アカデミー賞の授賞式といえば、毎回あっと驚く瞬間や笑えるシーンが盛りだくさん。もちろん、トップセレブたちのゴージャスなドレスやジュエリー、予想を裏切る賞レースの行方も見ものだけれど、忘れてはならない醍醐味は、“最も気まずい瞬間”ウォッチング。
2022年の授賞式は、ウィル・スミスのビンタ事件が世界を騒然とさせたけれど、過去数十年のセレモニーを振り返ってみても、ヒヤヒヤさせられたり、顔を覆いたくなる場面は実に多くあった。そこで、ドン引きのスピーチや名前の読み間違い、ステージでの転倒、不意打ちのキスなど、授賞式で起こった忘れられない気まず~い瞬間をまとめて振り返ってみよう。
Translation: Masayo Fukaya From ELLE UK
2022年:ウィル・スミス、クリス・ロックに平手打ち
2022年の授賞式は、やはりこのビンタ事件を抜きに語れない。きっかけは、脱毛症を公表し髪を剃っているウィルの妻ジェイダ・ピンケット・スミスに向かって、「『G.I.ジェーン2』が待ちきれないよ」というジョークを飛ばしたプレゼンターのクリス・ロック。
するとウィルがステージに上がり、クリスにいきなり平手打ちをお見舞いし「お前の口から妻の名を言うな!」と大激怒。突然の成り行きに会場は凍り付き、ネットではウィルの行動に議論が巻き起こった(ビンタの約20分後、ウィルは主演男優賞を獲得し涙のスピーチを披露し、翌日インスタグラムで暴力をふるったことを謝罪)。
また、カメラにはウィルの後ろで2人のやりとりを交互に見つめるルピタ・ニョンゴの姿もバッチリ映されており、そのポカンとした表情も瞬く間にミーム化。
2021年:「両親がセックスをしたおかげで僕はここにいる」
パンデミックにより、複数の場所から中継で行われた2021年の授賞式。『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』で助演男優賞を獲得したダニエルは、こうスピーチした。
「人生を祝福しましょう。母と父が出会い、彼らはセックスをしました。そのおかげで私は今ここにいます。これは本当に素敵なこと」
客席からこれを聞いていたダニエルの母は「はぁ!?」と困惑顔を見せ、姉は頭を抱えてしまい、そのリアクションもネットをおおいに賑わせることとなった。
2020年:エミネムのラップ中にウトウト?
2020年の授賞式で、エミネムが披露した大ヒット曲『Lose Yourself』のパフォーマンスには、多くの人が魅了されたけれど、全員が同じように熱狂したわけではなかった。
ジャネール・モネイやケリー・マリー・トランたちが曲に合わせてノリノリななか、巨匠マーティン・スコセッシ監督は眠くなってしまったのか、はたまた瞑想していたのか、静かに目を閉じている瞬間をカメラにとらえられてしまった。
2018年:床に置かれてしまったオスカー像
受賞スピーチをする際、受賞者が表彰台の上にオスカー像を置くのはよく見かける光景。
だが、2018年の授賞式には表彰台がなかったため、フランシス・マクドーマンドら受賞者は、少々気まずい思いをしながら黄金に輝くオスカー像を床に置かなくてはならなかった。
2017年:ウォーレン・ベイティが受賞作品を間違える
思い出すだけでゾッとしてしまう、語り草となった瞬間。それは、授賞式の最後に、フェイ・ダナウェイとウォーレン・ベイティが作品賞を発表したときのこと。
受賞作の名が書かれた紙が入った封筒を開けたウォーレンは『ラ・ラ・ランド』が受賞したと発表したが、しばらくしてそれが間違いだったと判明。実際には『ムーンライト』が受賞したと訂正された。
ステージ上で繰り広げられた大混乱劇も話題になったけれど、それ以上に印象的だったのは、『ラ・ラ・ランド』で主演を務めたライアン・ゴズリングが、ステージの隅でクスクスと笑っていたところだった。
2017年:ニコール・キッドマンの“アザラシ”拍手
授賞式の間ずっと笑顔を絶やさないことは並大抵のことではないが、拍手の仕方を批判されたら、一体どうすればいいのだろう……?
2017年の授賞式では、カメラが客席を撮影した際、ニコールがかなり変わった方法で拍手をしている姿が映し出された。この場面を切り取ったミームが大量に作られたが、その後彼女は、この時つけていた指輪を傷付けないようにしようとしたため、こんな拍手になってしまったと説明。母国オーストラリアのラジオ番組に出演した際、彼女は当時をこう振り返っている。
「あれは本当にぎこちなかったわ。でも拍手をしたいし、拍手しなかったら『なぜ拍手をしないんだ』ってなるから、もっとダメでしょ?」「だから拍手したんだけど、自分のものではない大きな指輪をつけていたから、(普通に拍手するのが)すごく難しかった。とてもゴージャスな指輪だったから、傷付けたくなかったの」
ちなみにこの指輪は「ハリー・ウィンストン」のもので、13.58カラットのダイヤモンドが施されていたそう。それを知れば、あの拍手にも納得せざるを得ないかも。
2017年:生きているのに、追悼コーナーで取り上げられたジャン・チャップマン
授賞式で名前を呼ばれるのは名誉なことだけれど、亡くなっていないのに追悼コーナーで名前を呼ばれるのは、別次元の話。
2017年のセレモニーでは、追悼コーナーのスライドショーで、2016年に他界した衣装デザイナーのジャネット・パターソンの写真のかわりに、プロデューサーのジャン・チャップマンの写真が使われてしまった。
ジャンはその後『ヴァラエティ』のメール取材に対し、こう回答している。「偉大な友人であり、長年のコラボレーターでもあるジャネット・パターソンのかわりに自分の写真が使われ、大きなショックを受けました」
「私は彼女が所属していた事務所に、使われる写真をきちんとチェックするようにと伝えていましたが、アカデミー側からは、きちんと管理しているから大丈夫と言われたそうです」
2015年:ニール・パトリック・ハリスが下着姿で司会
この年のアカデミー賞で見たニールのパフォーマンスが不思議だったと思った人は、彼が司会中に下着姿で登場したことも思い出してほしい。
どうやら照明が暑かったから脱いだというわけではなく、この年のノミネート作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』にインスパイアされ、この“衣装”をチョイスしたことが判明した。
2015年:ジョン・トラボルタ、スカーレット・ヨハンソンにキス
永遠に私たちの脳裏に刻まれているのが、レッドカーペット上でジョンがスカーレットにキスをしているこの写真。スカーレットは凍り付いているように見えるが、このキスはそれほど気まずいものではなかったと彼女は後に取材で語っている。
「ネットに出回っている写真は、一連の動きを静止画でとらえたもの。私は彼の優しい行動を喜んで受け入れました。写真からはその前後の動きがわからないですし、もしあの場面を生で観ていたら、出回っている写真とは違った印象を受けたでしょう」
「ジョンが変わっているとか気持ち悪いとか、不適切だということはありません」
2014年:ジョン・トラボルタ、イディナ・メンゼルの名前を大間違い
こちらもジョン。正直なところ、これはあまりにもひどい瞬間だった。
2014年の授賞式では、『アナと雪の女王』の主題歌で歌曲賞を受賞したイディナ・メンゼルを紹介する際、トラボルタは彼女の名前を「アデル・ダジーム!」と発音。視聴者を大いに動揺させた。さらに、彼女のことを「邪悪なほど恵まれた」と熱弁してしまったことも、名前の間違いに匹敵するほど嘲笑の的に。
その翌年の授賞式では、イディナがジョンの名前を「グロム・ガジンゴ!」と紹介するジョークを飛ばし、リベンジを果たしている。
2013年:ジェニファー・ローレンス、階段でコケる
『世界にひとつのプレイブック』で主演女優賞を受賞したジェニファー。プレゼンターのジャン・デュジャルダンに名前を呼ばれてステージに上がる際、階段でつまずいてしまった。
彼女は『Wマガジン』のインタビューで、転んでしまった理由を次のように説明している。
「自分の名前が呼ばれるかどうかを待っていたとき、ずっと『ケーキウォーク、ケーキウォーク、ケーキウォーク』と考えていたの。なぜこの言葉が頭から離れないの?と思っていたわ」
「そして階段を上り始めて、ドレスの裾を踏んでつまずいてしまったとき、スタイリストに『キック、ウォーク、キック、ウォーク』と言われていたことを思い出したの。つまり、ドレスの裾をキックしながら歩きなさいと言われていたのに、なぜかケーキのことを考えていたから、すっかり忘れてしまって。だから転んでしまったの」
2012年:サシャ・バロン・コーエン、遺灰をこぼす
この年のレッドカーペットで、TVリポーターのライアン・シークレストがサシャの衣装について質問した場面は、多くの人をハラハラさせた。
『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』で主役を務めたサシャが、金色の骨壷に入った“遺灰(に見立てた粉)”をライアンのタキシードにかけてしまうというハプニングが。しかしライアンは、意外にもこの事件を好意的に受け止めていたよう。
2011年:司会アン・ハサウェイ&ジェームズ・フランコの妙なテンション
発せられたジョークからアンの熱の入りようまで、驚きの連続だったことを考えると、一体どこから説明していいのかもわからないのが、この時司会を務めた2人のスピーチ。
アカデミー側としては若い2人を起用して視聴者にアピールしようとしたようだが、当時アンは「やりすぎ、わざとらしすぎ」、ジェームズは「やる気なさすぎ」と言われ、ネットでも酷評を集めてしまった。
なお、アンがタキシードを、ジェームズがピンクのサテンドレスとブロンドのウィッグを着用し、衣装を交換したかのような場面もあった。
2003年:エイドリアン・ブロディ、壇上でハル・ベリーに熱烈キス
授賞式でキスを何度も見させられる気まずさは、なかなかのもの。
エイドリアンは『戦場のピアニスト』で諸先輩をしのぐ演技を見せ、見事主演男優賞を獲得。壇上で喜びのあまり、ハルに力強くも気まずいキスをしてしまった。
2017年、その前年にオスカーを受賞したハルは、トーク番組に出演した際、その時の心境を明かした。彼女は当時、「一体何が起こったの?」と思っていたそうで、いいキスだったかどうかを聞かれると、「とにかく『今、一体何が起こったの?』ということに集中しすぎていたからわからないわ」と回答している。
2001年:ビョークがレッドカーペットで“産卵”
シンガーのビョークはこの年、「マラヤン ペジョスキー」の白鳥モチーフのドレスをまとってレッドカーペットに登場。6個のダチョウの卵を産んだシーンは、現在まで語り継がれている。
2015年、スエードとフェルト、白鳥の羽で作られたこのドレスは、ニューヨーク近代美術館でも展示された。
2000年:アンジェリーナ・ジョリーが実兄とキス
こちらも忘れられないシーン。オールブラックのドレスに身を包んで現れたアンジェリーナは、実の兄ジェームズと堂々とキス(そう、唇に)をしているところを写真に撮られ、世界に大きなショックを与えた。
『17歳のカルテ』で最優秀助演女優賞を受賞した彼女は、「とても驚いています。私は兄のことをとても愛しています。彼は私を抱きしめて『愛してる』と言ってくれました。私の受賞を心から喜んでくれています」とスピーチで語った。
2000年:『サウスパーク』のクリエイター陣、女優の衣装をマネる
『サウスパーク 無修正映画版』のクリエイターであるトレイ・パーカー(左)、マーク・シャイマン(中)、マット・ストーン(右)の3人は、それぞれジェニファー・ロペスやグウィネス・パルトロウが過去にオスカーで着用した名高いドレスを再現し、レッドカーペットに登場。
その後トレイとマットは2016年の取材で、この時のファッションについても振り返っている。
「僕たちがあのドレスを着て登場したときは、何人かが興奮していたよ。マイケル・ケインはそのうちの1人。でも、グロリア・エステファンはかなり怒っていたね」「(授賞式という場で)あんなに反抗的な態度でいるには、かなりのエネルギーがいるよね。あのドレスを作るのにも相当なエネルギーを要したんだ」
「僕たちは、パンクロックみたいにあらゆることに対して抗っていたけど、トレイは歌曲賞にノミネートされていたんだ、クールだよね。だから、授賞式に参加するにしても、彼らと同じにならないためには、どうすればいいのか――ドラッグさ」
なんと2人は、授賞式の前にドラッグ入りの角砂糖を食べ、ハイな状態で参加していたそう。
1999年:ロベルト・ベニーニの異様な興奮ぶり
トム・クルーズがオプラ・ウィンフリーのトーク番組に出演した際、ソファの上で飛び跳ねたあの有名な場面を思い出してみて――あれが気まずいと思った人は、1999年にロベルトが外国語映画賞を受賞したときのことも振り返ってみよう。
壇上で映画のタイトルが読み上げられると、彼は大喜びで観客の座席の背もたれの上を歩き回った。そのあまりに大げさなリアクションに、ドン引きしている人もチラホラ。
1998年:ジェームズ・キャメロン監督、スピーチで自分の作品を引き合いに
1998年に映画『タイタニック』で監督賞に輝いたジェームズ・キャメロンは、スピーチで自身の作品のセリフを引用。
レオナルド・ディカプリオが演じたジャックよろしく「俺は世界の王だ!!」と勇ましく叫んで締めくくったが、妙にシラけてしまうことに……。
1989年:ロブ・ロウが白雪姫とデュエット
ロブはこの年、ディズニープリンセスの白雪姫と一緒にステージで11分間の歌を披露。これがかなり不評を買ってしまい(しかも無許可で白雪姫を使ったため、アカデミー賞サイドはディズニーから訴えられそうになってしまった)、その後1992年に『ニューヨーク・タイムズ』誌の取材に応じた彼は、この時の気まずい雰囲気について、次のように述べている。
「アカデミー側に依頼されたから、“戦士”としてはやるしかなかったんだ。自分がマネージャーやエージェント、予言者になることはできないし、リスクを背負わなければならないからね。その結果、僕は足を撃たれてしまったのさ」