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おしゃれなだけじゃない! 人気監督によるパリの多様性を描いたフランス映画15
多民族、移民、格差の問題を抱えながら共に生きるパリのリアルは現代の監督にとって避けて通れない題材だ。映画祭常連の監督作を中心に社会を見つめた秀作を紹介! エル・ジャポン10月号より。
Text REIKO KUBO
Photo AFLO, AMANAIMAGES, © 2019 ADNP - TEN CINÉMA - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - BELGA PRODUCTIONS - QUAD+TEN
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最前線で描かれるのは多民族都市である現実
Black Lives Matter運動に先駆けること25年。映画100年を記念した1995年のカンヌ国際映画祭は、当時28歳の新人監督マチュー・カソヴィッツの『憎しみ』に瞠目した。パリ郊外に住むユダヤ系、アフリカ系、アラブ系の若者3人の怒りが警官の暴行事件を契機に爆発するモノクロームの衝撃はセンセーションを呼び、監督賞を受賞。この『憎しみ』はフランス映画界に風穴をあけ、以後、多民族国家フランスの“今”を描く傾向が加速した。そしてデビュー作でカソヴィッツを起用したジャック・オディアールや、ブルジョワジーをブラックに皮肉った神童フランソワ・オゾンらが今やヨーロッパの現在を捉えた意欲作とともに最前線をひた走り、昨年は『憎しみ』に連なる衝撃作『レ・ミゼラブル』を引っ提げて新鋭監督ラ・ジリが登場。また『最強のふたり』のコンビ監督や、イヴァン・アタルとシャルロット・ゲンズブールのカップルらは人種や宗教を超えた人間愛を描き続けている。そんな刺激的な現代フランスのリアルを味わってほしい。
>>次のページよりダイバーシティを描いた作品を監督別にピックアップ!
ジャック・オディアール
フレンチ・ノワールの継承者が人種のるつぼをサバイブする男を描く
民族、宗教が入り交じるパリの刑務所は社会の縮図
『預言者』(2009)
19歳のアラブ系青年が6年の刑でパリ中央刑務所に収監される。コルシカ系、アフリカ系、アラブ系らが入り交じり、群雄割拠する社会の縮図のような場所で処世術と読み書きを学び、のし上がっていく主人公をスリリングに描き、新星タハール・ラヒムを一躍スターに押し上げた。カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ作品。
現代社会と暴力の物語に挑んだカンヌ パルム・ドール受賞作
『ディーパンの闘い』(2015)
内戦下のスリランカで家族を失った兵士が、偶然居合わせた女と子どもと難民家族を装ってフランスに入国。パリ郊外に落ち着き、新しい家族のために暴力を捨て、愛に生きようとするが……。鬼才オディアールが、元スリランカ・ゲリラ兵の亡命作家を主演に、移民、宗教、終わらない戦争について問いかけ、パルム・ドールを受賞。
フランソワ・オゾン
『8人の女たち』の人気監督が社会の様相を独特の感性で表現
思春期独特のホルモンの暴走と心理の流れを観察する
『17歳』(2013)
バカンス先で初体験を済ませ、17歳を迎えたパリのエリート高校生は、20歳のソルボンヌ大学生と偽って、SNSで知り合った男たちに体を委ねる。パリの地下鉄やホテルのラウンジを売春に向かう儀式の装置のように使い、モデル出身のマリーヌ・ヴァクトの肌と表情を通して、思春期の少女のホルモンと心理の流れを繊細に浮かび上がらせる。
ジェンダーの問題を通して自分らしく生きることを描く
『彼は秘密の女ともだち』(2014)
クレールは親友ローラを失い、悲しみに暮れつつも、彼女の娘リュシーと夫ダヴィッドを見守ることを決意する。ところが意を決して訪ねたローラの家で、クレールの目に飛び込んできたものは!? ゲイであることをカミングアウトしているオゾンがジェンダー問題を描くことで、自分らしく生きることの大切さをハートウオーミングに訴える。
ミカエル・アース
繊細な語り口でつむぐ詩的な映像世界が注目の新鋭
テロの恐怖と悲しみをパリの夏の陽光がそっと癒やす
『アマンダと僕』(2018)
アルバイト生活を送るダヴィッドがピクニック予定の公園に向かうと、そこには白昼夢さながらの光景が。仲の良かった姉をテロの犠牲で失ったダヴィッドは、姉の幼い娘アマンダの慣れない育児に戸惑うが、アマンダも大好きなママとの突然の別れを受け止められない。テロが横行する現代パリの世相を背景に生への希望をつむぐ。
3都市の夏の日差しに心解かれていく旅
『サマーフィーリング』(2015)
光あふれる夏の日のベルリンで、30歳のサシャが突然、この世を去る。彼女の死は、深い悲しみを抱えた恋人ローレンスと妹ゾエを引き合わせた。1年後のパリ、2年後のニューヨークと3都市の夏を舞台に、深い喪失感にさいなまれる二人が再び人生の光を手繰り寄せる時間を切り取り、見る者の心に静かに染み入る感動を描く。
エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ
ユーモアで絆の物語を届ける『最強のふたり』の監督コンビ
監督コンビが新人時代に出会い、映画化を誓った実話ドラマ
『スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』(2019)
パリのサン・ドニで自閉症患者を支援する「正義の声」を運営するユダヤ人のブリュノ(ヴァンサン・カッセル)と、ドロップアウトした若者たちをセラピストとして育てる「寄港」のアラブ系主宰者マリク。社会からはみ出した人間と向き合い続ける組織に閉鎖の危機が迫る。現在公開中。
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痛快! お城ウエディングで巻き起こる多国籍トラブルの行方は⁉
『セラヴィ!』(2017)
ベテランのウエディングプランナー(ジャン=ピエール・バクリ)が古城での豪華結婚式を企画。新郎の無理難題、ミュージシャンの横暴、言葉の通じない移民バイトに電気トラブル……。人気コンビ監督がユダヤ人ならではのユーモアと皮肉を利かせ、キレるパリジャン、多国籍フランスのあるある! で笑わせ、ホロリとさせる。
ラジ・リ
現代のレ・ミゼラブルを告発! カンヌが認めた新星
パリのスラム街で生まれ育った映画青年が描く衝撃の現実
『レ・ミゼラブル』(2019)
ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』の舞台パリ郊外のモンフェルメイユは、今や犯罪多発地区。この街の警察署に転属してきた警察官は、人種間の緊張状態や同僚たちの手荒な言動と遭遇する。監督が偶然ドローンで撮影した事件から端を発したカンヌの審査員賞受賞作は、新しいパリの映画の誕生を告げ、新鋭ラジ・リの名をとどろかせた。
鬼才ロウ・イエが描く異邦人の女とパリの男の恋
『パリ、ただよう花』(2010)
北京から恋人を追ってパリにやって来たホア(花)。新たに出会った建設工(タハール・ラヒム)と恋に落ちるが、どんなに体を重ねても満たされない思いが募る。『スプリング・フィーバー』の鬼才ロウ・イエが、異文化の間で揺れる中国女性の心情を切なく描く。
移民のフランス語クラスを通して現代を映し出すドキュメント
『バベルの学校』(2013)
世界中から移住してきた子どもたちがフランス語を学ぶ適応クラスを、『やさしい嘘』の監督ジュリー・ベルトゥチェリが追ったドキュメンタリー。授業風景と親子面談を淡々と映し出しながら、子どもたちひとりひとりの環境や母国を後にした理由が浮かび上がる。
日本でも話題の尊厳死 元首相の母の実話を映画化
『92歳のパリジェンヌ』(2015)
助産師だった母が突然、2カ月後の92歳の誕生日に自死を決行すると告げる。猛反発する息子に対し、サンドリーヌ・ボネール演じる娘は母の最後の日々に寄り添うことに。日本でも話題の尊厳死を描くドラマは、ジョスパン元フランス首相の母の実話が原案。
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複雑な歴史を背負うユダヤ人を自虐ギャグで描ききる
『ユダヤ人だらけ』(2016)
フランスでユダヤ人として生きることを皮肉たっぷりに笑いのめすNetflix製作映画。監督は、スペイン出身のセファルディ系ユダヤ人イヴァン・アタル。彼に「貧乏なユダヤ人はアンタだけ!」と怒りをぶつける妻役にロシア系ユダヤ人のシャルロット・ゲンズブール!
新進女性監督と旬の女優が描く30代女性の気づき
『若い女』(2017)
10年付き合った金持ち男に捨てられ、家を追い出されたポーラは、腹いせに彼の猫を奪い、知り合いの家を転々とするも……。新進監督レオノール・セライユが、男頼みでのほほんと生きてきた金なし職なしの30代女性をフランス社会のただ中に放り出す。