現代社会を映し出す“食口”の物語
これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
『パラサイト 半地下の家族』90秒予告
『パラサイト 半地下の家族』90秒予告 thumnail
Watch onWatch on YouTube

昨年のカンヌ国際映画祭パルム・ドール賞に続き、全米でも大ヒットを記録した韓国の鬼才ポン・ジュノ監督作『パラサイト 半地下の家族』(現在公開中)が、依然、映画祭を席巻中だ。去る5日に発表された第77回ゴールデングローブ賞では外国語映画賞に輝き、アカデミー賞では外国語映画賞のみならず、作品賞など本戦での期待も高まる中、遂に日本での上映が始まる。

Fun, Adaptation, Room, Games,
2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

「カンヌでパルム・ドールを受賞するなんて、思ってもみなかったことなので、あのときは驚きましたね。授賞式の夜はスタッフや俳優たちと祝杯。しこたま飲んで、翌朝になったら世界が一変しているのかと思ったら、いつもの二日酔いの朝と変わりませんでした(笑)。ところが、その後から各国の公開キャンペーンやアカデミー賞に向けて非常に慌ただしくなって。そういえば、昨夏、是枝裕和監督にお会いしたら『今年は大変になりますよ。苦労しますよ〜』とニヤッと笑って去って行って(笑)。カンヌは9人の審査員が20本の作品を見て選びますが、アカデミーは1年かけて7千人が投票して受賞作を決定する。いま、まるで自治体の選挙運動をやってる感じで、是枝監督がおっしゃっていたのはこのことだったのか〜と(笑)」

Event, Suit, White-collar worker, Outerwear, Premiere, Fashion accessory, Formal wear, Award ceremony,
.
昨年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞。

 半地下住宅に住むキム一家は全員失業中。ところが長男がエリート社長パクの娘の家庭教師に納まったのを皮切りに、キム家の面々が身分を偽って次々とパク家に入り込んでゆく。高台に建つハイパーモダンな豪邸を舞台に繰り広げられるドラマは、現代の格差社会を痛快に風刺して笑わせ、忍び寄るサスペンスで観客の目を釘付けにする。

Art, Room, Event, Visual arts, Photography, Tourist attraction, Painting,
2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

「是枝監督の『万引き家族』や、アメリカ映画の『USアス』、イ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』、そして『ジョーカー』にしても、世界の映画監督にとって、現代の格差社会は挑むべきテーマなんです。『スノーピアサー』のポスト・プロ期間中の2013年頃、貧しい一家が金持ちの家にひとりづつ、次々と侵入してくるというアイデアを思いつき、密かに快感を味わっていました(笑)。『スノーピアサー』も社会格差を描いていますから、やはりこのテーマが頭から離れなかったんでしょうね。テーマは重なりますが、描き方は違います。『スノーピアサー』は舞台が列車なので“水平”に進みますが、今度は建物の二階から半地下まで“垂直”に描こうと。その中で大事になってくるのは“階段”。助監督とは、この企画を“階段映画”と呼んでいました。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
『スノーピアサー』 予告編(30秒)
『スノーピアサー』 予告編(30秒) thumnail
Watch onWatch on YouTube

 

それと韓国語には、“家族”と同意語の“食口(シック)”という言葉があるんです。食べるに口を書いて、一緒にご飯を食べる“家族”という意味。このキム一家は悪党ではないが、やはり間違いを犯してしまうことで、貧しいながらもともにご飯を食べていた“食口”がさてどうなるか……という物語です」

可笑しくて、やがて哀しきキム一家を率いる名優ソン・ガンホ

 キム一家の父親を演じるのは、『殺人の追憶』(03)『グエムル-漢江の怪物-』(06)『スノーピアサー』(13)に継いで、ポン監督と4度目のタッグを組んだソン・ガンホ。本作では、現世の不条理に翻弄される楽天的なダメ親父を圧巻の存在感で演じ切り、哀しきコメディを牽引する。

Human, Adaptation, Screenshot,
2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

「この17年間に、ソン・ガンホと私は4本の映画を一緒に撮ってきました。私だけでなく、イ・チャンドン監督、パク・チャヌク監督、キム・ジウン監督をはじめとして、韓国の過去20年間のとても重要な作品に出演し続けてきた俳優です。『パラサイト〜』の父親ギテクと息子ギウの役は、ソン・ガンホと『オクジャ/okja』(17)にも出演してもらったチェ・ウシクを真っ先に想定して書いていきました。また娘ギジョン役のパク・ソダムとパク家の最初の家政婦イ・ジョンウンも脚本段階から決めていました。映画の中の“匂い”に関するエピソードについてはネタバレになるのでここで詳しく言えませんが、脚本を書きながら、果たしてギテクは“匂い”によってここまでするだろうかと悩みました。でも演じるのがソン・ガンホなら観客を納得させられるはずだと、果敢に脚本を書き進めることができた。それほど創作において、彼から大きな影響を受けているんです」

笑いの中には、ヒッチコック仕込みのサスペンスあり!

笑いあり、涙あり、ブラックファンタジーや恐怖もあり、社会を見つめる目も光らせてと、まさにひとつのジャンルに納まり切らないのがポン・ジュノ映画。しかし、どんな映画を描こうと、幼い頃にヒッチコックの『サイコ』を観た衝撃から映画監督を目指し、“最後の晩餐を誰かと食べたいか?”と問われれば、もちろん「ヒッチコック!」と答えるポン監督。そんな鬼才の作品からは、常にひたひたとサスペンスが忍び寄ってくる。

Fun, Eye, Photography, Human, Adaptation, Room, Smile, Flash photography, Black hair, Scene,
2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

「別に1本の映画に多くのジャンルを織り込もうと考えているわけでもないし、脚本を書いているときも、ここまではコメディですよ、ここからはホラーですよ〜という線引きもしない。ただ私はいつも、一見起こりえない出来事も、実際に起こる可能性があると信じて脚本を書いています。韓国では“実体”という言葉を使いますが、複合的な異なる感情や雰囲気を全て持ち合わせているのが実体。例えば、みなが悲しんでいる葬儀場で、自分だけ面白いことを考えてしまったり、逆にとても楽しいディナーの最中に、突然自分だけ哀しみに襲われることがあると思う。だから僕の映画のサスペンスは、さまざまなジャンル、様々な感情が入り交じって、次のシーンで何が起こるか全く予測不可能な中に生まれると考えています」

こんな傑作を撮ってしまったら、次はどんな映画を!?

 2000年の『ほえる犬は噛まない』で監督デビューし、約20年で、こんなとほうもない傑作を撮ってしまったポン・ジュノ監督。さて、次はどんな作品に向かうおうというのか?

「今村昌平監督は僕の敬愛する日本人監督ですが、彼も集大成的な『神々の深き欲望』(68年)のあと、ドキュメンタリーを撮ったりしながら、さらなる傑作『復讐するは我にあり』(79年)を撮るまでに長い空白がありましたから、急ぐことはないのかなと。カンヌのパルム・ドールを撮ったことが大事なんじゃなくて、振り返ってみると『ほえる犬は噛まない』で監督デビューして20年。これからまた20年、監督ができるだろうか。あと何年撮れるのかと考えると複雑な気持ちになります。今後20年で7本撮れたら、『パラサイト〜』がフィルモグラフィーのセンターピースになるので、嬉しいなと思いますけど、先のことはわかりませんね」

NBC's "77th Annual Golden Globe Awards" - Press Room
Kevork Djansezian/NBC//Getty Images
先日発表されたゴールデン・グローブ賞では外国語映画賞を受賞。まもなく開催されるアカデミー賞では本線での受賞も見込まれていて、賞レースの台風の目となることは間違いない。

でもデビュー当時から撮ってみたい野心作とか、何かあるのでは?と食い下がってみると……。

「実は『吠える犬は噛まない』の後、2001年頃に構想していた企画がまだ実現してなくて。18年間、練りながら温めて続けているんです。ソウルのど真ん中で起こる、ちょっとホラー・テイストのもので。今後10年のどこか、50代のうちに撮れたらいいなと思っているんですけどね」


『パラサイト 半地下の住人』2020年1月10日(金)公開
http://www.parasite-mv.jp/