「ウォーキングは私が主に続けている有酸素運動で、妊娠していた時以外はずっと同じ体重を維持しています」と語るのは、フィットネス専門家のデニス・オースティン氏。また、『ドクター・オン・ディマンド・ダイエット(The Doctor on Demand Diet)』の著者であるメリナB・ジャンポリス医師によると、1日最低30分歩くのが理想的だという。スニーカーを履いて徒歩で仕事に行ったり、友人と一緒に歩いたりするなど、どんな形式であっても、ウォーキングは血圧を下げ、慢性疾患のリスクを減らすことにつながる。さらに脳を活性化し、幸せな気持ちになるなど、ありとあらゆるメリットがもたらされる。毎日たった30分間(1枚のアルバムを聴くよりも短い時間)のウォーキングを始めるだけで、他にどんな効果が期待できるのかを見ていこう。
Photo: Getty Images Translation: Masayo Fukaya From Prevention
気分が上がる
1杯のグラスワインや、2、3口のダークチョコレートは1日の疲れを吹き飛ばしてくれるが、ウォーキングでも同じ効果が得られるとジャンポリス氏は言う。
ジャンポリス氏はまた、「研究によると、定期的に歩くことで神経系が変化し、怒りや敵意が減少することがわかっています」と説明。特に緑の中を散策したり、日差しを少し浴びたりしながら歩くと効果が高く、季節性うつが急増する寒い時期にもおすすめだという。
ジャンポリス氏はさらに、パートナーや隣人、仲の良い友人と一緒に歩くことで交流が生まれ、つながりを感じやすくなるため、より多くの幸せを感じることができると語る。
カロリーの消費や減量を後押しする
ジャンポリス氏は、「ウォーキングを続けると、明らかに体重が減っていなくてもお腹が少し引き締まったことを実感するかもしれません。定期的なウォーキングは、インスリンに対する体の反応を改善し、お腹の脂肪を減らすのに効果的なのです」と言う。
カロリーをもっと燃焼させたい場合は、外を歩く時に坂道を含むルートを設定し、速歩きとゆったりとしたウォーキングを交互に行う。別の日に同じルートを歩き、前回のタイムを上回ることができるかどうかを確かめてみてほしいとオースティン氏は言う。「目標を達成するために夜にリビングルームを何周も歩く必要があったとしても、1日に最低1万歩は歩くようにしましょう」
ニューヨークにあるクランチ(Crunch)ジムでパーソナルトレーナーを務めるアリエル・イアセボリ氏は、毎日歩くことは脂肪を刺激し、体組成を積極的に変化させる最も低負荷で効果的な方法のひとつであると説明する。
「毎日のウォーキングは、余分なカロリーを燃焼させ、歳をとるにつれて特に重要になる筋肉の減少を防ぐことで代謝を高めます」とイアセボリ氏。わざわざジムに出かけてトレッドミルで運動する必要はないという手軽さも、ウォーキングの利点だという。
イアセボリ氏は、「私のクライアントの中には、毎日オフィスから自宅までの1マイル(約1.6km)を歩いた結果、わずか1カ月間で体脂肪が2%も減った人がいます」と語る。
ウォーキングのコーチで、『Prevention』の『ウォーク・ユア・ウェイ・トゥ・ベターヘルス(Walk Your Way to Better Health)』の著者でもあるミッシェル・スタテン氏によると、ウォーキングで体重を減らす秘訣はインターバルだという。「インターバルウォーキングは、ウォーキングが終わった後にもカロリーを消費し続けます」。インターバルの方法は、まず3分間ウォーミングアップを行い、その後最も速いスピードで1分間歩き、次にやや速いスピード(10段階で6ぐらいのスピード)で1分間歩くのを交互に繰り返し、これを25分間続ける。最後に2分間ゆったりと歩いてクールダウンする。
慢性疾患のリスクを減らす
米国糖尿病協会によると、ウォーキングは血糖値を下げ、糖尿病のリスクを下げるという。また、コロラド大学ボルダー校とテネシー大学の研究者らは、定期的にウォーキングをすることで血圧が11ポイント低下し、脳卒中のリスクを20~40%低下させる可能性があることを発見した。
『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicine)』に掲載されたウォーキングと健康に関する研究の中で最も引用されているのは、身体活動のガイドラインに沿って十分な距離を歩いた人は、定期的に歩いていない人と比較して心血管疾患のリスクが30%も低いことがわった。
マイアミにあるプリティキン長寿センター+スパ(Pritikin Longevity Center + Spa)のフィットネス部門ディレクター、スコット・ダンバーグ氏は、「ウォーキングが身体に及ぼす利点は十分に実証されています」と話す。スタンテン氏は、病気を予防するには長い散歩が重要だと言い、少なくとも週に1、2回は1時間のウォーキングを行うことをすすめている。
静脈瘤の発症を遅らせる
年齢を重ねると静脈瘤のリスクが高まる。しかし、ニューヨークにある静脈治療センター(The Vein Treatment Center)の創設者で所長を務めるルイス・ナヴァロ医師によると、ウォーキングによって静脈瘤の進行を防ぐことができるという。
ナヴァロ氏は「静脈系には “第二の心臓”と呼ばれる循環系があり、ふくらはぎと足にある筋肉、静脈、弁で形成されています」「このシステムは血液を心臓と肺に押し戻す働きをし、ウォーキングで足の筋肉を強化・維持することが第二次循環系の強化にもつながり、健康的な血流を促進してくれます」と説明。
もしすでに静脈瘤を患っているのであれば、毎日ウォーキングをすることで、足の腫れやその他の症状を和らげることができるとナヴァロ氏は言う。「また、遺伝子的に静脈瘤やクモの巣状静脈瘤ができやすい人は、毎日歩くことで発症を遅らせることができます」
消化が良くなる
消化器系の働きを促進させるためにコーヒーを飲んでいる人は、その代わりに朝のウォーキングを始めてみよう。
アメリカの癌治療センター(Cancer Treatment Centers of America)の理学療法士で、理学療法博士のタラ・アライカミー氏によると、定期的なウォーキングを習慣にすれば便秘が大幅に改善されるという。
「腹部の手術を行った患者が最初にしなければならないことのひとつは歩くことです。これは、体幹と腹筋を利用して消化器系の働きを促進するためです」
他の目標を達成しやすくなる
ウォーキングを日課にすれば、定期的な習慣を身に付けることができる。そして定期的な習慣があると、その活動を続けるのと同時に新たな健康習慣も身につく可能性が高くなる。
ウォーキングを日課にしているパーソナルトレーナーのキムエヴァンス氏は、「定期的なウォーキングを習慣づけると、心に決めた他の目標を達成するのに役立つことを確信しています」と語っている。
創造性を高める
仕事で行き詰まっているときや、複雑な問題を解決しようとしているときには、体を動かすと効果的だということが研究で証明されている。『ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・サイコロジー、ラーニング、メモリー、コングニション(Journal of Experimental Psychology, Learning, Memory, and Cognition)』に掲載された2014年の研究によると、ウォーキングは創造性を掻き立てることがわかっている。
「研究者たちは座っているときと歩いているときに被験者に創造的思考テストを実施したところ、歩いている人は座っている人よりも創造的思考力が高まっていることがわかった」とジャンポリス氏は言う。
関節痛を緩和する
ウォーキングは緊張した部位への血流を増加させ、関節周辺の筋肉を強化するため、一般的に考えられていることとは逆に、舗装道路の上を歩くことで足の可動域と可動性を向上させることができる。
研究によると、高齢者は1日に少なくとも10分、つまり毎週約1時間歩くことで、身体障害や関節炎による痛みを回避できるという結果が出ている。2019年4月に『アメリカン・ジャーナル・オブ・プリべンティブ・メディシン(American Journal of Preventive Medicine)』で発表された研究では、49歳以上の成人1564人を対象に下半身の関節痛を調査している。
この研究で参加者は毎週1時間歩くように指示され、目標を達成できなかった被験者は歩く速度が非常に遅く、朝の習慣を実践するのが困難だったことがわかった。一方で、ウォーキングを習慣にしている参加者の方が、運動能力が高かったという。
免疫力が高まる
ウォーキングをすることで、病気のリスクを減らし、寿命を延ばすことができるという。「アースライティス・リサーチ&セラピー(Arthritis Research & Therapy)」の研究によると、高強度のインターバル・ウォーク・トレーニングは、関節を侵す炎症性疾患である関節リウマチを患う高齢者の免疫機能を改善することが示唆されている。
また、「クロニク・レスパラトリ・ディジーズ(Chronic Respiratory Disease)」の最近の研究では、ウォーキングが慢性閉塞性肺疾患 (COPD) 患者の死亡率および死亡リスクを低下させることも明らかになった。
慢性閉塞性肺疾患の患者は長時間運動ができず、激しい運動をすると呼吸が困難になることがあるため、過体重や肥満の傾向が強い。しかし、ウォーキングは症状を改善し、特に心血管疾患やメタボリックシンドロームのリスクを低下させることがわかっている。
長生きにつながる
ブルーゾーン(長寿地域)の人々はなぜ100歳まで生きることができるのだろうか。実は健康で長生きする秘訣は、歩いたり外に出たりすることにある。
『ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ジェリアトゥリクス・ソサエティ(Journal of the American Geriatrics Society)』で発表された研究によると、70歳から90歳までの成人のうち、外で体を動かしている人はそうでない人よりも長生きすることが示されている。
活動的でいることは愛する人や友人とのつながりを築くことにつながり、それは歳をとるにつれて人生でより重要な部分となってくる。
安眠効果がある
周知の通り、定期的に運動すれば夜に安眠できるようになる。それは、自然にメラトニンという睡眠ホルモンの効果を高めるから。
『スリープ(Sleep)』が2019年に行なった研究では、軽度から中等度の強度で運動を行なっている閉経後の女性は、座っていることが多い女性よりも夜によく眠れるという結果が出た。また、ウォーキングは睡眠障害の原因となる痛みやストレスを軽減する効果もある。