“美”の定義を変えた、トランスジェンダーモデル9名の影響力

『スポーツ・イラストレイテッド』の水着特集号に起用されるのは名誉なことで、それがトランスジェンダーのモデルならまさに歴史的な出来事。

ブラジル出身のヴァレンティナ・サンパイオは「ヴィクトリアズ・シークレット」のショーに出演し、仏版『ヴォーグ』や『ロフィシェル 』の雑誌の表紙にも抜擢されている。「ロレアル」や「マーク ジェイコブス」、「ディオール」などのビューティブランドの顔にも選ばれた。

イタリア版『ヴォーグ』や『グラツィア』『グラマー』などの表紙を飾った、ブラジル生まれの美女リア・T。2011年には、『ラブ 』のインタビューでこう語っている。

「最初にホルモン剤を飲み始めたとき、バスルームで泣いていたのを覚えている。誰も仕事なんかくれないだろうし、どうしたらいいの？」

そんなリアは現在はモデルとして大成功をおさめ、リカルド・ティッシを BFF（大親友）と呼ぶほど、トランスジェンダーモデル界で最も有名なひとりに！

モデルから女優に転向したハンター・シェーファーは、HBOの人気ドラマ「ユーフォリア／EUPHORIA」で人気のキャラクターを演じた。『Vマガジン』『Dazed』『Paper』などの表紙に抜擢され、「ディオール」や「ミュウミュウ」 、「リック オウエンス」などのショーにも起用されている。

ハンター・シェーファーは『ニューヨークタイムズ 』で概念としてのジェンダーについてこう語っている。

「トランジション（ジェンダー移行）の初期段階では、ジェンダー・バイナリー（性別二元論）にごく近い世界の視点に依存して、ジェンダー・バイナリーの視点における自分でしかいられなかったと思う」

さらにこう続ける。「自分のコミュニティについて学び、ジェンダーをスペクトラムとして理解するようになった。ジェンダー・バイナリーは存在せず、構成概念や植民地主義の産物だと知り、性別を選ぶ必要性を捨てることができた。ありのままの自分を認める、ということ」

小さな町の出身のファビアナ・ゴメスは、成長する過程でクィアの人々と触れ合うことはほとんどなかったという。思春期にファッションに出会い、モデル業を開始した彼女は、今LGBTQ+のホームレスの若者のための施設でボランティアを行っている。

有色人種のクィアの若者たちを支援するためさまざまな組織と協力し、エイズやトランスジェンダーの権利などをめぐるイベントで講演している。

22歳、身長178センチの美しいルー・シャーロットは、イングランドのバーカムステッド 生まれでロンドン在住。

これまでに「リック オウエンス」や「ヴィヴィアン・ウエストウッド」などのランウェイを歩いた。絵を描いたり文章を書いたりすることが好きで、シルヴィア・プラスや村上春樹がインスピレーションだとか。

2020年の「カルバン・クライン」のプライド・キャンペーンで、ヒューストン通りのビルボードを飾った新顔のジャリ・ジョーンズ。

インスタグラムには、「今まで悪魔のように扱われ、嫌がらせを受け、醜く無価値だと思わされ、さらに殺されそうになったこともある身体。しかし今、ありのままの姿を皆さんにお見せすることができるのは、素晴らしい光栄であり喜びです」と投稿した。

2015年に、ニコラ・ジェスキエールに見いだされ、「フェンディ」「クロエ」「マーク ジェイコブス」などのショーに出演したテディ・クインリヴァン。

「トランジションは髪を伸ばしたり、ヒールを履いたり、ピアスの穴を開けたりするだけのことじゃない。ホルモン剤を摂取することは気分にも影響を与える。まるで、もう一度生まれるかのよう。見た目だけじゃなくて、世界の見え方も変わる」と2018年のUS版「エル」のインタビューで語っている。

「22歳でモデル契約を交わし、キャリアも順調だったけど、感情的にいろいろあった。突然思春期前の少女のような行動を取ったりして。自分のアイデンティティを隠していたから誰も理解してくれなかった。そこで約1年前、交渉担当者にカミングアウトすることにしたの。彼らはまったく知らなかったみたい。伝えたことで彼らに目を開いてもらうことができたし、自分の状況をより理解してもらうことができた。それで世界にも伝える準備ができた」

ネイサン・ウェストリングは、「マーク ジェイコブス」、「マイケル・コース」、「ヘルムート ラング」などのランウェイを歩いてきた。

US版『ヴォーグ』のインタビューで、トランジションについて「最初はポジティブなことだけじゃなかった。最初の2カ月は大変で、身体の変化がだんだん見えてきた頃から、初めて自覚し目を覚まして生きるようになった。今は幸せ。昔に戻ることなんて想像すらできない。暗闇だけだったから」

コネチカット州のフェアフィールド大学で心理学を学んだライス・アシュリーは、「バーニーズ」のキャンペーンに起用され、ブルース・ウェーバーと仕事をした。

仏版『ヴォーグ』に自身のトランジションについて問われたライス・アシュリーは、「19歳になるまでトランスジェンダーが何かすら知らなかった。でも4～5歳のころには自分についての違和感に気づいていたよ」

translation: HARUKA SAITO