女性のための法律書『おとめ六法』の著者で弁護士の上谷さくら先生が、法的な目線でガール世代の恋愛やお仕事など日常のお悩みを解決していきます。

今回は、ニュースやSNSで度々話題にのぼる「性的同意」について、先生に聞きました。

<質問>性的同意はどのように交わすべき?

著名人が女性に暴力をふるって活動休止になったというニュースに対し、「自宅までついていった女性が悪い」など被害者を責める声を耳にすることがあります。心身傷ついているのは、女の子なのに「どうしてそんなひどいことを言えるんだろう……どんな状況にしろ手を出した男性が圧倒的に悪い!」、と思った一方で、先日海外ドラマを観ていたときに、レイプされて被害者が加害者を訴えたシーンがあったのですが、「いや、あなたから誘ったように見えるよ……」と思わせる描写がありました。

考え方や受け取り方は人それぞれなので、性的同意はどのように交わすべきなのか、具体的な基準を知りたいです。

<回答>「その相手と今したいか」を確認。同意がない性行為は性暴力になりえる

「性的な行為を今行いたいか」という意思を確認すること。相手の同意がなく無理やり性行為に至った場合、性暴力(レイプ)になり、刑法第177条「強制性交等罪」になりえます。ただし、性的同意の判断基準は法律で明確に定められておらず、レイプを含む性暴力はごく一部しか刑事事件になっていないのが現状です。

被害にあったときや「NO」とハッキリ伝えたのにもかかわらず抵抗できないほど迫られているときは、録音したり、どのような状況だったのか記憶にあることをメモしたりしておくと、有力な証拠になります。(上谷先生)

性的同意ってなに?

みなさんは性行為の際、相手にしてもいいか言葉で尋ねていますか? また、自分の意思を相手に伝えていますか?

性的な行為の際にお互いの意思を確認すべきである「性的同意」。性行為だけなく、キスやハグ、体に触れるといった性的な行為の際はお互いの同意を確認しましょうというものです。同意のない性行為は、すべて性暴力(レイプ)になり得る可能性があります。

先日、Netflixで配信されている「グランド・アーミー」というブルックリン最大規模の公立高校に通うティーンのリアルな高校生活を描いたドラマの劇中で、性暴力について描かれているのを観ました。

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ドラマの中心人物であるジョーイと、仲のよい男友達3人の感情が複雑に絡み合い、4人で乗った夜のニューヨークを移動するタクシーで、ジョーイは男友達に襲われてしまいます。ことのはじまりはジョーイと男友達のうちの1人・ティムが恋愛関係に発展しつつあったものの、タクシーの中でお互いを理解できず口喧嘩となってしまい、ティムに見せつけるようにジョーイが他の男友達にキスをしたところから行為がエスカレート。その場にいたティムは、行為を止めることはありませんでした。

好奇心のまま自由を体現する天真爛漫なジョーイでしたが、この一件が起こった後はまるで別人のようでした。

私はこのドラマを観て、性暴力が心と体にきたす影響を思い知らされると同時に、キスをしはじめたのはジョーイだった状況を振り返り、性行為における同意とはいったいどのように交わされるべきなのか、考える必要があると感じました。

法律で明確に定められていない

性的同意は性犯罪において重要となる判断基準であるだけでなく、カップルや夫婦を含めてどのような関係性でも対等に交わされるべきものです。相手の気持ちを無視するなど、意思がわからないまま無理やり性行為をしてはいけません。

上谷先生によると、法律では性的同意をどのように取るべきか、明確な判断基準が定められていないとのこと。裁判では被害者と加害者の供述、場所や時間などの状況や二人の関係性などの事情を総合的に考えて検討されますが、ふたりきりの状況を第三者が判断することは難しく、ごく一部しか刑事事件になっていないのが現状です。

たとえば道を歩いているときに、まったく面識のない知らない人に襲われた場合、客観的に考えてそれは同意があるとは言えないのでレイプとして立件されやすいです。一方で体液など相手のDNAが残っていれば、セックスをした証拠にはなるけれど、顔見知りの場合に「同意があった」と言われてしまえば立件が難しくなってしまうようです。

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d3sign//Getty Images

しかし、学校の先輩や仕事の上司、取引先の相手など上下関係にあると、「性行為をしたくない」とNOを伝えにくい場合もあるでしょう。急な出来事で体が固まってしまったり、脅されて身の危険を感じたりすると、とっさに抵抗できるとは限りません。

言葉ではっきりと伝えられるのがベストではありますが、強引に脅されている状況だったとすれば、あとでどういうことが起こったのか、思い出せる限り細かくメモを残しておくと証拠として有効です。スマホにメモしておけば、時間もわかります。

トイレや他の場所へ駆け込むタイミングがあれば、友人に連絡を送っておくと「このとき嫌がっていた」という証明になりえます。やりとりを録音する余裕があれば有力な証拠となるでしょう。

また、女性が加害者になるケースも少なくないそう。女性から男性への加害はとくに夫婦間で多く、子どもがほしいかどうかの意見の食い違いや、セックスレスに悩んだ結果、妻が無理やり夫を襲うといった事例もあるといいます。

男性から女性への加害だけでなく、女性から男性、女性から女性、男性から男性と、性別に関係なく性暴力は起こりえます。

男性が被害を相談しても、信じてもらえず茶化されてしまうことがあるようです。セクシュアリティに関する話題は声をあげること自体が容易ではなく、公になっていない事件もたくさんあるでしょう。

性的同意について考えてみよう

私はどのような関係性にあってもYES・NOの意思をお互いがはっきりと確認できるよう、健全なコミュニケーションが交わされる雰囲気づくりが大切だと思います。「雰囲気を壊してしまったらどうしよう……」と不安になりますが、自分の気持ちを伝えて相手の気持ちを確認しながら「もっとこうしたい」と伝えられるようになり、積極的なスキンシップにつながるかもしれません。

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Tetra Images//Getty Images

また、NOと相手に伝えるのが難しい状況もありえるので、YESと伝えたときにのみ「同意があった」と判断するべきでは、と思います。「性的同意はこのように取りましょう」という法律による決まりはありません。だからと言って地位を利用して性行為を要求することはフェアではなく、もしおしゃれな格好をしていたり、相手の家に行ったとしても、それが「性行為していい」「こちらが誘った」なんてことにはなりません。

みなさんはどのようなコミュニケーションしていますか?こうしたディスカッションが、性的同意の理解を深めるきっかけになるのではないでしょうか。

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『おとめ六法』(上谷さくら、岸本学著・KADOKAWA刊)

憲法・刑法・民法といった六法から、女性の一生に寄り添う法律を抜粋し、恋愛や仕事、SNSなど、女性の身に起こり得るあらゆるトラブルへの対処法をまとめた実用書。現代社会を生きるすべての女性の味方となる一冊。


上谷さくら
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上谷さくら先生

弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。