配信で観られる! 台湾映画のマストウォッチ名作10選
ホウ・シャオシェン監督やエドワード・ヤン監督に代表される「台湾ニューシネマ」から、現在の気鋭監督作まで、配信で観る台湾映画の名作おすすめ10本。
みずみずしい青春映画や等身大の日常を描いたヒューマンドラマの良作が豊富な台湾映画。映画史上において現在でも高く評価されている80年代~90年代の「台湾ニューシネマ」の代表作から現在までのおすすめ作を、台湾映画コーディネーターの江口洋子さんがセレクト。
『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991)
「台湾ニューシネマ」のバイブル的存在
80年代から90年代にかけて、台湾の芸術性や国際性を高める作品を作るため、エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェン、ワン・トンら若手映画監督たちを起用して行われた創作活動「台湾ニューシネマ」を代表する一作。1961年に台北で起きた14歳の少年によるガールフレンド殺人事件から着想した青春映画であり、家族の物語。青春の輝きと残酷を、戒厳令解除直後の社会を背景に描かれ、台湾の様々な面が凝縮されたバイブル的な存在だ。主人公に演技経験のないチャン・チェンを台湾映画にデビューさせたエドワード・ヤンの眼力は、さすが。
2017年の金馬影展(映画祭)で、当時主席だったシルヴィア・チャン(張艾嘉)とスタッフの努力により、困難だった権利処理をクリアし、25年ぶりに4時間オリジナルバージョンのデジタルリマスター版を上映。日本でも再公開となったことは、まさに今世紀の事件といえよう。
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『藍色夏恋』(2002)
台湾映画復活の布石を築いた、青春映画の名作
「台湾ニューシネマ」の時代が終わり、長らく低迷していた台湾映画界が復活を遂げる布石となった青春映画の名作。高校生の淡い恋愛を描き、もがきながら自分のアイデンティティを確立させ、届かない思いを自分の中で昇華させることで成長していく主人公を生き生きと描いた本作は、今なお色あせることがない。「台湾ニューシネマ」の時と同じく、どん底の台湾映画界を何とかしようと映画人たちが若い創作者たちにチャンスを与えたが、その一人であるイー・ツーイェン監督が見事に芸術性と商業性の融合を果たした。
そして、この映画が生んだ二人の新人グイ・ルンメイとチェン・ボーリンは、台湾映画の大きな財産だ。
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今なお歴代興行成績1位の記録をキープ
台湾映画界を再燃させた記念碑的作品で、歴代興行成績第1位はいまだにその記録を破られていない。台湾南部のリゾート地で、ライブ開催に関わる人々の人間模様と、日本人教師と台湾女性の60年にわたる愛の軌跡が交差して綴られていく。笑いと涙と感動により、上質のエンタテインメントとして高い評価を得た。南部で多く使われる台湾語をベースにしたことも、"私たちの映画"として台湾人の共感を呼んだ。
日本から中孝介が参加し、60年前の教師役と現代の本人役としてラストのライブシーンで活躍。多くの台湾ミュージシャンが様々な役で見事にその役割を果たし、音楽映画としても素晴らしい。
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『あの頃、君を追いかけた』(2011)
ベストセラー作家の自伝的小説の映画化で社会現象に
1994年の彰化(台湾中西部の町)を主な舞台に、イタズラばかりしている男子高校生がひたすらマドンナを追いかける青春ストーリーで、歴代興行成績は4位。原作者で監督のギデンズ・コーが人気作家であることはもちろんだが、青春映画の宝庫といわれる台湾映画界でも、当時は異色の作品であったことが大きな特徴だ。それは、監督が異業種からの参入、台湾映画の伝統やニューシネマとは無縁で発想が新鮮であること、そして自身の小説の下ネタ満載なコメディ要素をそのまま映像化したということ。
本作は台湾で社会現象を巻き起こし、特にミシェル・チェンのミューズぶりは、多くの男子のハートを射止めた。
『星空』(2011)
6年の時を経て日本公開が叶った殊玉の初恋物語
台湾の国民的人気絵本作家ジミーのベストセラー「星空」を映画化した、初恋物語。ファンタジーとして、そして人間ドラマとしても素晴らしく、権利処理の事情により大阪アジアン映画祭で上映されて以来日本では"幻の名作"となっていたが、6年後にようやく一般公開された。
それぞれ家庭の悩みを抱え居場所をなくした少年と少女が日常を抜け出し、美しい星空を見ようと旅に出る…。人はみな、それぞれ青春の"ある瞬間"を持っている。それは時空の中で凝結した、深く、決して消すことのできない時。『星空』は、その瞬間のときめきが聞こえる映画だ。
※Rakuten TV、dTVにて配信中
日本で最高の興行収入記録を保持する台湾映画
日本統治時代、台湾の弱小高校野球部が甲子園で準優勝を果たすという史実をもとに作られた本作は、台湾映画として日本で最高の興行収入をあげ、この記録を塗り替える作品はまだ出ていない。永瀬正敏が主演というだけではなく、日台の歴史を背景に"汗と涙の甲子園物語"がガッチリと日本人の心を掴んだ。真っ直ぐな胸アツストーリーに初恋や家族愛など様々な要素が巧みに織り込まれ、野球経験があることを条件に選ばれたほぼ素人の若者たちの朴訥でひたむきな演技は、役とシンクロして感動するに十分すぎる。
台湾では2014年の興行成績トップで、歴代7位。公開初日は映画館が集まる西門町に観客達があふれ、監督はじめスタッフたちは入場できない人たち全員にKANOの小旗を配ったというエピソードがある。そして、ひまわり運動で学生達が立てこもる立法院内で、激励の特別上映会も行われた。
『ゴッドスピード』(2016)
気鋭監督の第一期最後の犯罪ロードムービー
Netflix『ひとつの太陽』(2019)などで国内外から注目を集めるチョン・モンホン監督独特のブラックユーモアがたっぷり詰まった"男のドラマ"。香港から台湾に来たタクシー運転手が麻薬の取引に巻き込まれる。長編第一作目『停車』から一貫して、自らカメラマンとして素晴らしい映像でシニカルなブラックユーモア満載の作品を撮ってきたチョン・モンホン監督は、どの作品も秀作で多くの賞を獲得している。しかし、なぜか興行成績には恵まれなかったが、2019年に作風を変えた『ひとつの太陽』は大ヒット、もちろん多くの受賞も果たして、2021年の『瀑布』へと続く。
貴重なチョン・モンホン監督第一期最後の本作が配信で見られることの幸せを、ぜひ分かち合いたい。
※JAIHOにて2021年12月17日(金)~2022年1月15日(土)期間限定配信
『大仏+』(2017)
金馬奨5部門受賞の注目作が日本初上陸!
2015年に台北電影奨を受賞した短編『大仏』を、当時の審査員だったチョン・モンホン監督が気に入り、自らプロデューサーを買って出て長編化されたのが本作だ。大仏の製造工場の警備員が車のドライブレコーダーに残された社長の犯罪を盗み見てしまうことから展開するミステリータッチの人間ドラマ。
台湾人の生命力を独特のブラックユーモアで描く作風は、撮影も担当したチョン・モンホン作品と通じるところがあるが、すでに独自のスタイルを持つホアン・シンヤオ監督の登場に、大きな期待が寄せられた。金馬奨では『血観音』と賞を分け合い、最多5部門を受賞。台北映画祭ではグランプリに輝き、興行成績もこの年の10位にランクインしている。
※JAIHOにて2022年1月6日(木)〜2022年2月4日(金)期間限定配信
『ひとつの太陽』(2019)
家族の崩壊と再生が胸を打つ、チョン・モンホン第二期の幕開け
これまでの男たちのブラックユーモアが特徴のチョン・モンホンワールドの作品群から一転して、家族を描いたヒューマンストーリー。この年の金馬獎では、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、編集賞を獲得した。
平凡な家庭の次男が犯罪に関わり収監されたことから始まる家族の崩壊、そして再生へ向けてもがく姿を描いた本作は、多くの賞を獲得してもなぜか興行成績に結びつかないという不思議な現象から逃れ、チョン監督にとって初めてこの年の興行成績5位という大ヒット。アカデミー賞国際長編映画賞のショートリスト(ノミネート前の最終候補)の台湾代表作品にもなった。
結末に従来の作風をやや残しながらも、チョン・モンホン第二期のスタートとなる作品として、また、おそらく最後になるであろうこれまで使用してきた「カメラマン:中島長雄名義(実態は監督自身)」の映像と共に見逃せない一作。
※Netflixにて配信中
『弱くて強い女たち』(2020)
台湾の生活模様や伝統とともに描かれる、人生の機微
台南で夫に出奔され、名物料理であるエビのすり身揚げ・蝦捲(シャー ジュエン)を作りながら3人の娘を育てあげた女性のもとに、70才の誕生日パーティの日、夫の訃報がもたらされる。娘たちとその家族、そして夫を看取った愛人らとの人間模様が描かれる。人生の機微を描いた本作は台湾の人々の心をガッツリと掴み、この年の興行成績のトップで、主演のチェン・シューファンが金馬奨と台北電影奨の主演女優賞を受賞した。
登場人物の多さも、それぞれの役とエピソードが過不足なくきちんと描かれているので感情移入しやすく、台湾の生活模様や伝統も味わえる。また、直接的な映像や台詞でなく、作品の流れの中に置かれた行間で、登場人物の隠れた心情を見せる監督の手腕は見事だ。
※Netflixにて配信中
『同級生マイナス』(2020)
人生の悲哀をユーモラスに描き、金馬奨で3冠に輝く
『大仏+』で金馬奨の新人監督賞と脚色賞に輝いたホアン・シンヤオ監督の長編第二作。中年の悲哀をひねりの効いたユーモアを交えて描き出す本作は、2020金馬影展のオープニングを飾り、金馬奨で納豆(ナードゥ)の助演男優賞、美術デザイン賞、そしてアウト・オブ・コンペの観客賞で3冠を獲得した。興行成績も9位と健闘。
40代となった高校時代の友人4人は、より良い人生を送るために懸命に生きてきたが、その見返りとして得られたものはほんのわずか。彼らの姿は、台湾の普通の人々が日常的に体験している人生の浮き沈みを反映し、もの悲しさと滑稽さで綴られる。
監督は『大仏+』で見せた独特のスタイルを踏襲し、前作に引き続き自らユニークな語り口でナレーションを担当。それだけでなく、今回は実際に物語の中に登場してしまうという反則技も見どころだ。
※Netflixにて配信中
『つかみ損ねた恋に: ディレクターズカット』(2021)
名脚本家が贈る巧みな構成にハマる!
2018年に大ヒットした『先に愛した人』の監督・スタッフが製作した、30代こじらせ女子の物語。リアルでも友達の少ない主人公が、SNSで2人の男性をブロックしたところから始まる。名脚本家のシュー・ユーティンだけに巧みな構成で、終盤に"やられた!"と気持ちのいい謎解きが待っている。
18キロ増量してCM監督役に臨んだウー・カンレンの役者魂、初演技ながら見事に主人公の重責を果たした歌手のイブ・アイの表現力など、メインキャストたちの好演に加え、これまでシュー・ユーティン作品に出演した人気女優たちの声の出演も楽しい。何度も見たくなる、素敵な恋愛映画だ。
※Netflixにて配信中