コロナ禍をどうしのぐ? 不安な時代の、お金とメンタルヘルスの上手な付き合い方
健康、安全、仕事、収入、人間関係…今まで「自分は大丈夫」と思っていたことまで、全て不安要素にガラッと変わったこの時代。平常心でいろと言われる方が無理かもしれないけれど、できるだけ自分を見失わずに心地よく生きていきたいもの。そんな中でも特に、withコロナ時代ならではの「お金とメンタルヘルス」の関係と対策について、精神科医・産業医の「パークサイド日比谷クリニック」立川秀樹院長にインタビュー。
▼今回お話を伺った識者
立川秀樹(たつかわ・ひでき)
パークサイド日比谷クリニック院長。医学博士。筑波大学大学院博士課程卒業後、東京・埼玉・茨城・北海道にて精神科医・産業医としての勤務、ストレスケア日比谷クリニック副院長などを経て現職。著書に『「心の病気」から自分を守る処方せん:こころの健康を取り戻すために』ほか。
コロナ禍で消費行動が変わった人続出!の実態は?
「コロナ禍で、まず不眠を訴える方が増えました。それからもともと不安障害や過食症を持っていた人は、それが悪化している傾向があります」と答えてくださったのは、「パークサイド日比谷クリニック」の立川院長。そんな中、コロナ禍でお金の問題を抱えている人も増えているという。「コロナ禍により失業や給与削減など金銭的な問題を抱えたことが、金銭的な偏向に現れているという方は少ないと思います。逆にコロナ禍で消費行動が変化し、その結果金銭問題を抱えてしまうというリスクはあると思います」
コロナ禍でハマる消費行動の傾向って?
では、コロナによって消費行動にどのような変化が起きているのだろうか。「まず、今後の失業や収入減などの不安から消費を“しない”行動に現れる人もいます。例えば残金が減ることを極度に恐れて生活の基本的な買い物や外出も避けてしまう人、お財布の中身や通帳や決済アプリの残金を頻繁に確認してしまう人などもいるでしょう。ただしそれは、この状況では自然な危機意識からくる行動とも言えます」。一方、 “使ってしまう”タイプの人は?「その中でも、例えば“また緊急事態宣言などが発令されることを恐れて、日用品を過剰に買いだめしてしまう”“在宅勤務や自宅時間を快適にするため、必要以上に高額なビジネス機器やリラックスツールを買ってしまう”という人もいるでしょう。これも“必要経費”という感覚からうっかり買いすぎる人もいるでしょうし、心配はいらないと思います」
こんな傾向があったら要注意!リスキーなお買い物って?
逆に“危険性をはらむ消費行動”というのはどういったものなのだろうか?「そのものに対する必要性や欲しいという思いがそれほど高くないものを次々と買ってしまうネットショッピング中毒になる人、また将来への金銭的な不安から、過剰に株式投資などに注ぎ込んでしまう人も注意が必要です」。なぜコロナ禍で私たちは「それほど必要でないもの」を買ってしまうのか?そのメカニズムを教えてもらった。
>>コロナ禍に不必要な買い物をしてしまう人の原因は?
【原因①】自粛による「ストレスカタルシス」の現象
「まず、自粛によって“ストレスカタルシス”が減少します。ストレスカタルシスとは、ストレスを解消する方法のこと。特に飲み会やヨガ、エステ、お稽古、デート、旅行などの外で行うカタルシスが激減しました。その結果、家で現実的に可能なカタルシスとして、ネット依存やネットショッピングが増えたといえます」。自粛前まではたくさんあったストレス発散方法が次々に選択肢から消え、結果的にネットショッピングなどの消費行動に多くの時間とお金が集中してしまったのではないかという。
【原因②】自分でコントロールできるもの=買い物に走る人たち
「また、その原因となるストレスの中でも、今回のコロナストレスの特徴である“自分でコントロールできない”ということも大きな問題のひとつ。自粛の度合いは国や自治体に管理され、出社の有無も会社に管理され、プライバシーの確保も家族の会社や学校の状況によって変化します。仕事先でもお客様が来ない、取引先と会えない、一緒に働く上司や同僚の出社の有無がわからないなど、コントロールできないことだらけです」。生活の細部にわたり、自らの操縦権を失った環境に居続けると、「自分でコントロールできること」を手にして安心したいと思うようになるという。自分が買いたいと思い、ボタンをクリックすれば欲しいものが手に入る、この全能感がショッピングにハマる理由なのだ。
【原因③】頑張ったのに報われない、その思いが「自分へのご褒美」に
さらにコロナ禍の傾向として「努力・報酬不均衡モデル」も関係する、と立川院長。これはドイツの社会学者が提唱したもので、費やした努力と得られた報酬のバランスが悪いと、メンタルや体の不調を訴える人が増えるのだという。「慣れないリモートワークなどで通常以上の努力を自分自身に課しているにも関わらず、仲間と達成感を共有したり喜びを解き放ったりする場がないことで、十分な報酬が得られていないという状態がまさにその状態です」。報酬とは賃金だけでなく、満足感ややりがい、他者からの評価、職業の安定や昇進の見込みなども含まれる。「こうした不均衡を埋めるのに、買い物や過食はぴったりのツールになるのです」
>>ではメンタルヘルスの不調で、お買い物に走らないためにどうすればいい?
【お買い物に走らないための処方箋①】「なんとかなる」と信じる
「この状態は急性買い物依存症と言えますが、同じ依存症でもアルコール依存や薬物依存のように脳内で特定物質が悪さをするものではないので、自分次第で改善を望むことができますよ」と立川院長。その脱出策を教えてもらった。
「まず、“このストレスは一過性のものである”と信じることです。そしてまた、“なんだかんだ言ってもなんとかなるもの”と思うことです。根拠などなくていいのです。今までの人生を振り返っても、絶体絶命、もうダメ!と思ったことはありませんか? それでも今もこうして生きて悩んでいるのです。それは今までもなんとかなってきたという証拠。あれこれ考えて葛藤せずに、“結局はなんとかなるんだよね”と思っておくことが大事です」
【お買い物に走らないための処方箋②】ストレスを分類する
次に、今抱えているストレスの原因を整理することも大事、と立川院長。「なんとなく不安、なんとなく落ち込む、なんとなくヤバイ。そんな気分の原因をひもとき、 “自分でコントロールできること”と“自分ではコントロールできないこと”に分類します。自分でコントロールできることに対しては行動し、コントロールできないことは切り捨てて忘れましょう。今のようなコロナ禍では、ついついこの“コントロールできない問題”に意識が傾きがちなので、そんな自分に気付いたら、意図的に“知ーらない!”とゴミ箱に捨てるようにしましょう。
コントロールできないことに対しても対策を打つことはできますが、それも同様に「自分でコントロールできる対策」か「できない対策か」を見極めること。例えば緊急事態宣言というコントロールできない問題に備えて、日用品をストックするのは“コントロールできること”なので問題ないが、収入減の不安というコントロールできない問題に備えるつもりで “株式投資”などにつぎ込むのは、自分でその利益や損失をコントロールできないので、不安の解消のために手を出してはいけないのだそう!
【お買い物に走らないための処方箋③】「マイカタルシス」をいくつも用意する
さらに、自分でコントロールできるカタルシスを用意することが大事だそう。「カタルシスにはいくつか種類があり、まず“能動的カタルシス”と“受動的カタルシス”があります。前者は友人と喋るとか運動する、趣味に没頭するといった、自らアクションするカタルシスで、気持ちが鬱々としたり、イライラしているときに効果的。一方後者はエステや温泉など、自ら取り組むのではなく人や環境に委ねるもので、体の疲れを解消するのに効果的です。
またもう一つの分類として“コントロールできるカタルシス”と“できないカタルシス”があります。おすすめは前者の、自分だけの都合でできるもの。ひとりでできる趣味や運動、おうちでひとりカラオケやひとりドライブ、配信コンテンツを楽しむ、海外ドラマにハマるなどはいいでしょう。ネットショッピングもそれに含まれますが、こういうカタルシスをいくつか持っていればショッピング一本に偏ることなく分散させることができます」。筋トレや、新しいヘアスタイルやメイクに挑戦するなど、結果が出やすいものが達成感も得られて効果的だそう。
【お買い物に走らないための処方箋④】「衝動性」をはぐらかす2つの質問
最後に、お買い物を止める即効策を教えてもらいました。「買い物依存症の一番の問題はその“衝動性”。それを抑えることでかなり解決します。何か欲しいと思っても、いきなり買う前に“今欲しいもの、必要なものの中で優先順位の何番目にあるか”を考えることです。1位なら買ってOK。2位以下なら、一旦買うのはやめて、1位を買ってから考えるようにしましょう。もうひとつ、“努力報酬不均衡モデル”を逆手に取ったやり方で、「この値段相当を稼ぐために自分は何日仕事をしなくちゃいけないんだっけ?」と考えてみることです。それだけの労働に見合うお買い物ではないな、と考えることで思い止まることができるケースもあります」