『パラサイト 半地下の家族』がアジア映画初のアカデミー賞作品賞を受賞し、映画界が歴史的な転換期を迎えた2020年。コロナ禍で映画を見る機会は減ってしまったけれど、『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』『燃ゆる女の肖像』『マーティン・エデン』など、上質な作品は劇場で公開され、勇気と感動を与えてくれた。多くの新作の中でも、エル・ガール編集部エディターと映画ライターの心をとらえたおすすめの10本を一挙に公開!
ヒトラーが友達?ナチス時代に生きる少年の物語『ジョジョ・ラビット』
ナチスの青少年集団に所属する10歳のジョジョが、架空の友人であるヒトラーや家に匿われたユダヤ人少女との交流を通して成長する姿を描く。「子どもたちのみずみずしい演技はもちろん、彼らを支える大人たち(スカーレット・ヨハンソンとサム・ロックウェル)の温かい演技が最高!前半のユーモアとウィットに富んだセリフと物語が楽しいからこそ、後半の展開が胸につき刺さります」「世界がどんなに残酷でも人生は美しい。そんな母親の想いがジョジョに受け継がれたような爽やかなラストに感動しました」
作家をめざす青年の情熱的な恋と人生『マーティン・エデン』
上流階級の娘エレナと恋に落ちた貧しい船乗りのマーティンは、独学で一流の作家になろうと奮闘するが……。オバマ元大統領が今年のベスト映画の1本に選んだ秀作。「ルカ・マリネッリの眼差しの演技と全身から漂う色気にクラッ。ヴェネチア国際映画祭で『ジョーカー』のホアキンをおさえて男優賞を獲得したのも納得です」「『オールド・ガード』では気づかなかったマリネッリの野性的な魅力とセクシーさに開眼!イタリアの自然やヴィスコンティ風な屋敷のインテリアなど、美しい映像も楽しめます」
名作小説が旬なキャストで蘇る!『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
名作小説『若草物語』を、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督が現代的にリメイク。シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソンなど旬なスターが集結!「家族の温かさ、自分らしく生きること、周りの人を思いやること……文字にすると陳腐なことも素直に『大事だよなあ』と思い出させてくれて、心が浄化されました」「外出自粛明けで久しぶりに映画館で見て、清々しい希望で胸がいっぱいに!」「“(小説の)主人公が女性なら、結末は結婚させるか死ぬかのどちらか”と決めつけてくる旧時代的な編集者とシアーシャのやり取りが印象的で、今っぽいメッセージはさすがグレタだと思いました」
格差社会の闇をブラックな笑いで描く『パラサイト 半地下の家族』
豪邸に住むセレブ一家に寄生する貧困家族を描いた、韓国の巨匠ポン・ジュノ監督の傑作サスペンス。「コメディ的な前半の展開からスリリングな結末まで飽きる瞬間がない。貧富の差を地下室と豪邸で比喩的に表現し、視覚的なコントラストを強めたのがよかった」「ぞわっときながらも、不思議と嫌な気持ちにはそんなにならない。社会の闇に疑問を投げかけるストーリー展開は大人なら一度は目を通してほしい!」
孤島を舞台にした女性同士のラブストーリー『燃ゆる女の肖像』
望まぬ結婚を控えた貴族の令嬢エロイーズと、彼女の肖像を描く画家マリアンヌ。フランスの孤島で出会ったふたりの燃え上がるような5日間の恋を描く。「とにかく映像が詩的で美しくて。『キャロル』『アデル、ブルーは熱い色』に続き、女性同士の愛を描いた傑作!」「静謐な世界で繰り広げられる女たちの眼差しのドラマはスリリングで切なくて、胸に迫ります。とくにラストでエロイーズが見せる表情は圧巻!見た後しばし放心状態になりました」
韓国のベストセラー小説の映画化『82年生まれ、キム・ジヨン』
韓国のフェミニズム小説を、チョン・ユミ&コン・ユの人気俳優で映画化。ある日突然、他人が憑依しているような言動をとり始めたジヨンの姿に、女性の生きづらさが浮かび上がる。「同じ82年生まれなので、書籍が話題になった頃から気になり、映画版で鑑賞。働く女性が抱える悩みは社会制度だけでなく『わかってくれない、理解されてない』という感情的なものでもあり、キャリアや収入があるだけでは解決しえない部分があると改めて感じました」
ヒロインの勇気ある冒険に感動が止まらない!『37セカンズ』
ゴーストライターとして自分を押し殺して生きてきた脳性マヒの貴田ユマが、自分の意思で人生を切り開いていく青春ロードムービー。大阪出身で、本作が長編デビュー作になるHIKARI監督は、現在ハリウッドからオファーが殺到中。「個人的に今年見た映画のベスト1。佳山明さんの演技はまるでドキュメンタリー映画を見ているようにみずみずしく、嘘がない。自分の殻を破って行動するユマの“私は私でいい”という表情がまぶしくて、勇気がもらえます!」「過保護な母親から自立する娘の物語としても、他人事とは思えない素晴らしい作品」
美しい妻の愛が歴史の闇を動かす『スパイの妻〈劇場版〉』
1940年の神戸を舞台に、国家の闇を暴こうとする福原優作と、彼と共犯関係になる妻・聡子を描くラブ・サスペンス。今年のヴェネチア国際映画祭で“銀獅子賞”(監督賞)に輝いた。「『朝が来る』『佐々木、イン・マイ・マイン』など邦画が秀作揃いだった2020年。本作も先が読めない展開に次はどうなるの?とハラハラしっぱなし」「2転3転する脚本に、黒沢監督ならではの恐怖演出がさえわたる!とくに嫉妬心から予想もつかない行動に出る聡子の愛ゆえの狂気には愕然としました。高橋一生、蒼井優、東出昌大らの熱演も印象的です」
斬新なヒロイン像に息つく暇ない4時間『本気のしるし 《劇場版》』
会社の先輩と後輩を二股かけるクズ男・辻一路は、不思議な魅力を持つ浮世を踏切で救ったことから人生を狂わせていく。監督は『よこがお』('19)の深田晃司。「上映時間は約4時間ですが、さすがカンヌ映画祭に選出された作品!巧みな話運びと、なにより浮世ばなれして嘘ばかりつくヒロインの本性が謎で、観客も一路と一緒に振りまわされます。見た後は誰かと語りあいたくなること必至!」「基本的にはファムファタルに男が翻弄される話。ただそこに現代的なひねりが加わって面白さが倍増してます。一路役の森崎ウィンさんは今後追いかけたい俳優に」
ミューズが語る巨匠の素顔『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
「20世紀をもっとも騒がせた」写真家の撮影の舞台裏を、被写体になった12人の女性が語るドキュメンタリー映画。「数あるファッションドキュメンタリーの中でも刺激的な作品。とくに“彼との撮影が人生を変えた”と語るシャーロット・ランプリングをはじめ、イザベラ・ロッセリーニ(写真)やマリアンヌ・フェイスフルなど、女たちのニュートン論がどれも深くておもしろい」「ユダヤ人としての生い立ちやレニ・リーフェンシュタールの影響など、伝説的な写真の背景を知ることも」