抜け毛は誰にとっても日常的なこと。日々排水溝にたまり、1日おきに掃除機をかけないとカーペットにたくさんの髪の毛が付着するなんてこともあるけれど、毛が抜けることはまったく正常であるということを、まずは心に留めておこう。
ただ、私たちの髪の毛は平均で1日に約80本抜けると言われているが、それよりもずっと多くの毛が抜け始めた場合や、抜けた後に生えてこないことに気付いた場合は、要注意。
抜け毛には多くの原因が考えられるため、その理由を正確に突き止めるのは難しいが、改善策はあるのだろうか。専門家に尋ねてみた。
Photos: Getty Images Translation: Masayo Fukaya From COSMOPOLITAN UK
毛髪の成長サイクルを知ろう
まず、抜け毛にはどんな原因があるのかを知るために、抜け毛の専門家であり、ロンドンの「フィリップ・キングスリー・クリニック(Philip Kingsley Clinic)」のトリコロジスト(毛髪学者)であるアナベル・キングスリーさんと、抜け毛のチャリティイベント「Get Ahead of Hair Loss」の創設者であるシャロン・ウォン博士に話を聞いた。
・毛の成長サイクル
ウォン博士は、「毛髪が生まれ変わるサイクル“毛周期”には、以下の3つの段階があります。科学的ではありますが、とてもクールな仕組みです」と説明。
成長期:活発な成長期は2〜7年間持続し、その間に毛髪が長く太くなる
退行期:成長期の後、毛髪の成長が停止すると毛包は“退行期”と呼ばれる短い移行期間に入り、その後、休止期間が約3カ月続く
休止期:休止期には、古い毛髪が徐々に皮膚表面に向かって押し上げられ、自然に抜け落ちて新しい成長期の毛髪に生え変わる
一般的な頭髪であれば、毛包はそれぞれ別々のサイクル・別々の段階にあるため、抜け毛に気付くことはない。ウォン博士は、「このサイクルは生涯を通じて繰り返され、それぞれの毛包は隣接する毛包とは独立して循環しています。つまり、人間の毛の成長はすべて同じではないということです」と話す。
薄毛は女性にとって非常に一般的な悩みであるということを知っておくことも大切。キングスリーさんは、「調査によると少なくとも3人に1人の女性は、生涯のいずれかのタイミングで抜け毛や薄毛に悩みます」と言う。
そのため、抜け毛を必要以上に怖がる必要はなく、ふさふさとした髪の毛はいずれ元に戻る可能性もある。その間に、以下のことを知っておこう。
注意すべきポイント:薄毛にはさまざまなタイプがあり、遺伝性のものと反応性のものがある
遺伝性の薄毛:
遺伝的に髪が薄くなりやすくなる可能性があるのが、遺伝性の薄毛。つまり、髪の量が徐々に減っていく可能性があるということ。
キングスリーさんの説明によると、「この場合、特定の毛包の感受性が高いために男性ホルモンに影響されやすく、それにより毛包を徐々に収縮させ、毛周期を経るごとに少しずつ細く短い毛を作っていく」そう。
反応性の薄毛:
何らかの要因があって抜け毛につながっているのが、反応性の薄毛。キングスリーさんは、「毎日の過剰な抜け毛(休止期脱毛症)は、遺伝的な要因ではなく、栄養不足、深刻なストレス、激しいダイエット、病気といった体の内部のバランスの崩れや、不調の結果として発生します」と語る。
抜け毛を引き起こす8つの要因を知ろう
1. ホルモンバランスの崩れ
ホルモンのバランスが崩れると、吹き出物から体重の増加まで、健康や美容に関する多くの厄介な問題を引き起こす可能性がある。ホルモンの調子が悪いと、毛髪を含む全身に影響が出る。
「ホルモンは毛周期の調整に大きな役割を果たしています。エストロゲン(女性ホルモン)は“髪に優しい”ホルモンで、毛髪を成長期に最適な期間維持するのに役立ちます。アンドロゲン(男性ホルモン)はあまり髪に優しくなく、毛周期を短くしてしまいます」とキングスリーさんは語る。
「アンドロゲンが過剰に分泌されると(多嚢胞性卵巣症候群などの内分泌疾患が原因である可能性がある)、抜け毛が起こります。その度合いは多くの場合、遺伝子に依存しています」
「もし毛包感受性の遺伝的素因を持っている場合、ホルモンバランスの崩れは、遺伝的素因を持っていない人よりも髪に影響を与えている可能性があります」
2. ストレス
過剰なストレスが抜け毛の直接的な原因となることはない。しかし、ストレスによってアンドロゲン(男性ホルモン)の血中濃度が上昇し、それが原因で抜け毛につながることはあるそう。
キングスリーさん曰く、「ストレスは、フケなど頭皮の問題を引き起こしたり、食習慣を乱したり、消化器系を乱したりすることがありますが、これらはすべて毛髪に悪影響を及ぼす可能性があります」と言う。
3. 鉄欠乏性貧血
キングスリーさんによると、「女性の薄毛の最も一般的な原因のひとつは、鉄分不足です。鉄分は有毛細胞タンパク質の生産に必須です」とのこと。つまり、鉄不足に陥ると髪の質が悪くなってしまう。
薄毛が疑われる場合は、主治医に相談して鉄欠乏症に関するアドバイスをもらうのがベスト。そうすれば、医師が正しい治療を確認するために、血液検査を勧めてくれるかもしれない。
4. 甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症
「甲状腺は、たんぱく質の産生と組織での酸素の使用を制御することで、体の代謝を調節しています。したがって、甲状腺のバランスが崩れると、毛包に影響を及ぼす可能性があります」とキングスリーさん。
また、甲状腺機能低下症を放置しておくと貧血になり、それにより頭髪に悪影響を及ぼす場合もある。
5. ビタミンB12欠乏症
ビタミンB12が不足すると、疲れを感じたりエネルギー不足になったりするほか、髪に負担をかけることもあるそう。
「ビタミンB12欠乏症は、組織に酸素を運ぶ赤血球に影響を及ぼすため、しばしば抜け毛を引き起こします。B12は主に動物性タンパク質からしかとることができないため、ビタミンB12欠乏症はヴィーガンの人によく見られる症状です」とキングスリーさんは言う。
6. 大幅な体重減少
キングスリーさんは、「意図的であっても、そうでなくても、体重が大幅に減少してから6〜12週間後に、毛髪が過剰に抜けることはよくあります」と説明。
さらに、「私たちの髪の毛は精神的な面で非常に重要ですが、生理学的には必須ではありません。髪の毛がなくても私たちは健康を損なうことなく生きていくことができるのです。つまり、栄養不足は、最初に髪の毛に現れることが多いということです」と語る。
7. 加齢
更年期を迎えたり、更年期に差しかかったりすると、体の変化が髪にも影響を与えることがある。
キングスリーさんは「更年期の前後には抜け毛が多くなります」と言うが、いっぽうで「私たちの髪は年齢を重ねるにつれて自然に細くなっていきます。これを認識することが重要です。これはごく一般的な老化現象なのです」とのこと。
8. けん引性脱毛症
髪と頭皮に負担をかける髪型に挑戦したい人は、その合間に髪をしっかり休ませるようにしたほうがベター。
「『けん引性脱毛症』も、よくある抜け毛の原因のひとつです。これは、長期間三つ編みや長いドレッドロックスのような特定のヘアスタイルにすることで、毛包に引っ張る力が繰り返し加えられ、引き起こる抜け毛です。薄毛になるのは髪が最も引っ張られている部分で、一般的には髪の生え際が多いです」とウォン博士は警告。
では、改善策は?
抜け毛の原因をつかんだところで、対処法を解説。
・問題を認識する
薄毛はすぐに起こるものではなく、髪の毛は周期的に成長しているため、何かきっかけがあってから毛が抜けるまでに最大3カ月かかることもある。
キングスリーさんは、「3カ月以上、毎日過度の抜け毛が続いている場合は、かかりつけ医などに相談してください。最も重要なのは、パニックにならないことです。休止期の抜け毛は自然に落ち着きますし、体の内部のバランスがよくなると、毛髪はいつもどおりに成長し始めます」とアドバイスする。
・食生活を見直す
1)より多くのタンパク質を摂る
キングスリーさんは、タンパク質の摂取について次のように推奨。「髪の毛はタンパク質でできているため、毎日タンパク質を豊富に含む食品を十分に摂取することが不可欠です。朝食と昼食には、少なくとも手のひらサイズ(約120g)のタンパク質を摂取するように心がけましょう」
2)複合炭水化物も必須
「複合炭水化物は、髪の成長に必要なエネルギーを与えてくれます。食事と食事との間隔が4時間以上空いてしまう場合は、良質な炭水化物(新鮮な生野菜やフルーツ、または全粒小麦クラッカーなど)を間食に食べるようにしましょう。4時間が経過すると、有毛細胞に取り入れられるエネルギーが低下するためです」
とはいえ、ストレスや病気といった食生活以外の理由で抜け毛が増えている場合は、食事を変えても改善されないとキングスリーさんは説明する。
・サプリメントを飲む
「毛髪は非必須組織であるため、必要とする栄養素も独特です。サプリメントは、毛包に必要なビタミンやミネラルの濃度を高めるのに非常に役立ちます。しかし、十分な効果を得るためには、健康的でバランスのよい食事と一緒に摂取する必要があります」
キングスリーさんは、鉄分、ビタミンC、ビタミンB12、ビタミンD3、銅、亜鉛、セレン、必須アミノ酸のL-リジンとL-メチオニンに気を配るよう勧めている。
・ヘッドマッサージの効果はセルフケア以上
アーユルヴェーダのメソッドをもとにしたプロダクトを作っているブランド、「Fable & Mane」の共同創設者ニキータ・メータは、頭皮への血流を促進する伝統的なヘッドマッサージが頭皮の健康につながると語る。
「ヘアオイルは髪を根元から強くします。毛包や髪束を強化して保護し、頭皮のコンディションを整え、健やかな髪の成長を促すため、抜け毛や切れ毛に悩む方に最適です」
「アーユルヴェーダのハーブを配合した良質なオイルを、洗髪前の乾いた髪にトリートメントとして塗布すると、オイルが毛幹に浸透し、髪が濡れても傷みにくくなります」
・スタイリングの知識を身につける
さらりとなびくポニーテールは素敵だけれど、髪に負担をかけているかもしれない。「髪や毛包を引っ張りすぎないようにしましょう」とキングスリーさんはアドバイス。
また、髪に不必要な重みを加えることがあるので、ヘビーなスタイリングクリームやセラムは避けるよう勧めている。
また抜け毛が多い時期は、縮毛矯正やヘアカラーといった刺激の強い化学的な施術も、なるべく避けるのがよいそう。
・抜け毛を恐れない
抜け毛でストレスを感じることもあるが、キングスリーさんは女性の抜け毛がいかに一般的であるかを理解することが重要だと強調。抜け毛を経験しているのは自分だけではないし、恥ずかしがる必要もない。
「ひとつの製品だけで抜け毛が改善することはありません。心身の健康や食事のバランスにも気をつけながら、頭皮の健康と髪の成長を促していく必要があります」
「悩んでしまう人もいると思いますが、絶望しないで忍耐強くケアしていきましょう。毛の成長サイクルの性質上、改善が見られるまでに少なくとも6週間かかるということを、覚えておいてください」
このところヘアロスに悩んでいるという人は、一度専門医に診てもらうことも考えてみては。