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「洋服を長く大切に着たい」という意識から、近年注目されているのが水洗い洗濯。なぜ、水洗いが洋服を長持ちさせるの? そもそも、ドライクリーニングと何が違うの? そんな洗濯に関する素朴な疑問に専門家がアンサー。
■話を聞いた人
永井良房さん
石油系有機溶剤を一切使用しない、水洗いクリーニング専門のクリーニング店「Licue(リクエ)」の責任者。クリーニング業界約30年のベテランで、高知県に本山を構えるシミ抜きの流派「不入流(いらずりゅう)」に学ぶシミ抜きやテーラードプレスのプロフェッショナル。アパレルブランドや芸能界からの支持も厚く、全国各地でさまざまな講演を行う。
1. ドライクリーニングは石油で洗っている
ドライクリーニング=水を使わない洗濯法のこと。主に石油系の有機溶剤を使って、油性の汚れを溶かし出して洗浄するのがドライクリーニングです。有機溶剤の中に衣類を投入し、ペーパーフィルターと活性炭でろ過しながら、グルグルと循環させて洗うのが一般的。
「水洗いと違って、型崩れや生地の縮み、色落ちが少ない、油汚れがよく落ちるというメリットもありますが、そもそもドライクリーニングは溶剤を入れ替えずフィルターで汚れをろ過するだけなので、何度も使い回した汚れた溶剤を繰り返し使うことで、かえって汚れや匂いが付着してしまうことも。また、天然素材の表面にもともとある天然の油成分までも落としてしまうので、衣類がカサカサになって寿命が短くなるというデメリットもあります。もちろん、間違った方法で水洗いをすると、型崩れや生地のフェルト化などでより寿命を縮めてしまう可能性もあります。ドライクリーニングのメリット、デメリットを理解して、素材や汚れの種類に合った洗濯法を選択してください」
2. ヨーロッパではクリーニング屋が圧倒的に少ない
ヨーロッパでは、なかなか見かけることのないドライクリーニング店。日本にはこんなに浸透しているのに、なぜ?
「エコロジー意識が高いヨーロッパでは、お湯洗いが主流。ドライクリーニングで使用する有機溶剤には、光化学オキシダントや発がん性物質が含まれています。また、廃液ヘドロは産業廃棄物となり、燃やすことで大気汚染や土壌汚染の原因に。さらに乾燥工程で重油やガス等の化石燃料を大量使用するなど、環境負荷が大きい点が社会問題になっています。汚れが落ちやすいお湯を使って家で洗濯をする文化が浸透しているヨーロッパでは、汚れの種類に合わせて実にさまざまな洗剤が普及しています。何でもかんでもドライクリーニングに出すのではなく、必要に応じて使い分けることが、今の時代に求められている洗濯観だと思います」
3. 水洗い洗濯でいちばん大切なのは“すすぎ”
「そもそも、洗濯の仕方自体が間違っている人が本当に多いんです」と語る永井さん。特に気を付けたいのが洗濯機に入れる洋服の量。
「パンパンに入れてしまっては、汚れが十分に落とせません。入れる量はドラム容量の7~8割まで。洗剤は入れすぎても少なすぎてもダメで、表示分量を投入してください。そして実は、いちばん大切なのがすすぎ。洗剤が生地に残ったままだと、ごわつきの原因になってしまいます。すすぎは最低2回以上。1回目のすすぎは、繊維に洗剤が残っていて、もう一回洗っているようなもの。2回目が本当の意味でのすすぎ。真水で洗剤をしっかりと落としてください。全自動のお急ぎコースや節約コースだとすすぎが1回の場合もあるので、よく確認して使ってください」
4. ヨーロッパではお湯洗いが主流
日本では水で洗うのが当たり前だが、ヨーロッパの洗濯機はほとんどがお湯洗い対応。それはなぜ?
「ヨーロッパは硬水が多いからです。硬水は汚れ落ちが悪く、そのため温度を上げて洗浄力を高める必要があります。逆に日本は軟水なので、水の温度を上げる必要がないのです。一般に、皮脂などのたんぱく汚れは、体温以上の温度のほうが落ちやすいです。ベストは40℃くらいのぬるま湯。海外では熱湯で洗う洗濯機もありますが、50℃以上になると洗浄力が上がっても生地が縮んだり色落ちしたり、シワになりやすいなど生地にダメージを与えてしまうので避けてください。おすすめは、お風呂の残り湯に洗剤を加え、たんぱく汚れが気になる下着や靴下を付け置きする方法。一晩つけておいてから洗濯機に入れるだけで驚くほどきれいになり、黄ばみや匂いの心配がなくなりますよ」
5. 水溶性の汚れは、ドライクリーニングでは落ちない
ドライクリーニングで使っている石油系有機溶剤は、水と相反するものなので混ざり合うことはありません。そのため、油性の汚れはするっと落ちても、汗ジミや食べこぼしといった水溶性の汚れをドライクリーニングだけで落とすのは不可能。
「通常クリーニング店では、ドライクリーニングをする前に、前処理や特殊なシミ抜き処理を施したり、ウェットクリーニングといった特殊な方法で洗うなど、汚れを落とすためにさまざまな対処を行っています。汚れやシミがついている場合は、必ずクリーニングに出す際に事前に相談すること。料金だけでなく、汚れに真摯に対応してくれる信頼のおけるクリーニング店を選ぶことが大切です」
6. 水洗い可能な服が増えている
節約意識やエコの意識が高まっている今、実は水洗い可能な服が近年どんどん増えている。今までなら迷わずドライクリーニングに出していたインポートの洋服も、実は水洗いできるものが多いのだ。
「2016年12月から、国際的な共通表示である新JISマークに変更になったので、マークさえ覚えれば、インポートの洋服の手入れがしやすくなりました。新しく登場したのが、ウェットクリーニングマーク。このマークがついていたら、水洗いクリーニングが可能なので、安易にドライクリーニングを選ぶのではなく、専門のクリーニング店でプロによる水洗いを試してみてください。ドライに比べて水洗いは、大変にはなるけれど落とせない汚れは基本的にありません。出来上がりを比べてみると、カサカサになってしまうドライに比べて水洗いのツヤ感は全然違いますし、さっぱり感もすごい。ぜひ違いを比べてみてほしいですね」
ちなみに、水を嫌い、縮みやすいとされるウールやシルクなどの動物性繊維のなかでも、カシミアは水に強く縮みにくい傾向が。また、シルクは着なくても経年劣化で黄ばんできます。定期的にプロによる水洗いを施すのが得策。
※ウェットクリーニングマークは、アンダーバー数が多いほど弱い操作を示す。2本線は“非常に弱い操作のウエットクリーニングができる”という意味。
7. 白さを求めるなら、液体よりも粉洗剤
スーパーやドラッグストアで洗剤を買うとき、ただ漠然と選んでいる人も多いのでは? 実は同じブランドの粉洗剤と液体洗剤でもその効果は異なるそう。
「粉洗剤はアルカリ性で、液体洗剤は中性。アルカリ性は皮脂や食べこぼしなどのたんぱく質系の汚れを落とすのに効果的で、しかも量を入れれば入れるほど洗浄力がアップします。ただし、その分しっかりとすすがないと、生地に洗剤が残ってしまい肌に悪影響を及ぼしてしまう可能性も。また粉砕するコストがかかるので、価格も割高になってしまいます。
一方、中性の液体洗剤は、洗浄力は粉洗剤に劣るものの、衣類にやさしいという特徴が。水に溶けやすいうえ、すすぎも少なくて済み、洗濯事故も少ないというメリットも。ただし、洗剤を水に浸透させ、乳化させる働きをもつ合成界面活性剤が大量に入っているので、その毒性が体に悪影響を及ぼしたり、下水処理でも分解・除去ができないので環境破壊にもつながってしまいます。また、液体洗剤はどんなにたくさん入れても、洗浄力は一定で変わりません。
ちなみに洗剤は合成界面活性剤ですが、石けんは脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウムなどを使用した天然界面活性剤。アレルギーの人や赤ちゃんの洗濯には、洗剤よりも石けんを選んだほうが安心です」
8. 柔軟剤は一概に悪とは言えない
柔軟剤には生地を柔らかくしてくれる効果があるけれど、果たして体に悪くないの?
「洗剤はすすいで落とすものだけれど、柔軟剤は生地に残すものなので濃度的に多少は生地に薬剤が残ってしまいます。昔の柔軟剤は毒性のある成分がたくさん入っていましたが、今はそこまで気にしなくても大丈夫。アトピーや化学物質過敏症など、皮膚の弱い人は避けたほうがいいですが、普通の皮膚の人ならアレルギー反応は出ないと思います。むしろ、静電気のほうが体に害。柔軟剤には静電気を抑える効果があるので、静電気が気になる人は使ったほうがよいですね。特に化繊の場合は生地を柔らかくしてくれるので柔軟剤が効果的です。このように一概に柔軟剤が悪いとは言えないので、過剰に入れさえしなければ、体質や洗うものによって使い分けるとよいと思います」
9. 柔軟剤で気を付けたいのは、むしろ香り
むしろ合成香料のほうが怖いと語る永井さん。「アロマオイルなどの天然の香料ならいいけれど、合成的香料は非常に危険。長時間香り続ける合成香料や消臭成分の気体は、鼻から直接肺に入ってしまうので健康へのダメージに関しては圧倒的にハイリスク。また香料成分が洗濯槽にこびりついてしまうので、カビの繁殖の原因にも」
柔軟剤はあくまで静電気を抑え生地を柔らかくするものであって、香りを長時間キープするものではないと心得て。
10. 柔軟剤が苦手な人は酢を入れるべし
それでも柔軟剤を入れるのに抵抗がある人は、ぜひ試してほしいのが酢を入れる方法。
「2回目のすすぎのときに、クエン酸や酢酸(食用酢)をスプーン一杯(約5cc)入れることでアルカリ性が中和されます。石けんと一緒に使うと、脂肪酸ナトリウムを油化して衣類を油膜で覆い、乾いたときにも薄い油膜が残るので柔軟効果が続きます。酢の匂いは乾くと飛んでしまうので気にしなくても大丈夫。食用酢でなくても、リンス剤や中和剤という名前で売っているものもあります。アトピーや肌の弱い人、赤ちゃんがいる家庭は、ぜひ試してみてください」