2021年3月下旬、新型コロナウイルスの新規変異種の感染拡大により、フランス政府は衣料品店を含む多くの実店舗の閉鎖とリモートワークを要請した。しかし、「ブラデリー(The Bradery)」を立ち上げた若手実業家はこの状況に絶望することはなかった。

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親友であるエドアール・カラコとティモシー・リニエが2019年に創設した「ブラデリー(The Bradery)」は、ハイエンドなブランドの売れ残り製品を専門とするアウトレットECサイト。週4日、各ブランドの新たな商品がラインナップされ、顧客は数日間限定でそれらを購入することできる。ミレニアル世代をターゲットにしたおかげで、2020年の一年間のパンデミックの後には売り上げを10倍に伸ばした。「セオリー」「サンドロ」「ザディグ エ ヴォルテール」などのブランドがプロジェクトに魅了されて彼らのドアをノックした。

ブラデリー
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エドアール・カラコとティモシー・リニエ。

「150のブランドが契約に署名しました。ブランドは売れ残り製品を解消する必要があり、『ブラデリー』はそれを可能にします」とエドアールは信じている。彼はまた、このモデルによってキャッシュフローを補充して従業員への給与に充てるだけでなく、将来のコレクションの資金調達にも繋がると主張する。なぜなら切迫した状況は現実だからだ。フランスでは、毎年624トンの新しい洋服が市場を出回る。重量にするとエッフェル塔62個分に相当する。2021年1月、フランスの有力紙「ル・フィガロ」は警告的なレポートを出した。「10〜15%が売れ残ることに慣れていた。通常これらは3月もしくはその後のセールで販売される。しかし今年は、2着に1着はブランドの手元に残ってしまっている」

full frame shot of old clothes
Michel Tripepi / EyeEm//Getty Images

無駄と過剰生産が多すぎる、ファッション業界の現状が露呈

ではこの破滅的な商品をどのように処理するべきか? 「これは惨事だ」とフランス婦人プレタポルテ連盟の会長ピエール=フランソワ・ル・ルエは嘆いた。パンデミックによる影響は深刻であり、2023年までに通常の状態に戻ることは期待できない。仮に2022年に2019年の経済活動レベルに戻ったとしても、今年は取り返しのつかない異常なものとなる。そして今年3月に新たなロックダウンが施行されたため、専門家は希望を見出せずにいる。

「ファッションにとって大打撃です。積極的なプロモーションによっても成長を再開することはないでしょう。消費者は完全に季節を失ったのですから。将来の見通しは立っていません」と述べるルエ会長。フランスのファッション研究所(IFM)の経済観測所の所長であるジルダ・マンヴィエルも同じ見解を展開している。「パンデミックの一年でカードは再シャッフルされました。市場は完全に予測不可能となり、2020年は売上高が15%削減。短期間の生産やリアルタイムな在庫管理が難しくなり、カプセルコレクションを削減し、色のバリエーションを減らすことに注意を払った。ブランドにとってこれ以上の損失は許容できません」

dress from a commercial set
Michel Tripepi / EyeEm//Getty Images
#BUYLESSBUYBETTER 最低限、そしてより良い消費へ

無駄と過剰生産が多すぎる……。パンデミックは消費者行動の変化も加速させ、セカンドハンドへと目を向けさせた。2020年に10億ユーロ(約1300億円)に達した衣料品リセール部門は、ブランドが生き残るための命綱となっている。これを念頭に置き、ラグジュアリー製品を扱う「ヴェスティエール・コレクティブ」などのリセールプラットフォームと好意的なパートナーシップを結ぶブランドが増加している。「ケリング」グループの参入によりユニコーン企業の地位を獲得した「ヴェスティエール・コレクティブ」は、新たなプロジェクトとしてブランド認証サービスを提供する。このサービスにより、顧客は状態の良い商品をブランドに持ち込み、同ブランドで使える商品券を受け取ることができる。買い戻した商品は、ブランド認証済みのマークを付けて「ヴェスティエール・コレクティブ」上で販売される。2021年2月に「アレキサンダー・マックイーン」とともに試験的に始まったサービスで、「グループの他のブランドへの普及の途上にある」と「ヴェスティエール・コレクティブ」社長兼共同創設者であるファニー・モワゾは断言する。この仕組みは「マルベリー」も取り組んできたことだ。「私たちは既に、“The Mulberry Exchange”という名で使用済み製品と商品券の引き換えサービスを主導してきました。ブランドの認知度を高め、循環型経済に若くて賢明な新しい層の顧客を引きつけることができます」と「マルベリー」最高経営責任者ティエリー・アンドレッタは説明した。

若い顧客に中古品を勧めるのは、買い物への躊躇を阻止することに繋がる。例えば「コス(COS)」では、在庫品にセカンドライフを与えることで、有用性と倫理を組み合わせることを証明している。ECサイトをクリックすると、新製品とアーカイブが共存しているのがわかる。

「アーカイブをミックスしても、魅力が劣化することは一切ありません! ブランドはトレンドを無視して、製品の長い寿命に賭けているのです。シーズンが終わったら、魅力的な価格で再び提供できます。製品がトレンドレスであれば、そこに有効期限は生まれません」とハイブランドとリセール市場を繋ぐプラットフォームである「リーフロウント(REFLAUNT)」の共同創設者であるステファニー・クレスピンは述べた。「リーフロウント」はテクノロジーを駆使した新たなサービス。顧客は再販したい商品を購入したブランドのECサイトのアカウントページで再販ボタンをクリックすると、商品データが取得でき適正価格が提案される。その後、ブロックチェーン技術によって認証済みの商品は「リーフロウント」が提携している「ヴェスティエール・コレクティブ」や「バイド・ドレッシング(VIDE DRESSING)」など、世界中のリセール市場で再販される。彼らはまた、売れ残った商品に目を向け新旧のコレクションのレンタルサービスによる、新しいビジネスの扉を開けようとしている。

売れ残った製品を、実用的で責任ある代替品へ

もうひとつの重要な要素は、循環型経済を促進する廃棄物防止法の適用である。フランスでは2022年1月1日より、「非食品の生産者、輸入業者、流通業者」は売れ残った製品のリサイクル、寄付、またはリサイクルを余儀なくされ、違反者には罰金が科される。この分野では「リヴェロレム(Le Valorem)」のCEOを務めるエリック・レジェン(Eric Legent)が主導権を握っている。彼が1年前に立ち上げた「リヴェロレム」では、ラグジュアリーブランドの在庫を集めて解体し、使用可能な材料をリサイクルする仕組みを作った。

「新たな法律は、各ブランドに製品の品質にさらに焦点を当て、生産量を再考することを促します。『リヴェロレム』では、細断された革、布地、バスケットボールからハンガーを作成するなど、ブランドが製品のさまざまな部品を識別し、リサイクルできる新しい素材の設計を奨励しています」と「リヴェロレム」の共同マネージャーは説明する。既に「ディオール」「サン ローラン」「アレキサンダー・マックイーン」が注目する新しいプロジェクトである。「これにより、売れ残った製品が環境にとって悪ではないことを証明するでしょう。一方で、フランスで製品を手作業で分解するための雇用を創出することを可能にし、生産慣行の改善をも実現します。経済的、環境的観点から貴重な価値ある革新となります」と彼は締めくくった。売れ残った製品を実用的で責任ある代替品に変えることは、資源の危機と過剰消費を緩和する非常に多くの可能性を秘めている。

translation: ELIE INOUE


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