世界を救う道は常に一つでははない
昨今、希望は強く求められながらも、人々がそれを手にする機会が少ないと感じているのは、私だけではないと思う。しかし、私たちは今も探し求めている。日々の最新ニュースは、責任者不在のまま、我々のなかで最も疎外されている人々の多くが自力で生きているということを痛感させる。映画に出てくるスーパーヒーローでさえ死ぬ。しかし、「人民」が救世主を必要としないとしたら? 子供たちにヒーローが必要ないとしたら? 本当に必要とされるのは真実のために戦う人たちであり、実際の人権を維持するために働く人たちであり、連邦政府で私たちの尊厳を守る準備ができている人たちであるとしたらどうだろうか? 多くの人にとって、ハリス上院議員が米国の副大統領の役割を担うことは前進の一歩だが、私たちが進むべき道のりは長い。彼女は正しい道かもしれないが、世界を救う道は常に一つでははない。そして、そのことはハリス上院議員に希望を与えている。
大切なのは過去を尊重し、未来に向けて明確なビジョンを持ち続けること
「楽観主義は、私のこれまでの全ての戦いの原動力です」とハリス上院議員は語る。彼女は我々が過去を尊重し、未来に向けて明確なビジョンを持ち続けることを望んでいる。私は彼女がどのようにしてここまで来たのか、決して住みやすくはない場所を選び、そこを自分の家にすることに専念するような人間になったのかを知りたいと思った。「過去から開放されうる未来を強くイメージするとモチベーションが湧きます」と彼女は言う。「故ジョン・ルイス(※3)は、他の多くの人と同様に、あの橋の上で血を流しました。彼はあり得る未来を心から信じていたからです。私たちは時に、ただ何かに対抗しているだけのように感じることもあるでしょうが、私たちを長きに渡って助けてくれるモチベーションとは、自分たちが何のために戦っているのかを知ることです」
自由のために、彼女は戦う
それは私たちにとって何を意味するのだろうか? 彼女は、史上2人目の黒人女性として米国上院議員に選出された夜の話をしてくれた。「選挙のときは、決まって夜の祝賀会の前に家族や友人と夕食を共にするようにしていた」という彼女。ドナルド・トランプが当選しそうになったとき、その出来事は起きた。 「私の名付け子のアレクサンダーが、当時7歳だったのですが、泣きながら私のところに来て、『カマラおばさん、みんなはあの人を当選させるつもりじゃないよね?』と聞いてきたのです。彼らは今までずっと見てきた子どもたちです……」。彼女は目を閉じてぐっと堪えた様子で続けた。「私は彼を抱きしめました。彼がどう感じていたのか、思い返すと今でも心が痛みます。私はこの子どもを守らなくてはいけないと感じました。その晩について、自分の中では、一つの道しか想定していませんでした。しかし、判明したのは別の道筋でした。ですからステージに立つ頃には台本を破り捨て、心の中にはアレクサンダーのことだけが残っていました。私は登壇してこう言いました。『私は戦います。戦うつもりです』」
カマラ・ハリス上院議員について我々が知っていることがあるとすれば、それはこういうことだ。
自由のためならば、彼女は戦うだろう。
【注】
※1「ホールマーク(Hallmark)」の“マホガニー(Mahogany)”コレクションは、アフリカ系アメリカ人をテーマにしたカード・コレクション
※2 公的扶助を受けながら贅沢な暮らしをする黒人女性を揶揄する言葉
※3 公民権活動の重要人物だった下院議員。2020年7月に癌のため亡くなった
Translation & Text : Naoko Ogata
▼こちらもCHECK!!