その年に公開された映画の中から選んだベスト作品や映画人を表彰する「エル シネマアワード」。7年目を迎える今年は昨年に引き続き、ライブ配信での発表となった。今回新設された、映画界でSDGs的な役割を果たした映画人に贈られる「エル アクティブ for SDGs賞」を受賞したのは、俳優のみならず映画監督としても活躍する齊藤工。

映画製作者として撮影現場に託児所を提案

監督や企画、プロデュースなど、年々映画製作者としての活動を加速させている齊藤工。2021年は、映画『孤狼の血 LEVEL2』 『CUBE 一度入ったら、最後』 、ドラマ『漂着者』など俳優としての活躍が記憶に残る一方、クレイアニメーション『オイラはビル群』や映画『その日、カレーライスができるまで』の企画・プロデュース、プロビゼーションシネマ『Hich×Hook』 のプロデュース、MV『傷と光 feat.狐火』 の監督など製作者としても精力的に活動。そして、竹中直人、山田孝之らと共同監督を務め話題を呼んだ『ゾッキ』では、数年前から取り組んでいる撮影現場のスタッフやキャストのための託児所設置を提案した。

elle cinema awards エル シネマアワード エル アクティブ for sdgs賞 elle active for sdgs  齊藤工 takumi saitoh ゾッキ 裏ゾッキ cinema bird  ミニシアターパーク
Zenharu Tanakamaru
タキシード ¥583,000 シューズ ¥110,000/ディオール(クリスチャン ディオール) バングル (WG×ダイヤ)¥2,695,000 ワイドリング(WG×ダイヤ)¥770,000 ナローリング(WG×ダイヤ)¥566,500/ティファニー(ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク) その他/スタイリスト私物

「日本の映像業界の引き継ぐべき習慣とリニューアルすべきものがあると感じていて、特に女性スタッフやキャストにとって、妊娠、出産、子育てのプロセスと、撮影現場があまりにも乖離してしまっていて、引退していく才能をたくさん見てきました。お子さんがいたり、お腹が大きい状態で働くときに、みなさん現場に対して遠慮がちで、その空気自体がおかしいなと違和感を感じていました。

本当に小さなのろしですけど、現場に託児所があれば、1つ何かが解決するのではないかと思いました。僕自身、父親が映像製作者だったので、小さい頃よく現場にお邪魔していたんです。父の仕事を肌で感じるという体験が、僕が今映画のそばに寄り添うきっかけになっているので、現場で預かる小さなお子さんたちの大きな経験値になればいいなという思いがあります。

2年前にHBOアジアのプロジェクトの『フードロア Life in a Box』を高崎で撮影したのですが、その現場で地域の方と連携して託児所を作ったんです。大変そうだからってやめるのは簡単だったんですが、やってみない限りこれは何も変わらないのではないかと思って。そこから、毎回ではないですが、監督作や主演作では託児所を提案させていただいています」

多くの人に映画体験してもらうために

何ができるか自分の機能を考えている

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
映画『ゾッキ』本予告【4月2日(金)全国公開、3月26日(金)愛知県先公開※一部劇場を除く】
映画『ゾッキ』本予告【4月2日(金)全国公開、3月26日(金)愛知県先公開※一部劇場を除く】 thumnail
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2014年からは、劇場体験をしたことのない子どもたちや劇場のない地域の人々に映画体験をしてもらう移動映画館「cinéma bird」を主宰、そして2020年は、コロナ禍により苦境に陥った映画館やミニシアターを応援するプロジェクト「ミニシアターパーク」を発起人として立ち上げるなど、映画界や劇場、観客をサポートする取り組みを積極的に行っている。その類まれなる情熱の原動力はどこからくるのか?

「人間の美しさって機能的であるかどうかだと思うんです。その人の機能性って、自分で理解している以上にまわりからの冷静な意見によって生まれることもある。自分がどうしたら一番機能するかと考えているなかで、昨年同時に腸活菌活にたどり着いたんです。最初はいかに健康でいるかとか、体の9割が菌なのであれば、それを改善しよう、いい状態にしようと思っていたのですが、続けるなかで腐敗していくことと発酵していくことって、すごく近い状態であることに気づきました。まわりにあるものが、かびたり腐ったりするのか、うまみが増幅していくのかっていうのは、本体よりもまわりをみれば明確であるということ。それは人間も同じだなと思いました。

時間が経過することに対して、日本の文化だとネガティブなグラデーションみたいなことを感じるんですよね。年を重ねることをうまくのみ込めない社会の作られ方なんじゃないかなと、僕も当事者として。僕がああしたいこうしたい、っていう時期も20~30代の頃はあったのですが、ここからはいかに腐敗せず発酵していくか、まわりにプラスの何かを与えられるのであれば、そういう環境を作れるのであれば、自分みたいな立場の公人がしていくべき機能というものがあるんじゃないかと思っています 」

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Zenharu Tanakamaru
タキシード ¥583,000/ディオール(クリスチャン ディオール) ワイドリング(WG×ダイヤ)¥770,000 ナローリング(WG×ダイヤ)¥566,500/ティファニー(ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク ) その他/スタイリスト私物

「まだまだ模索している最中ですけど、映画体験をしてもらうとか、かつて地域のハブだった映画館が、どういうふうに機能していくべきかということを考えています。長野県の『上田映劇』という劇場が、学校に行きにくい・行かない子どもたちの新たな居場所として、映画館で映画体験することで“出席扱い”になるという『うえだ子どもシネマクラブ』というプロジェクトをされていて、映画館の機能として素晴らしいプロジェクトだなと思って心の底から応援しています。

そういった映画や映画館の本質的な役割、言葉にできないから映画っていうものが生まれると思いますし、言語化できないから映像化しているという芸術を、劇場で同じように自分の感性で受け取るというキャッチボールをする意味を、そういった場所をつくっている人たちがいることを心から尊敬します。

僕が始めたプロジェクトだとか、僕が監督であるとかってことではなく、すでに能動的に動かれている方々を僕みたいな立場の人間がさらに背中を押すというか、『こういうプロジェクトあります』と支援するのも自分の大いなる役割、機能だと思っています」

“芸術は心の薬”! 未来に向けて行動したい
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©︎2020「裏ゾッキ」製作委員会
映画『ゾッキ』の製作の裏側を追ったドキュメンタリー『裏ゾッキ』。

「自分軸という価値観を一度辞めた」と話す齊藤工。足し算より引き算、中心に立つよりも自分の機能を生かしていく――40代を迎えた彼はどこに向かっていくのだろうか。

「美輪明宏さんが『芸術は心の薬で、せわしなく生きるなかで、芸術という薬を与えることを忘れがちだ』とおっしゃっていて、まさに僕にとっての薬は映画を中心とした芸術だったんです。今は芸術との出会いの場がサブスクリプションだったり、自宅で完結してしまうエンターテインメント。それも時代の流れですし恩恵も受けているのですが、一方で劇場で作品と向き合ったときの感動がる。時間はかかると思いますが、撮影現場や映画館に託児所があったらいいなとずっと思っていて、数年前からさまざまなところでプレゼンをしているんですけど、育児をしている方とか映画から一番離れてしまった人にこそ必要だと思っています。

きれいごとじゃなくて、僕の命が果てた先にも、前例があることで一つの情報になったり、それをまたアップデートして、未来で具体的なアクションにつながるようなものに結果としてなったらいいなと思いながら行動するようになりました」

Photo ZENHARU TANAKAMARU Styling SHINICHI MITER/KiKi inc.  Hair & Makeup AKI KUDO Movie TAIKI SUGIOKA


PROFILE
齊藤工

1981年、東京都生まれ。2001年に俳優デビュー。俳優業の傍ら、20代から映像制作にも携わり、齊藤工名義での初長編監督作『blank13』('18年)は国内外の映画祭で8冠を獲得。監督を務めたHBOアジア制作のオリジナルアンソロジーシリーズ『フードフロア:Life in a Box』('19年)が、アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワードにて、日本人初の最優秀監督賞を受賞。長編監督2作目『COMPLY+-ANCE』('20年)はJFFLA2020で最優秀監督賞とニューウェーブ賞を受賞。2014年から劇場体験が難しい被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinéma bird」を主宰、2020年からコロナ禍により苦境の映画館やミニシアターを応援する「ミニシアターパーク」を立ち上げ、活動。2022年は、主演俳優として映画『シン・ウルトラマン』やNetflixシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』が待機する。『ヒヤマケンタロウの妊娠』の制作現場においても託児所設置を実現させている。