greta
© 2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.

世界各地の国際会議や集会で人々の印象に強く残る数々のスピーチを行い、大人は口先だけだと大物政治家の欺瞞をバッサリ切りつけ、時にはダライ・ラマにも「もっと勉強して」と説教する。

最近では2021年10月16日に開催されたClimate Live Swedenのコンサートでトリのスピーチを務め、コロナ規制がほぼなくなったストックホルムの会場に詰めかけた大勢の観客から大喝采を受けていた。

そんな表舞台のグレタ・トゥーンベリを、毎日目にしたり耳にしたりする日常を送っていると、2018年の8月にスウェーデンの国会議事堂前で学校ストライキを始めた時の彼女のポツンとした頼りなさや小ささ、強い眼差しの後ろに感じた痛々しさをすっかり忘れてしまっていたことに気がつく。

greta
© 2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.
“学校ストライキ”と書かれた自作の看板とともに始めた、国会議事堂前での座り込み

ドキュメンタリー映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』では、この3年前の夏からたった1年ほどの期間で、世界を駆け巡って人々の心を揺さぶり、多くの若者をデモへと掻き立てたグレタ・トゥーンベリの軌跡を、監督のネイサン・グロスマンが驚くほどの親密さで私たちにみせてくれる。

この映画は、スウェーデンでは去年11月に劇場公開され、またその年末からは公共放送SVTのストリーミングサービスで2023年年頭までの予定で公開中で、まるでスウェーデンに住む人なら全員見るように、という感じで強力プッシュされているのを感じるドキュメンタリーだ(SVTの視聴はスウェーデン国内限定)。

私も公開時と別のタイミングで、これまで合計2回このドキュメンタリー映画を観ていたが、グラスゴーでのCOP26を目前にして、連日気候危機関連のニュースが報道されている中で改めてこの映画を観ると、彼女の強さと弱さ、落胆や希望に、いまさらながら息を飲む。

この映画で明らかにされるまでは、よほどグレタ・トゥーンベリに関心のある人以外は、彼女の気候アクティビストという肩書や有名なスピーチ(”How dare you. よくもそんなことを!”)の背後にあった、素顔のグレタには触れる機会はなかったと思う。

greta
© 2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.
ニューヨークで開催された国連気候行動サミットでのスピーチ

彼女がアスペルガー症候群であることや、一時は餓死しそうなほどの摂食障害に陥っていたこと(映画の中でも、グレタの父親が、何か食べよう! と執拗にグレタに迫る印象的なシーンがある)、また彼女の母親がヨーロッパでは名の知られたオペラ歌手で、一家は以前は今とはまったく異なる暮らしをしていたことも。

映画は、2018年8月20日に学校ストライキを開始した日から、2019年9月のニューヨークでの国連気候行動サミットまでのグレタの1年を時系列で追っていく。最初から強い思いで自分の意見をはっきり伝えることはできても、表情は固かったグレタの顔に照れたような笑顔が浮かぶ印象的なシーンは、自分の活動がベルギーやオーストラリアへとどんどん広がる中で、アーノルド・シュワルツェネッガーがグレタの映像をシェアしたことを知る場面や、ポーランドで開かれるCOP24へ来てほしいと招聘の電話がかかってくるところだ。

自分の話にこれほどの注目が集まるのは、夢のようだと語るグレタのその後の快進撃は多くの人が知るところであるが、ネイサン・グロスマン監督は快進撃だけではなく、イケてないグレタや不安なグレタ、皮肉の効いたユーモアのセンスが抜群のグレタ、笑いツボにハマったグレタ、そして踊るグレタを、その息遣いや涙と共に届けてくれる。

greta
© 2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.
力強く訴えるアクティビストとしての顔だけでなく、ひとりの少女としての素顔が印象的

グレタ・トゥーンベリは2020年の夏、スウェーデンの国民的人気を誇るラジオのトーク番組に番組史上最年少で出演し、3日間で100万人以上の人が聴いたという60年以上続くこの番組の聴取者数においても、これまた記録的な数字を叩き出した。

この番組でグレタは「王様は裸だ。そして私たちの社会全体もヌーディスト・パーティーだ、みんな裸なのにそのままでいるのか」という自身の苛立ちについて話していたが、この話に繋がるグレタの切実な声を、グロスマン監督はすでに『グレタ ひとりぼっちの挑戦』の中で捉えていた。

グレタは、集団で生きる私たち人間は、みんながそれぞれの役割を担っていること、危険を察知した人は仲間に警告する責任があり、それが自分にあると感じていることを、自分の話として私たちに伝える。彼女は世界中の人を熱狂させたが、彼女が本当に望んでいる変化、温室効果ガスの削減への道筋はまだまだ見えておらず、グレタはこれからも自分の責任を感じ続け、警告し続けることをやめないだろう。

そして私たちは何を見て、何を察知するのだろう?、そして何かを見つけた人にはどんな責任があるのだろう? 

グレタに熱い称賛を送るためでもなく、彼女の活動を応援するためでもなく、私たちひとりひとりがそれぞれの役割を感じ、責任を果たすことを自分ごととして引き受けるために、日本でひとりでも多くの人にこの映画が届くことを願う。

greta
© 2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.
これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』予告編
映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』予告編 thumnail
Watch onWatch on YouTube

『グレタ ひとりぼっちの挑戦』

2021年10月22日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

出演:グレタ・トゥーンベリ、スヴァンテ・トゥーンベリ
監督・脚本:ネイサン・グロスマン
製作:セシリア・ネッセン、フレドリク・ハイニヒ
編集:ハンナ・レヨンクヴィスト、シャーロット・ランデリウス
音楽:レベッカ・カリユード、ヨン・エクストランド
脚本:ペール・K・キルケゴー、ハンナ・レヨンクヴィスト
2020年/スウェーデン/ドキュメンタリー/101分/ビスタ/5.1ch/原題:I AM GRETA
日本語字幕:石塚香  配給・宣伝:アンプラグド

公式サイト/greta-movie.com
公式Twitter/@gretaeiga