ロイヤルファミリーが所有するエメラルドジュエリーのコレクションは、かなりの数にのぼる――クイーン・マザーのお気に入りだったブローチや、22歳の誕生日にチャールズ皇太子から贈られたおそろいのイヤリングとともにダイアナ妃がよく着用していたアイコニックなチョーカー、そしてユージェニー王女が結婚式で着用した巨大なティアラまで、目を見張るものばかり。
ダイヤモンドこそ、ジュエリー界、そして特に王室のコレクションではおそらくトップに君臨するが、エメラルドも並外れた魅力を備えている。ダイヤモンドと比べると繊細ながら、そんな特徴とは矛盾した強力なカリスマ性がこの石にはあり、ローマ神話に登場する愛と美と豊穣の女神であるヴィーナスとこの石が、なぜ関連付けられているのかも想像できるだろう。
ウォリス・シンプソンとジャッキー・ケネディが、名高きエメラルドの婚約指輪をつけていたという事実を考えてみてほしい。妊娠中だったケイト・ミドルトンが、エメラルドのジュエリーで大きな注目を集めたのは偶然だろうか?
そこで、エメラルドとロイヤルが紡いできた歴史と、実際に着用している姿を、改めて振り返ってみよう。
Photos: Getty Images Translation: Saeco.Y From TOWN&COUNTRY
はじまりは「ケンブリッジ・エメラルド」
ロイヤルファミリーが所有するエメラルドのなかでも最も有名なのは「ケンブリッジ・エメラルド」という、なかなかの出自を持つ“秘宝”の集まり。
そもそものきっかけは、19世紀初頭、初代ケンブリッジ侯爵アドルファスの妃であるオーガスタ・オブ・ヘッセ=カッセル(写真)が、フランクフルトでおこなわれたチャリティイベントでくじに当選したこと。その賞品が、カボションカットやペアシェイプカットの数十個のエメラルドだった。
ジュエリーに加工されたものもあるが、大半はその後オーガスタ妃の娘であるメアリー・アデレードの手元に受け継がれる。
メアリー王妃がジュエリーを作らせる
メアリー・アデレードは自身の息子であるフランシス王子にそれらを遺すが、彼は1910年に亡くなる際、それをさらに愛人に託す。王子の姉、のちのメアリー王妃(メアリー・オブ・テック、写真)は、当然ながら恐れを感じてすぐにエメラルドを取り戻し、その愛人にはブローチをひとつだけ、慰めの品として残したという。
1911年に行われたデリー・ダーバー(ジョージ5世のインド皇帝継承とインド皇后メアリー王妃を記念しての大規模な政治儀礼イベント)のため、メアリー王妃はこれらのエメラルドでパリュール一式(ネックレス、イヤリング、ティアラ、ブレスレット、ブローチ、ドレスの胸元に着装するストマッカーなど。今はエリザベス女王がそれらすべての所有者になっている)を作るよう注文。
その数年後、王妃はケンブリッジ・エメラルドをもう1度使うことにする――こうして、ウラジミール・ティアラにエメラルドが付け替えられるようになった。
ここからは、吸い込まれそうなほど美しく輝く、ロイヤルファミリーのエメラルドジュエリーの一部を見ていこう。
ユージェニー王女の結婚式のティアラ
2018年10月にウィンザー城で行われた結婚式に向け、エリザベス女王からグレヴィル・エメラルド・ココシュニック・ティアラを借りたユージェニー王女。もともとこのティアラは、1919年にイギリス貴族のマーガレット・グレヴィル夫人のために「ブシュロン」が制作したもの。
センターで輝いているエメラルドは、なんと93.70カラットという大きさ。新郎のジャック・ブルックスバンクから結婚祝いとして贈られた、ダイヤモンド×エメラルドのドロップイヤリングを合わせて。
キャサリン妃のパリュール
当時妊娠中だったキャサリン妃は、2018年の英国アカデミー賞授賞式に出席した際、「ジェニー・パッカム」のグリーンのドレスにエメラルドのジュエリーをセットで着用。
イヤリングとブレスレットを着けている姿は、2014年のセント・アンドリューズ大学の創立記念晩さん会で目撃されていたものの(結婚祝いのギフトだったと言われている)、ネックレスを着用したのはこの日が初めて。晩さん会には、付け替え可能なイヤリングを着用していた。
キャサリン妃のイヤリング&ブレスレット
2014年、NYにてセント・アンドリューズ大学の創立600周年記念晩さん会に出席したキャサリン妃。「ジェニー・パッカム」のドレス(当時第2子のシャーロット王女を妊娠中)にマッチさせ、エメラルドとダイヤモンドのイヤリング、そしておそろいのブレスレットを着用。
エリザベス女王のティアラ
ウラジミール・ティアラはエリザベス女王を象徴する、そしてどんな場面にも着用できる万能なティアラ。ロマノフ王朝のメンバーだったウラジミール大公妃が十月革命真っ只中のロシアからこっそり持ち出した宝石のひとつを、メアリー王妃が買い取ったもの。
ティアラにはもともとしずく状のパールが配されていたが、エメラルドに替えたり、石を完全に取り外してよりシンプルにしたりできるよう、メアリー王妃がデザインを微調整した。写真のエリザベス女王は、クイーン・マザーが遺したマーガレット・グレヴィル夫人のジュエリーコレクションから、ペアシェイプのカボションカットのエメラルドイヤリングも着用している。印象的なネックレスもこのコレクションに含まれているとか。
エリザベス女王のパリュール
2012年に行われたた別のシッスル勲章のイベントでは、エメラルドタッセルのネックレスとイヤリングをセットで着用したエリザベス女王(セットにはブレスレットとリングも含まれている)。
タッセル状のダイヤモンドが結ばれたデザインで、先端にはエメラルドが施されている。アラブ首長国連邦の首長シェイク・ザーイド・ビン・スルタン・アル・ナヒヤーンからの贈り物とされている。
カミラ夫人のパリュール
ロンドンで上演された『ピーター・パン』を観劇する際、カミラ夫人はグリーンのスカートとエメラルドのジュエリー一式でカラーを統一してお出まし。
ジュエリーは2006年に中東に旅行した際、サウジアラビア王室から贈られたものだとか。
エリザベス女王のイヤリング
2008年、1687年にジェームズ7世が創立したシッスル勲章の伝統的なミサに出席したエリザベス女王。ダイヤモンド&エメラルドのイヤリングで、正装のマント姿をいっそう荘厳なものに。
カミラ夫人のブローチ&イヤリング
2007年の夏に行われた別のウェールズ関連イベントでは、アレクサンドラ・オブ・デンマークのコレクションから再びエメラルドのブローチをセレクトしたカミラ夫人。これは、1863年に結婚祝いとしてアレクサンドラ・オブ・デンマークに贈られたもの。
エメラルドとルビーがちりばめられたコロネット(王冠)から伸びる「プリンス・オブ・ウェールズの羽根」(プリンス・オブ・ウェールズの徽章)を、18のダイヤモンドと36のエメラルドが囲んでいる。ドイツ語で王家のモットー「私は仕える(Ich dien)」と刻まれたリボンがついており、カボションカットのエメラルドが揺れる。マッチングさせたイヤリングも同じく、結婚祝いのギフトだったもの。
カミラ夫人のブローチ
カミラ夫人のブローチ愛は、エリザベス女王に匹敵するほどかも? 写真のものを含め、夫人が着用するブローチのいくつかは、クイーン・マザーが所有していたもの。
カミラ夫人のブローチ
2006年にウェールズで催されたイベントに、この地方にルーツを持つジュエリーを着用して登場し、国家への敬意を表したカミラ夫人。このブローチはかつてアレクサンドラ・オブ・デンマークが所有しており、彼女がエドワード7世(当時はプリンス・オブ・ウェールズ。1901年に母親のヴィクトリア女王が亡くなり即位した)と結婚した際に、ウェールズ北部の貴婦人たちがお祝いとして贈ったもの。
カボションカットのしずく形のエメラルドが特徴で、中央にはダイヤモンドとエメラルドでウェールズの国章であるリーク(西洋ネギ)がかたどられ、その下にはウェールズ語で「私たちの王女へ」と記されている。
アレクサンドラ王女のチョーカー
アレクサンドラ王女(エリザベス女王のいとこ)は、2005年のマーガレット・サッチャーの80歳の誕生日パーティで、多連パールをカボションカットのエメラルドで留めるチョーカーを身に着けた。
エリザベス女王のネックレス&イヤリング
エリザベス女王が王室主催のチャリティイベント『ロイヤル・フィルム・パフォーマンス2004』のために選んだのは、(女王にしては)比較的控えめなエメラルドとイエローゴールドのジュエリーのセット。
マイケル・オブ・ケント王子夫人のイヤリング&リング
マイケル・オブ・ケント王子夫人マリー=クリスティーヌは、2003年に写真に撮られた際、エメラルドとホットピンクのコンビネーションが完璧であると証明した。
アレクサンドラ王女のイヤリング&ブローチ
エリザベス女王の従妹アレクサンドラ王女は、2001年にチェルシー・フラワー・ショーにエメラルドとダイヤモンドのスタッズイヤリングでお出まし。胸元のブローチは、帽子につけて着用したこともある。
クイーン・マザーのブローチ
1997年、97歳の誕生日をお祝いしたクイーン・マザー。華やかなフローラルプリントに、ダイヤモンドとエメラルドでユリをかたどったブローチでアクセントを添えて。
ダイアナ妃のチョーカー、イヤリング、ブレスレット
ダイアナ妃が亡くなる前、最後に公の場に姿を見せたのは、1997年7月、自身の36歳の誕生日。ロンドンのテート・ギャラリーの記念行事に出席した妃は、ジャック・アザグリーの黒のドレスに身を包み、メアリー王妃のチョーカーと、チャールズ皇太子から贈られたエメラルドのドロップイヤリングというあのコンボを再度チョイスし、ダイヤモンド&エメラルドのブレスレットも合わせた。
妃が亡くなった後、チョーカーはロイヤルファミリーのジュエリーコレクションに戻されることとなった。
バージット妃のパリュール
1993年の晩さん会で、グロスター公爵夫人バージット妃(夫はエリザベス女王のいとこであるリチャード王子)が着用したのは、こちらのパリュール。グロスター・エメラルドのネックレスはバージット妃の義理の母アリス妃が所有していたもの。アリス妃の義理の両親のジョージ5世とメアリー王妃は、アリス妃の結婚祝いにイヤリングと一緒にネックレスを贈った。
ハニーサックル・ティアラは、メアリー王妃が1914年に「ガラード」に注文したもので、センターにエメラルド、クンツァイト、ダイヤモンドという3種の異なる石が、ハニーサックル(スイカズラ)のモチーフを象っている。メアリー王妃は義理の娘のアリス妃に譲り、アリス妃はさらにその義理の娘バージット妃に遺した。
エリザベス女王のパリュール
1989年にマレーシアを訪問した際には、晩さん会向けにケンブリッジ・エメラルドのジュエリー一式をチョイスしたエリザベス女王。
このデリー・ダーバー・ネックレスは、カボションカットのエメラルド9個と大ぶりのダイヤモンド6個がラウンドブリリアントカットのチェーンでつながっており、さらに8.8カラットのマーキスカットのダイヤモンドがエメラルドのペンダントの隣に揺れるデザイン。女王は、そこにおそろいのイヤリングとブレスレット、ブローチも着用した。