キャプテン・マーベルだけじゃない! 21世紀に革命を起こした女性ヒーロー映画12
懐かしの映画から最近のDC・MCU(アメコミ2大出版社)作品まで、社会現象を巻き起こした名作に出てくる女性ヒーローは何が革新的だった!? 年代順にその変遷をご紹介。
史上最大の映画シリーズであるマーベル・シネマティック・ユニバースから、初の単独女性ヒーロー作品『キャプテン・マーベル』がついに登場。監督いわく「つねにベストな選択をするわけじゃない」人間的な女性ヒーローは、正真正銘ヒストリック・メイキングなはず。男性キャラクターに比べ女性の複雑性や多様性を描いてこなかったとされるハリウッド。その中で、キャプテン・マーベルのような「闘う女性キャラクター」は、映画史を書き換え、世の女性たちを鼓舞しつづけてきた。ハーマイオニーからエルサ、リプリー、レイア姫まで、ハリウッドの女性ヒーローたちの歴史と革命をおさらい。
強い女の始祖:フォクシー・ブラウン(『フォクシー・ブラウン』)
公開年:1974年
革命ポイント:ハリウッドの「闘う女性キャラ」原型をつくった
ブラックスプロイテーションの女王パム・グリアが1974年に演じたこのキャラクターは、近代ハリウッドにおける「闘う女性」の始祖となった。強い意志で差別に立ち向かって男性を倒す女性が「魅力的な主人公」としてポジティブに描かれたこと、それはまさに革命だった。バッドな魅力も携えるグリアのファンは多い。たとえば『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』のアフロ・スタイルなビヨンセは明らかなるオマージュ。また、熱狂的ファンであるクエンティン・タランティーノ監督は、1990年代にグリア主演作『ジャッキー・ブラウン』を、2000年代には女性主演のアクション映画『キル・ビル』を手がけている。
永遠の女性リーダー:レイア・オーガナー(『スター・ウォーズ』シリーズ)
公開年:1977年
革命ポイント: 戦いつづける女性指導者の誕生
1977年、銀河系の彼方に登場したレイア姫は、まさしく新たなる希望だった。男性に救われる「囚われの姫君」と思われたこの王女は、恋を成就させても戦うことをやめず、銃を持って男性パートナーを救出する指導者となった。彼女がジャバ・ザ・ハットを絞め殺すシーンは、映画史のみならず多くの女性の心に刻まれただろう。その身の自由を奪われ性的オブジェクトとされた女性が、加害者男性をぶちのめす。モダン・ハリウッドの女性ヒーロー譚はここから始まった。2019年、演者のキャリー・フィッシャーが逝去したのちも、レイアは女性たちのアイコンであり続けている。そして『スター・ウォーズ』の最新サーガは、女性ジェダイが主人公だ。
薄化粧の仕事人:エレン・リプリー(『エイリアン』シリーズ)
公開年:1979年
革命ポイント:一般人に近い人間的な女性ヒーロー
モダン・ハリウッドにおいて初めてアクション・シリーズを持った女性ヒーローとされるエレン・リプリーは、2019年においても急進的なキャラクターだ。当時のSFホラー映画における女性キャラといえば「セクシーに叫ぶ役」が定番だったが、シガニー・ウィーバー演じるリプリーは、薄化粧で仕事に取り組む一乗組員だった。映画界のステレオタイプから離れている分、一般的な女性に近い存在で、なおかつ非常に人間的だったのである。女性表現のバリエーションを増やしたこの画期的な役柄は、元々は男性の設定だったそう。それを女性に変更した際、リドリー・スコット監督はほぼ脚本に修正を入れなかったと言われている。
アンチ母性神話なマッチョ戦士:サラ・コナー(『ターミネーター』シリーズ)
公開年:1984年
革命ポイント:「良き母親」像から逸脱した英雄および筋肉隆々な女性キャラクターの提示
『ランボー』、『リーサル・ウェポン』、『ダイハード』……多くの男性アクション・ヒーローが生まれた1980 年代だが、『ターミネーター』でただのウェイトレスだったサラ・コナーがアンドロイドを討伐したディケイドでもある。ジェームズ・キャメロン監督自ら「ワンダーウーマンより進歩的」と太鼓判を押すこのキャラクターは、続編となる『ターミネーター2』では社会が規定する「善き母親像」からすっかり遠のいていたし、だからこそ魅力的な戦士だった。筋肉質な女性キャラという面でも新しく、当時のアメリカでは筋トレが流行ったそう。現在60 代となった演者のリンダ・ハミルトンは、70 代のアーノルド・シュワルツェネッガーとともにシリーズ最新作に出演予定。
戦うカリスマ:ララ・クロフト(『トゥームレイダー』シリーズ)
公開年:2001年
革命ポイント:女性でもアクション・スターになれることを証明
リュック・ベッソンのミューズが舞った1990 年代を経て21 世紀が到来。『チャーリーズ・エンジェル』や『キャットウーマン』が彩るバブルガムでセクシーな女性ヒーロー時代が幕明けた。なかでも『トゥームレイダー』でララ・クロフトを演じたのち『ウォンテッド』や『Mr.&Mrs.スミス』に主演したアンジェリーナ・ジョリーの活躍ははずせないだろう。女性でもカリスマティックなアクション・スターになれると証明したのがジョリーだ。彼女が切り開いたこの道筋には、シャーリーズ・セロンや『アベンジャーズ』スカーレット・ヨハンソンがなを連ねることとなる。2018 年、2 代目ララ・クロフトにはアリシア・ヴィキャンデルが就任。
世界一有名な秀才:ハーマイオニー・グレンジャー(『ハリー・ポッター』シリーズ)
公開年:2001年
革命ポイント:理知的で勉強のできる女子の肯定
2000 年代もっとも有名な女性キャラクターは、教室でもっとも頭の良い女子だった。ホグワーツ魔法魔術学校のハーマイオニー・グレンジャーは、頭脳明晰、真面目で誠実な優等生だ。男子との親友トリオで最も理性的な存在だった彼女は、その個性を失わないまま困難を乗り越えていった。筋肉ではなく頭脳を駆使する女の子が、男子と並んで、世界一の学園映画のヒーローになったのである。成績優秀な女子が否定されることも多い社会において、このキャラの影響は莫大だった。演者のエマ・ワトソンも認めるように。 「ハーマイオニーは、女の子に対して“教室でいちばん頭が良くても良い”と伝えたんです。私にとってただの役ではありません。彼女は象徴です」。
不道徳ヒーロー:ヒット・ガール(『キック・アス』シリーズ)
公開年:2010年
革命ポイント:良くも悪くも不道徳で残虐
『キック・アス』のヒット・ガールは、ある種ハーマイオニー・グレンジャーと真逆の少女だ。その魅力は過激さにある。父親に暗殺技術を徹底教育されたこの少女は、宙を舞いながら無慈悲に大人たちを殺害してゆく。演者のクロエ・グレース・モレッツは当時11 歳だったし、画面は血飛沫まみれ、セリフには放送禁止用語があった。もちろん批判を呼んだ。大御所映画評論家ロジャー・イーバートは、一つ星レビューにおいて本作の問題点を指摘し、深い悲しみを表明した。一方で、勇気づけられた少女がいたことも確かだった。不道徳なカッコよさや俊敏で残酷なアクションは男の子専用ではない、そう知らしめたヒーローがヒット・ガールだろう。
ハリウッドに最も愛された革命家:カットニス・エヴァディーン(『ハンガー・ゲーム』シリーズ)
公開年:2012年
革命ポイント:「普通の女の子」の暗いアクション映画が大成功をおさめた
2016 年調査「ハリウッド俳優が愛する女性キャラクター」第1 位に選ばれたカットニスは、現実の映画業界まで確変させたヒーローだ。「普通の10 代が世界を救う英雄になる」、これは定番のストーリーだが、『ハンガーゲーム』の場合、その主人公が女性であることが異例だった。さらに物語は政治的で、ジェニファー・ローレンスの演技は暗かった。それにも関わらず、シリーズは大ヒットに終わる。カットニスと『ハンガーゲーム』は「明るくない女性主演アクションが興行的に成功すること」を証明してみせたのだ。本作が公開された2012 年以降、『ダイバージェント』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』等の女性主演大作が続くこととなる。
世界を鼓舞した自己肯定:エルサ(『アナと雪の女王』)
公開年:2014年
革命ポイント:女性エンパワーメントが世界中の人々に受け入れられた
画期的な女性キャラクターを輩出してきたディズニーが手がける雪の女王は、その成長に男性ヒーローを必要としないプリンセスだった。2013 年のメガヒット作『アナと雪の女王』が重要視したものは、異性愛主義やジェンダー規範ではなく、姉妹愛、そして「自分らしさ」だったのである。悩めるエルサが歌い上げた自己肯定は、個々人の多様性を祝福する2010 年代ポップカルチャーのムードを創りあげた。女性によるエンパワーメントが世界を鼓舞したのだ。企画当初「冷酷な悪役」だったエルサを「欠点を抱える女性」に設定変更させるきっかけとなった主題歌「Let It Go」は、世界中の女の子の前に立ちふさがる扉までも開いただろう。
フェミニズム戦士:フュリオサ大隊長(『マッドマックス 怒りのデスロード』)
公開年:2015年
革命ポイント:プログレッシブなフェミニスト・ヒーロー
「男のジャンル」と言われてきたアクション映画だが、2015 年、女性たちが叫びをあげた──「私たちはモノじゃない」。荒廃したポスト・アポカリプス世界の家父長制独裁に女性たちが立ち向かう『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はまるでフェミニズムの神話だったし、そのなかで性奴隷にされた女性たちを救い出すフュリオサが「プログレッシブなフェミニスト・ヒーロー」と称揚されるまでに時間はかからなかった。演者であるシャーリーズ・セロン自身も英雄であることを付け加えよう。男女間賃金格差の問題に取り組んできた彼女は『スノーホワイト/氷の王国』において交渉の末に男優と同額のギャラを手にし、同問題の成功例を発信した。
女性による女性のためのヒーロー:ワンダーウーマン(『ワンダーウーマン』)
公開年:2017年
革命ポイント:女性の単独監督による女性スーパーヒーロー映画
2010 年代はスーパーヒーロー・ムービーのディケイドだった。傑作はたくさんあるが、主人公はすべて男性。理由は簡単、女性ヒーローは売れないから……。そんなハリウッドの言い伝えを打ち破ったのが『ワンダーウーマン』だ。大手スタジオ初の女性単独監督による女性スーパーヒーロー映画は、バットマンやスーパーマンを超えてアメリカで最も興行収入を稼いだDCEU 作品となった。主人公であるアマゾン族の女王ダイアナが持つ真実の投げ縄のごとく、この映画は「女性がリードする映画は売れない」神話がまやかしという事実を露見させた。2017 年アメリカの年間興行収入は、本作ふくめトップ3 すべてが女性主演作だったのだから。
ブラック・パワー!:ワカンダの女戦士たち(『ブラックパンサー』)
公開年:2018年
革命ポイント:マイノリティ女性ヒーローの増加
ハリウッドのアクション映画で特権を握ってきたのは男性であり、白人、異性愛者だった。その三か条を揺るがそうとしているのがMCU だ。2017 年、同ユニバース初のセクシャル・マイノリティのキャラクター、ヴァルキリーが『マイティ・ソー』に参戦。その翌年メガヒットした『ブラックパンサー』は、監督自ら「男性より女性が重要な役割を担っている」と語るだけあり、天才科学者から最強の戦士まで、個性豊かでエネルギッシュな女性キャラクターが登場し、多くのファンを獲得した。女性アクション・スターの始祖となった『フォクシー・ブラウン』から44 年、闘う黒人女性たちが活躍する作品が「アメリカで最も人気な映画」になった瞬間だった。