もちろん、フェミニズムは今に始まったものではない。古代ギリシャの哲学者プラトンは『国家』のなかで、「政や国の防衛において、女性は生まれながらに男性と対等の能力を有している」と述べた。
とはいえ、その生来の能力の発揮はことごとく阻まれてきた。これまた古代ギリシャの詩人ホメーロスの『オデュッセイア』には、夫がトロイ戦争に出征した留守に、妻が公の場で話をしようとしただけで、息子が「お母さん、それ、女のやっちゃいけないやつ」と言って割りこみ、話を阻止してくるのである。それから長い、長い歳月が流れ、19世紀のアメリカで女性の財産権、参政権を訴える第一波フェミニズム運動が始まる。南北戦争より前のことだ。
その後、また70年余りを経た1920年に、アメリカで女性の参政権が認められる。本稿の作家・作品リストは、その年代に刊行されたヴァージニア・ウルフの『自分ひとりの部屋』からスタートさせた。
さらにそこから40年余りの月日を経て、1963年にベティ・フリーダンが『新しい女性の創造』を出版したことから、第二波フェミニズムが始まる。男女の社会的地位の対等と性差別排除が呼びかけられ、それと相前後して、Women's Liberation(日本語では「ウーマンリブ」)と呼ばれる女性解放運動、ならびに性革命が進められた。フェミニズムを主眼とした初めての雑誌『Ms.』が創刊されるのが1972年であり、1973年には、伝説の「ロー対ウェイド裁判」で、女性に「産む判断権」(すなわち中絶を選択する権利)が認められる。
しかしフリーラブの時代は'80年代、エイズの到来とともに幕を閉じていく。世界的なバブル経済崩壊後に、第三波フェミニズムが始まるのは'90年代のことだ。これは、本稿でも紹介しているアリス・ウォーカーの娘レベッカ・ウォーカーが『Ms.』誌上で提唱したといわれる。それまでのフェミニズム、特に第二波は高等教育を受けた白人女性ばかりが恩恵に預かり、有色人種の女性がないがしろにされていると唱えた。
そして、数年前から世を席巻している #MeToo 運動、これに関わるフェミニズムは第四波ともいわれる。性差別や不平等をなくすだけでなく、ジェンダーの旧来の枠や概念にとらわれず、人間が有する基本的な権利や尊厳を守ろうとするものだ。
「マンスプレイニング」「モラハラ」「マウンティング」など、女性たちを密かに痛めつけてきた隠微で質の悪い行為に名前がついたことで、不快感や負担感を多少表明しやすくなった。一方、今でも、町長のレイプを告発した女性町議が法廷で争われることなく議員リコールされるという暗澹たる現実もある。道はまだまだ長い。時代を変えてきた女性作家たちを紹介する。