その働き方、違法です! 意外と知らない労働法
あなたのその働き方、違法じゃないですか? ブラック企業アナリスト新田龍さんが驚くほど知られていない「労働基準法」を、セレブの驚き顔と一緒にお届け。
みんな働いているのに労働基準法をきちんと知っている人はごくわずか。今は企業倫理が激しく求められる時代。あなたの会社の働かせ方が合法かどうか、チェックして!
驚き1. アルバイトにも有休はある
アルバイトの方にも有給休暇を付与するのは企業の義務。
ですが、有休がとれることを知らされなかったり、そもそも企業側がアルバイトに有休があること自体を知らない、などというケースもあります。勤務条件が一定の基準を満たしている必要があるので、最後のページの表を参考に自分が取得できるのかどうかを確認してみましょう。
「店長にアルバイトには有休がないと言われました!」なんて告発もたくさんツイッターで届きます。残念ながら、経営者でも知らない人が多いのが現状です。起業したり、店長になるにあたって、労働基準法の試験を受けるわけではありませんから。
(労働基準法 第39条 年次有給休暇)
↓労働法の原文は最後のページでチェック↓
驚き2.「給与から天引き」は違法
社員の同意を得ずに、色々な名目で「給与天引き」をおこなう会社はブラック企業です。給与は、法令で定められた税金、社会保険料など一部例外を除き、全額払わねばならないことが定められています。
たとえば、社員旅行の積立費、研修費、親睦会費、遅刻や欠勤による罰金などは、勝手に天引きすることはできません。しかも、罰金自体原則として違法です(→「驚き4. 罰金は原則違法」参照)
また、店の商品を過って壊した場合の弁償金も給与天引きは違法です。そもそも弁償させることができるのは、スタッフ側が「商品を盗んだ」とか「故意に備品を破壊した」といった悪質なケースで、かつ就業規則の中に「損害賠償請求できる」と明記されている場合だけです。
また連帯責任のような形で、無関係のスタッフも含めた全員で責任を取らせようとするのも違法です。基本的に、会社やお店側にはスタッフを管理監督し、問題が発生しないように対策する義務があります。なので、業務上発生したミスの責任を100%スタッフ側に求めることはできないのです。
(労働基準法 第24条 賃金の支払)
(労働基準法 第16条 賠償予定の禁止)
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驚き3. 正社員にも最低賃金はある
月給制の正社員であっても、都道府県が定める最低賃金を下回っていた場合は違法です。月給÷1ヶ月平均所定労働時間<最低賃金額(時間額)で計算してみてください。
⇒「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」(厚生労働省)
各都道府県によって最低賃金は異なるので、厚生労働省のWebサイトで要チェック。
⇒「地域別最低賃金の全国一覧」(厚生労働省)
(最低賃金法 第4条 最低賃金の効力)
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驚き4. 罰金は原則違法
遅刻、急な欠勤、販売ノルマ未達成… さまざまな理由で「罰金」制度を設けている会社やお店があります。しかし、従業員に対して罰金を科することは原則として違法です。
アルバイトが遅刻や欠勤をした場合、働いていない時間分に対しては給料は発生しません。その分が差し引かれてしまうことは確かにありますが、差し引けるのは「時給×遅刻時間分」に限ります。「遅刻1回あたり罰金○円」というようなやり方をする場合は、就業規則で「減給制裁」の定めが必要です。さらに「1回の減給は平均日給の半額以下」、「1ヶ月の減給は月給の10分の1以下」と法律で決められています。
残念ながら、経営者の不勉強やアルバイトの知識不足、立場の弱さを悪用して罰金や天引きなど労働者に不利益を被らせるケースは多く見られます。しかし上記のようにほぼ違法ですので、おかしいと感じた際は確認し、不誠実な対応をする会社やお店は遠慮なく辞め、生き永らえさせないことです。
(労働基準法 第91条 制裁規定の制限)
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驚き5. 6時間を超えて働いているのに休憩なしは違法
休憩時間についても法律で決まりがあり、働く時間が6時間を超えて8時間以下の場合は「少なくとも45分」、労働時間が8時間を超える場合には「少なくとも1時間」の休憩時間がなければいけない、と定められています。
アルバイトなどでは、シフトによって1日の労働時間が変わることがあるかもしれませんが、その場合はその日の休憩時間の長さも変わるわけですね。
また、休憩時間は「労働時間の途中に取る」ことも決められています。早く出社して業務開始時間までを休憩時間にしたり、業務が終わってから休憩時間になる、といった形にはできません。そして休憩中は仕事から離れて、誰からの指示も受けず「時間を自由に使える」ことが条件です。休憩中なのに電話番をしたり、お客様対応のために待機させることは違法になります。
(労働基準法 第34条 休憩)
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驚き6. 退職届は内容証明郵便でOK
「退職を申し出たのに、会社が認めず、退職届を受け取ってくれない…」。人手不足の今、辞めさせたくないからと上司や会社が退職届を受け取ってくれないケースがありますが、大丈夫。そんなときは、「会社宛に内容証明郵便で退職届を提出する」という手段があります。
法律では、「退職の意思を伝えてから2週間後に辞めることができる」と決められています。たとえ会社が「退職届は受け取らない」と言っても関係ありません。従業員には会社を辞める権利があるのです。
しかし悪質なブラック企業の場合、「そんな話は聞いてない」とシラを切られ、面倒なもめごとになる可能性もあります。そんな時は退職届を内容証明郵便で送っておけば、相手方に届いた時点で法的に退職届が受理された扱いになります。もし裁判になったとしても、「退職の意思表示をした」という証拠が残っているので、あなたが不利になるようなことはありません。
(民法 第627条 期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
(民法 第97条 隔地者に対する意思表示)
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驚き7. 準備や後片付けも労働時間
会社から業務を指示されていた場合の時間は、すべて労働時間としてカウントされます。また、「この仕事を残業してやってくれ」という明確な指示がなくても、仕事上「働かざるを得なかった時間」は、労働時間としてカウントされる可能性があります。たとえば…
・始業前や終業後、制服や作業服に着替える時間
・始業前の朝礼や体操の時間
・業務後の機械の整備・点検や清掃の時間
これらのうち、「業務上の指示によって行われている」「業務の性質上義務づけられているもの」である場合や、「やらなかった場合ペナルティ(人事評価への影響など)がある」かどうかが違法性の判断基準になります。また職種によりますが、次のような時間も同様に労働時間と判断されます。
・休憩中の電話番や来客対応など
・飲食店における開店前準備や仕込み時間
・トラックの荷待ちの時間
・警報や緊急事態に備えた仮眠の時間
・会社からの指示で参加した研修
・仕事が終わらず自宅に持ち帰って仕事した時間
(労働基準法 第32条 労働時間)
↓労働法の原文は最後のページでチェック↓
驚き8.「課長に昇進したから残業代ナシ」は違法
「管理職に昇進したけど、残業代がつかなくなったから逆に手取りが減ってしまった…」というケースがあります。確かに法律上でも、「管理監督者には割増賃金(時間外手当,休日手当)を支払う必要がない」とされているので、「課長以上の役職者には残業代を払わない」としている会社も多いようです。
しかし、この「管理監督者」とは待遇でも権限でも「取締役クラス」の役職者を指しており、課長や店長といった単なる「部門長クラス」は当てはまりません。具体的には、出退勤の時間も自分で決められ、人の採用や解雇を決める権限があり、部門全体の統括的な立場にある人で、残業代がなくなってもそれを上回る十分な報酬があること、とされています。
過去の裁判では、年収1000万円を超える管理職でも、その他の条件が揃わなかったために「管理監督者」と認められなかった事例もあります。責任や労働時間ばかりが重くなり、給料が変わらない管理職は「名ばかり管理職」と言われます。
(労働基準法 第41条 労働時間等に関する規定の適用除外)
(昭和63・3・14 労働省労基局長通達150号)
↓労働法・通達の原文は最後のページでチェック↓
驚き9. 休日に深夜残業したら6割増し
その日の労働時間が8時間を超えていて、かつ労働時間が22時以降の深夜に及んでいる状態が「深夜残業」です。深夜残業した場合はその時間分、普段の賃金よりも高い賃金をもらうことができます。
通常の残業であれば「1.25倍」の割増率をかけた賃金がもらえますが、深夜労働(22時~翌5時まで)になるとそこに+0.25倍の割増率が加わるので「1.5倍」の割増率になります。さらに、その深夜残業が法定休日(法律で定められた週1回の休日)におこなわれた場合、法定休日の割増率「1.35倍」に深夜労働+0.25倍割増が加わり、「1.6倍」の割増率となります。
(労働基準法 第37条 時間外、休日及び深夜の割増賃金)
(労働基準法 第35条 休日)
↓労働法の原文は最後のページでチェック↓
その10. 有休は年に5日消化は義務
働き方改革法案の成立によって労働基準法が改正され、「年10日以上有休が残っていて、その消化日数が5日未満の人」に対しては、企業側が有休の日を指定して、最低でも5日以上は有休を取得させることが義務付けられました。
大企業でも中小企業でも関係なく、来年2019年の4月から施行になります。もし年に5日以上有休を取らない人が出た場合、会社はひとりあたり30万円以下の罰金を取られることになります。 (ちなみに「計画年休制度」といって、あらかじめ日にちを決めて年5日以上の有休を先に付与しているケースは対象外です)
(改正労働基準法 第39条 年次有給休暇)
↓労働法の原文は最後のページでチェック↓
驚き11. 有休の理由を聞いてはいけない
あなたは基本的に、理由なく、会社の許可なく、申請した時期に、有給休暇を取得することができます。これは正社員でも、契約社員やパート・アルバイトでも同じです。
そもそも有休は「会社が従業員に必ず与えなければならない休暇」と決められていますので、与えられている有休日数がルール通りに取得できていなければ、その会社は違法なのです。もちろん、会社が勝手に「ウチは有休3日だけなんだ!」などと独自のルールを作っていても、それが労働基準法のルールと異なっていれば違法であり、罰則の対象なのです。
そして「年休自由利用の原則」というものがあるので、有休取得に理由は必要ありませんし、申請時に理由を聞かれる会社でも、「理由によっては有休をとらせない」というのもダメです。さらに、申請した理由と別の使途で有給休暇を利用したとしても、何も問題ありません。
日程についても、あなたが希望した日に取得できますが、会社は例外的に有給休暇の日程を変更することはできます。ただしそれも、有休を取得することで営業に支障が出る場合で、かつ従業員が有休を取得できるように可能な範囲で配慮している場合だけです。
(労働基準法 第39条 年次有給休暇)
(「林野庁白石営林署事件」昭和48年3月2日最高裁)
↓労働法の原文・判例は最後のページでチェック↓
新田龍(にった・りょう)
1976年奈良県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。働き方改革総合研究所株式会社代表取締役、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員、ブラック企業アナリスト。複数のブラック企業での経験から、契約違反や不当要求など法律では裁ききれない企業の違法行為を司法やマスメディアと協同し解決に導くなど活動する傍ら、企業側の脱・ブラック化のためコンサルティングも手掛ける。「週刊ニュース深読み」(NHK)、「さんまのホンマでっか⁉TV」(フジ)などメディア出演ほか、『ワタミの失敗』(KADOKAWA)、『30代で必ずはじめること、やめること』『「伸びる社員」と「ダメ社員」の習慣』(明日香出版社)など著書多数。
“ブラック”な情報を随時つぶやくツイッターは要チェック→@nittaryo
今回出てきた労働法まとめ
(労働基準法 第24条 賃金の支払)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
(労働基準法 第16条 賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(労働基準法 第39条 年次有給休暇)
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間勤続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
(最低賃金法 第4条 最低賃金の効力)
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
(労働基準法 第91条 制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
(労働基準法 第34条 休憩)
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
(民法 第627条 期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(民法 第97条 隔地者に対する意思表示)
隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
(労働基準法 第32条 労働時間)
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。(「黙示の残業指示」の違法性は全て判例による)
※「黙示の残業指示」の違法性は全て判例による
(労働基準法 第41条 労働時間等に関する規定の適用除外)
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
(昭和63・3・14 労働省労基局長通達150号)
一般に、企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」という)と、経験、能力等に基づく格付け (以下「資格」という)によって人事管理が行なわれている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、 こうした職位や資格の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要がある
(労働基準法 第37条 時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。使用者が、午後十時から午前五時までの間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない
(労働基準法 第35条 休日)
使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない
(改正労働基準法 第39条 年次有給休暇)
第7項 使用者は、年次有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が10日以上である労働者に係るものに限る。)の日数のうち5日については、基準日から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
第8項 前項の規定にかかわらず、労働者の請求する時期に与えた場合又は労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、有給休暇を与える時季に関する定めをし、有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。
(労働基準法 第39条 年次有給休暇)
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
(「林野庁白石営林署事件」昭和48年3月2日最高裁)
休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である