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Photo : Courtesy of Stella McCartney via Instagram

ファッション界が立ち向かう女性への暴力

「グッチ」などトップブランドを数多く擁するケリンググループが男性に対し、女性に対する暴力根絶を訴える、「ホワイトリボン・フォー・ウィメン」キャンペーンを今年も展開。5回目を数える今回は男性たちに訴えるべく男性のアンバサダーを迎え、ケリング財団のHPで暴力根絶のため活動を続けるNGO団体への寄付を募っている。

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©Kering Foundation

1999年、11月25日を「女性に対する暴力撤廃の国際デー」に定めた国連もアンジェリーナ・ジョリーら大使たちと世界的解決に向けて奔走しているこの「女性に対する暴力」。これほどまでにフォーカスされてきた理由のひとつに、ホワイトリボン誕生のきっかけとなった銃乱射事件がある。27年前に起こった、忘れてはならないカナダの歴史的な大事件。
 
1989年カナダ有数の名門モントリオール理工科大学でひとりのテロリストが14人を銃殺。殺害されたのは全員、女性。撃たれた理由は「女だから」……。

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事件現場のモントリオール理工科大学の前にたたずむ女性たち。

Photo : Getty Images

殺された理由は「女だから」

カナダの歴史に永遠に残り続けるであろうこの“モントリオール理工科大学事件”は、その後の銃規制や差別撤廃に対する意識をがらりと変えた大事件。犯人はカナダ人男性マルク・レピーヌ。

レピーヌは厳格な父親に殴られながら、「社会進出する女性は悪」「女性は奴隷」「女性には教育を受ける資格はない」と教え込まれて育った。虐待されて育ったせいか、非常に内気であるいっぽう、軍隊や武器に強い興味を持ち始める。学力は高く、名門校モントリオール理工科大学を受験するまでに。しかし受験に失敗したことをきっかけに狂気が芽生え始める。

「どうして自分が落ちた?」 理由を追及した結果、導き出したのは「男性が占めていた理工科系の世界に女性が進出し始めたから」という理屈(当時、カナダでは今でいうリケジョが増加)。男が座っていた椅子を新興勢力の女性が奪ったから自分は落ちたのだと。

そうしてレピーヌが最終的にたどり着いた結論はこう。

「女は高等教育を受けるべきではない」、よって「行き過ぎた教育を女に施すフェミニストは殺害するべきだ」。

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犠牲者たちの葬儀。

Photo : Getty Images

恐ろしいほどに被害者意識にまみれた女性蔑視と差別意識。「軍隊への憧れ」のおかげで習得していた銃の知識が、その意識を実体化させてしまう。ライフルと狩猟用ナイフを手に突然大学に乗り込むと、「自分は反フェミニズムだ」と宣言。そうして教室にいた学生たちを「機械的に」男女で選別し女性たちを射殺。それが終わると、校内を「女性を探しては撃って」いく。被害者は28人。命を落とした14人はすべて女性だった。

「私たち男性には女性への暴力に反対する責任がある」。カナダ人男性3人が女性への暴力に「NO」をつきつけるべく運動を拡げ、事件から2年後毎年11月25日から事件が起こった12月6日までをキャンペーン期間に定め、そのシンボルとなったのがホワイトリボンだった。

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毎年12月6日を迎えるたびにともされるろうそくの火。

Photo : Getty Images

差別の根底に流れる自己中心的被害者意識

残念なことに、レピーヌの思考回路が決して“異常者”のそれではなく、むしろ“ふつう”の人の思考回路だと不幸にも気づかせてくれたのがBrexitと米大統領選だった。「移民が入ってきたから、もともといた俺たちの仕事がなくなっている」と主張する、トランプ大統領やBrexit支持者の多くと同じ論理を彼の主張に見つけることができる。移民がもたらしたこれまでの経済効果や、一部の労働を低賃金化させた自分たちの責任を無視。利益が再分配されない理由を自分たちにではなく、「他の人々」に求めて大声を上げている。

他の参加者を締め出して自分が椅子取りゲームに勝つ。移民排斥の根っこにある思想が、いかにジャイアン的かに気づくというもの。もちろんそれが移民排斥論のすべてではないとしても。

マイノリティがマジョリティの世界に進出すると、「椅子取りゲームの椅子をマイノリティに奪われ損をしている」として被害者意識に耽溺し、差別することを正当化するマジョリティ人間が必ず登場するけれど、レピーヌはまさにその典型だった。

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2008年に詐欺行為とマネー・ロンダリングで逮捕されるまで、4年間アン・ハサウェイと付き合っていたラファエロ・フォリネッリ。トランプは逮捕された途端に別れたアンを「金がなくなった途端に別れやがって。男に忠実じゃない」と非難(ABC News)。

Photo : Aflo

次期米大統領が合法な人々を含めて移民排斥を主張し、ブッシュ大統領の従兄弟と会話で「あの女、ファ●クしてやる」と叫び、女性の男性への不服従を嫌う。アンジェリーナ・ジョリーには父と不仲だからと「俺に言わせりゃ全然魅力的じゃない」、アン・ハサウェイには犯罪者となった恋人と別れたら「不実」と暴言を吐いた。

「俺の人生を破壊したフェミニスト野郎たちを抹殺してやる!」 そう叫んだ彼をモンスターにしたのは、「男と平等になろうとする女は男の利益を侵害している」「女は男にひれ伏していればいい」と教え込んだ父親。その影を、トランプ次期大統領の父権主義とマチズモに感じずにはいられない。

トランプが口にした女性への暴言が“問題発言”になっているのは、ただ単に下品な発言だったからではなく、女性差別が最終的に女性全体に恐怖を抱かせるテロリズムと繋がることを体験してきたから。そして、この恐怖は今でも続いているから。

というのも、レピーヌがその場で自殺しただけでこの事件は終わらなかった。現場で自殺した彼の遺品のなかから、“この世から消すべきフェミニストの一覧”を記載したリストが見つかった。名指しされた女性たちは、現在にいたるまでいつ反フェミニストたちの標的にされるかもしれない恐怖と対峙している。

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今年10月、レピーヌの呪いがまだまだカナダに根付いていることを証明する事件が起こった。被害者は「女性と成功」をテーマに一冊の本を上梓したカナダの女性作家レア・クレルモン=ディオン。出版直後、彼女のツイッターアカウントにリプライがついた。


“ワォ、最高。レピーヌがあの世から例のリスト更新したってよ #LOL”

活躍する女性たちが大勢取り上げられたその本を、あの悪夢のような“レピーヌのリスト”だと。このつぶやき主のアカウントを開くと、トランプ発言をそのまま仏訳したかのような性的に猥雑な単語と、不寛容な主張が並んでいる。

唯一の救いはその後のケベック州警察による彼女へのリプライ。

“こんにちは。ケベック州警察はこのつぶやきを犯罪情報センターに通報しました”

あえなくつぶやきの主は危険人物としてテロリスト予備軍リスト入り。テロは喚起させるだけでも犯罪になりうると認定した。となると、レピーヌの父親同様に、その種を撒いている人は完全に“責任なし”と言えるか疑問。

女性差別主義者が女性をターゲットにした事件は常に世界中で引き起こされている。テッド・バンディ事件(1974年~米国)、ルビーズ銃乱射事件(1991年米テキサス)、ガオ・チェンヨン事件(1988年中国)、ユ・ヨンチョル事件(2003年韓国ソウル)、江南駅通り魔事件(2016年韓国ソウル)、古くは切り裂きジャック(1888年英国)などなど。

女性差別主義者が女性を貶め、そして暴力で黙らせていく。この暴挙と引き換えに“自国の利益”が実現されたとして、それに価値を見出せるのか歴史をもう一度振り返ってみたいもの。