メンタルヘルスに大きな影響も。休みかたを知らない人へ、正しい休息のとりかた
いよいよ夏休みシーズンが到来! しっかり体を休めてエネルギーチャージしたいけれど、連休中も会社のメールを見てしまう、そもそも休みを取ると会社の人に言いづらいなど、日本人は休み下手な人が多いそう。そこで、臨床心理士・公認心理師の枚田香さんに現代人の正しい休みかたのヒントを教えていただきました。
枚田香(ひらた かおり)/一般社団法人おおさかメンタルヘルスケア研究所 臨床心理士・公認心理師。関西学院大学文学部教育心理学科卒業後、総合商社広報室に勤務。退職後はIT革命に興味をもちパソコンインストラクター、ライターに転職。長時間労働による“うつ”が問題視される中、2003年、出身大学の大学院で心理学を学び、教育心理学修士の学位を取得。2006年、働く人のメンタルヘルス支援を目的に起業。現在はメンタルヘルス研修講師、大学の心理学講師、精神科のカウンセラー、職場のメンタルヘルスのコンサルタントとして活動している。著書は、「現代社会と応用心理学4 クローズアップ メンタルヘルス・安全」や「働く人たちのメンタルへルス対策と実務: 実践と応用」など。
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イマドキは「休みがない」アピールはイケてない!?
ひと昔前は「休みがない=バリバリ稼いでいるエリート」というイメージが強かったように思います。時代は令和に変わり、いわゆる成功者は休みをしっかり取ってオン・オフを上手に切り替えているというイメージが強まってきました。イマドキは「休みがない」アピールをすると、「プライベートがイケてない仕事人間」というレッテルを貼られてしまうかも。仕事人間はなかなかデートの時間を確保できませんからモテないともいわれる始末。そして自らのことを「貧乏暇なしです」と自嘲気味に話す人もいます。
SNSを開くと何らかのビジネスで成功した人がリゾート地の高級ホテルでのんびり過ごしているリア充アピール投稿を見かけたりもしますね。ちょっと待って下さい! 休みは一部の特権階級だけのものではありませんよね。誰でも平等に休む権利を持っているはずです。しっかり休みを取って、メリハリのある生活を送るにはどうしたらいいか、これからいくつかヒントをお伝えしますので、ひとつでも参考になることがあれば嬉しいです。
>>次のページから現代人が休めない理由とその対処法について
【休めない理由①】休むことに罪悪感を持ちやすい日本人
学生の頃から皆勤賞を褒めたたえ、日本人には休まないことを美徳とする風潮がありますね。また、有給休暇は当然の権利なのに取得するのが後ろめたいという気持ちになったり、たとえ病欠であっても皆が働いている時間に休んでいると申し訳ない気持ちになったり、とにかく日本人は休むことに罪悪感を持ちやすいようです。これまで育ってきた環境、受けてきた躾や教育の影響でしょうか、他の人が頑張って働いている時に自分だけが休むわけにはいかないと考える日本人が大多数です。
罪悪感の理由として「同僚に迷惑をかけたくない」という周囲の人への思いやりを口にされることが本当に多いです。ですが、これは「同僚に迷惑をかけていると思われたくない」という解釈もできます。良くも悪くも他人の目を気にする日本人ならではの休みにくさですね。休みやすい職場を作っていくには、組織のトップや上司が意識的に「休んだ人の穴埋めをするのはお互い様」と考えられるような職場風土を作っていかないと実現しにくいでしょう。私がお会いしたことがある何人かの人事スタッフは、自ら率先して休みを取得するように心がけ、社員のお手本になろうと頑張っているとのこと。ひとりひとりが考え方のクセを変えるには心の筋トレのようなものが必要で、筋肉をつけるのに時間がかかるのと同じく心を変えるのにも時間がかかりますが、諦めずにコツコツと繰り返すことで必ず結果を出せます。
【休めない理由②】ダラダラと働くほうが楽だと感じる
近年は働き方改革の影響で残業ができないし、定時で帰らないといけなくなったので、就業時間内の集中度と緊張度が高まったと言っておられる方が少なくありません。働く人のメンタルヘルスの分野では、仕事の要求度が高くかつコントロール度(自分の裁量で仕事を勧められる度合い)が低い人が最もストレス度が高いという説があります。これを「仕事の要求度-コントロールモデル」といいます。
つまり、定時で帰るためにギュッと仕事を詰めてお昼休みを削って頑張るよりも、自分のペースで休憩を取りながら残業するほうが実は身体が楽という考え方もあるということですね。フリーランスで好きなことを仕事にしている人や自営業者は自分の裁量で働いているので、長時間働いても疲れを感じにくい理由もここにあります。自分の意思で働いている人は仕事が苦にならず、働けば働くほど収入が増えるので長時間労働になりがちですが、意識して休みを取ってオン・オフを切り替え、健康的な生活を心がけないと、じわじわと自分自身の健康を蝕んでいきます。特に雇われている側の人は「課せられた要求が高すぎる感」と「自分のペースで仕事を進められない感」が強いと思っておられるならばなおさら、しっかり休憩や休暇を取ってリフレッシュするほうが望ましいです。
【休めない理由③】「休みます」宣言には勇気が必要
人は現状維持の方が楽な生き物です。現状維持はある意味で省エネモードですから、パターンを変えたりスムーズに進んでいる現状をストップしたりするイレギュラーなことには不安になりやすいのです。パソコンや機械の電源を一度落とすと再起動に時間がかかるように、人の仕事もパターン化して調子良く回っているところに休んで再開すると調子を戻すのに時間がかかりますよね。機械も人も定期的に休ませたほうが消耗しにくくて結果として長持ちすると頭ではわかっていても、途中でストップすることに不安になります。職場全体が忙しくてギリギリで回っている状態で「休みます」と言うのは勇気が必要ですね。そんな状況で「休みます」と言ったら歓迎ムードではないことは大いに想像できるし、もしかしたら苦情や陰口を言われるかもしれないと考えたりもするでしょう。
ですが、相手の反応を先読みしすぎていて、その読みが正しくないということもありえるのです。実際に休みを申し出てみたら想像していたほど非難されなかったりするケースも少なくありません。身体を壊しそうなほど辛いということを上司や経営者に打ち明けたら、「そんなに辛かったとは気づいていなかった」と慌てて対処してくれたという当事者の予想外の展開を多く見てきました。この記事を読んでいて「いやいや、うちの上司は気づいていて意図的にスルーだと思う」とツッコミを入れておられる方には特に「もう無理!休みます!」と宣言する勇気を持っていただきたいです。あらゆる問題解決に有効な要素は、決断して行動に出る勇気と覚悟だと私は考えています。「どうせ無理」も考え方のクセのひとつです。カウンセリングではそういった心の持ちようを変えていくお手伝いもしています。
【休めない理由④】「休むのは義務」と考えてルーティン化できない
メンタルヘルスにはセルフケアという用語があります。仕事が大好きでも、疲れを感じていなくても、休養を取って心と身体をケアすることが働く人の義務であるとメンタルヘルス研修ではお伝えしています。日常的に休めない職場は問題アリですよね。無理を重ねてようやく回っている状態は非日常(ある意味で異常)な状態です。非日常であるべき無理が日常化すると、上司や経営者に「ちゃんと回っている」と認識され無理を続けることが当然にされてしまいます。職場のメンバー全員に「休むのは義務」という考えが浸透しないと、休みやすい職場作りは難しいのですが、きちんと休むことを前提に人員配置をしないと、いつか破綻します。
この記事を読んでおられるあなたから休むルーティンを始めて下さると嬉しいです。お金では買えない健康を失わないための行動は、あなた自身に大きなメリットがあります。身体は声を発することができません。唯一できるのは不快な症状としてサインを出すことです。「今は皆が大変な時期だから、それどころじゃない」と気力で乗り切ろうとして無理を続けると、だんだん身体の声を聴けなくなります。感情すら麻痺してしまう人もいます。一定の時間働き続けたら、いったんオフにして心と身体を休めることをルーティン化して下さい。ヨガやストレッチや瞑想を通して、心と身体の声を聴くこともルーティンに組み込んでみられるのもいいですね。ヨガと瞑想がオススメの理由は、いろんなポーズを取って「身体さん、どうですか?」と調子をうかがい、瞑想の時間に「心さん、どうですか?」と問いかける時間を持てるからです。
【休めない理由⑤】連休を取ると体調を崩してしまう
「せっかくの連休だから出かけよう!部屋の掃除をしよう!」と張り切っていたのに、身体がだるくて動けない、結局寝て過ごしてしまって怠惰な自分に腹が立った経験はありませんか?これは、蓄積された疲労を気力で抑えている場合に、連休で気が緩んだところで麻痺していた疲れを自覚してしまうことが原因のひとつとして考えられます。仕事で気が張っている時は交感神経が優位な状態になっています。いわゆる戦闘モードです。緊張やストレスが続くと自律神経が乱れやすくなり、副交感神経が優位なリラックスモードへの切り替えがうまくいかないことがありえます。さらにデスクワークがメインの現代人は、身体はさほど疲れておらず脳が疲れていて、脳の疲れから疲労感や倦怠感を感じることもあるようです。
仕事以外の時間で軽い運動をしたり、パソコンやスマートフォンから離れたりして、脳ではなく身体を使うように心がけると、睡眠の質が向上して脳の疲れが取れやすくなります。また、疲労の蓄積がひどすぎると2~3日の休みでは足りないということかもしれません。長期の休みを取りにくいようでしたら、仕事が終わってから、もしくは仕事の合間で、徹底的に健康を取り戻すための工夫をされるといいでしょう。キーワードは睡眠・栄養・運動です。質の良い睡眠、バランスのよい食事、日常に取り入れられる運動に関する記事はたくさんありますので、無理なく続けられるものを見つけて下さい。