普段の生活や人間関係、時には政治問題などの話題でも私たちの心のなかでフツフツ沸き起こる怒りやイライラの感情。負の感情として無理に押し込めず、怒りを正しく理解してコントロールすることで前向きに対処する、「上手な怒り方」を専門家が伝授!
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さまざまな状況で引き起こされる怒りの感情
怒り、逆上、憤怒、収まらないイライラ。怒りを感じたときの体は次のように反応する。まず心拍数が上昇し、筋肉が緊張して、人によっては息切れを感じることもある。
これは実は戦うか逃げるか反応、という自律神経の反応だ。例えば誰かが野球のバッドを振って襲ってくる、といった危険から身を守るために生物学的にデザインされているものだ。
しかし、人間の場合、必ずしも身の安全を脅かすものではなくても、例えば、いつまでも待たされたり、信頼していた人の裏切られたり、時には政治問題でも、さまざまな状況で怒りが引き起こされる。
怒るのは気分の良いものではない。多くの人(特に女性)は、怒るのを完全にやめたいと考えている。確かに、怒りが体に及ぼす長期的な影響は、頭痛や不安、消化不良、高血圧など、あまり良いものではない。
しかし、この自然な感情の動きを完全に防ぐことは不可能なだけでなく、専門家によると怒りは必ずしも悪いものではないという。大切なのはその感情を管理し、その行動をコントロールすることだ。
怒りの本質は何なのか?
「Pathlight Mood and Anxiety Center」の地域臨床ディレクターであるエレン・アストラカン=フレッチャー博士は、「ほとんどの場合において怒りの根底には、2つのことがあります」と言う。それは、「何らかの脅威を感じている」あるいは「または状況や人について自分が脅威を感じていると判断している」ということだという。
怒りが沸き起こると、受動的攻撃行動、開放的攻撃行動、アサーティブ・アンガー(積極的な怒り)の3つの方法でそれは表現されうる。受動的攻撃行動の怒りでは自分がイライラしているということを間接的に表現する。例えば、メールに「忘れてしまって」返信しないとか、誰かの背後で話す、といった行動に現れる。開放的攻撃行動というのは言葉通り、怒りを爆発させたり、いじめや対立、喧嘩など目に見える形で怒りを表現することだ。どちらも、自分の気持ちを伝えるのに最適な方法ではなく、自分が望んでいること(理解してもらいたい、怒りに対処してもらいたい)に近づくどころか、かえって人間関係を壊してしまうこともある、とアストラカン=フレッチャー氏は警告する。
最も健康的で生産的な怒りのタイプは、「アサーティブ・アンガー」
専門家によると、最も健康的で生産的な怒りのタイプは、「アサーティブ・アンガー」だという。
シラキュース大学心理サービスセンター長で心理学教育専門助教授のアプトン・カプシチンスキ氏は、「アサーティブな反応には、感情やその状況に応じた望ましい結果についての直接的なコミュニケーションが不可欠です」と述べている。「相手を尊重しながら、自制心を持って行います。アサーティブなコミュニケーションは、人間関係を維持しながら望ましい目的を達成するのに、最も可能性が高い方法です」
なぜ私はすぐに怒ってしまうのか?
マッチで殴られたように怒りが爆発してしまうのは、起こったことをどのように受け止めているかによる。脅威を感じたり(身体的ではなくても)、自分が批判されていると感じたりすると、サバイバルモードになり、それが怒りの感情をもたらす。怒りの感情は、ほとんど瞬間的に起こることもある。特に、自分を驚かせているものが、受動的または開放的攻撃で反応したくなるようなものである場合はなおさらだ。
いつも誠実で、相手をどれだけ愛しているかを示すために努力してきたのに、パートナーに浮気を非難されたとする。これは不公平なことであり、自分の存在意義を問われているように感じるだろう。カプシチンスキ氏は、「私たちは、普段の生活で自分が脅かされたり、不当なことを経験したりすると、ほとんど自動的に怒りを感じることがあります」と語る。
怒りはよくない感情だと思われがちだが、落ち着いて、状況を把握し、アサーティブな方法で感情を表現できれば、怒りは実際にはとても役立ち、癒しにもなりうる。
怒りを生産的に表現するためのプロセスとは?
誰かに動揺させられたり、傷つけられたりして、受動的または開放的な攻撃で反応したくなったら、まず一息つくことだ。アストラカン=フレッチャー氏は、相手に「今自分は気が動転しているので、物事をよく考えるための余地が必要」だと伝えて欲しい、と語る。怒りに満ちた状態で状況に臨まなければ、ポジティブな結果、すなわち怒りの解放、が得られる可能性が高くなる。
そして、実際にその時間を利用して心を落ち着かせ、何が怒りの引き金になったのかを自分で確認してみよう。有色人種のセラピーを受ける機会を増やす活動に従事する「InnoPsych, Inc.」の創設者兼CEOであるシャーメイン・F・ジャックマン博士は、顔に冷たい水を浴びせて、会話に戻るまでの時間を確保することを提案する。その間、運動や“書く瞑想”ジャーナリングなどをして、健康的に怒りを発散させよう。
そして会話に戻るときには、アサーティブ・アンガーを発揮して、自分の考えを確固たる態度で、明確に主張しよう。
起こったことについて自分が何に腹を立てているかを説明し、その状況で自分が何を必要としているかを述べ、それを相手が理解しているか確認しよう。相手の立場を理解することも大切だとアストラカン・フレッチャー氏は言う。私たちは怒っているとき、物事をはっきりと見ることができず、相手との間に起きていることについて早合点してしまうことがある。カプシチンスキ氏によると、それは「状況の評価が、経験している怒りの強い身体的側面に基づいて行われる」ためであり、「私たちは、計画と判断を司る脳の部分をじっくり使うことなく、すぐさま認識された脅威に注意を絞り、素早く行動するように仕組まれている」のだという。よって、相手がどのように感じているのか、なぜそう感じるのかを推測したくなる気持ちは一旦抑えて、相手に説明してもらおう。最終的には、お互いに妥協できる解決策を見つけることができるはずだ。
この取り組みは、相手が怒っていると決めつけなければ、より成功の可能性が高くなる。相手が頑固だったり直接的な態度であったとしても、彼らが必ずしも怒っているわけではない。ジャックマン氏は、「顔の表情やボディランゲージ、声のトーンから見誤ることはよくあります」と語る。「特に有色人種の場合は、怒っていないのに怒っていると思われてしまうことがあります。ですから、相手が怒っていると決めつける前に、相手の気持ちを確認することが大切です」
さらに、相手の反応が悪いと思い込んで会話に臨むと、自然と守りに入ってしまいしまい、話し合いや妥協が受け入れがたくなってしまうとカプシチンスキ氏は指摘する。
どうしたら怒りを手放すことができるか
ほとんどの場合、怒りを手放すことは、人間関係のためだけでなく、自身の心の健康のためにも、最も健全な選択だ。常に我々は怒りを感じるような状況に直面する可能性があり、中にはコントロールできないものもあるだろう。怒りの感情を解放できれば、視野が広がり、精神的にも肉体的にもストレスが軽減される。
もし互いに了解が得られない場合は、落とし所を見つける必要がある。そうしないと、特に自分が正しいと思っている場合には、相手を恨んだり、苦しくなったりしてしまう。それは怒るのと同じくらい、あなたにとって良くないことだ。「覚えていてください。恨みというのは自分自身が毒を飲んで、相手が死ぬのを待つようなものです」
しかし、口論の状況や結果を受け入れることは、それに満足しているということではないということに気をつけよう。むしろ、起こったことを受け入れて問題解決の方法を考えることのほうが大切だ。
カプシンスキー氏は、「自分でコントロールできない状況に対する怒りに心を支配されていたり、それによって機能に困難をきたしている場合、受け入れることで力が湧き、自由になることがあります」と言う。「怒りの感情をうまく利用すれば、同じような状況でも力を与えることができるのです。例えば、公民権の問題を考えてみてください。いかに不正への動揺が、人々やグループが建設的な変化を起こす方法を見つける助けになっているかを」
自分の怒りは正当化されうると感じたとしても、個人レベルで何が起きるかは自分次第だということだ。「怒りを含めたすべての感情に責任を持ち、それをどう表現するかを決めるのは私たち自身です」とジャックマン氏は語る。
自分への怒りをなくすには?
ときに最も苛烈で長年に渡るのは自分自身への怒りだ。自分の価値観から外れたことをしてしまった、嘘をついたり不正をしてしまった、重要な期限を過ぎてしまった、などその理由はさまざまだ。あるいは、ある決まった通りに完璧でなければならないと育てられてきたために、単なるいち人間でしかない自分に腹を立てているのかもしれない。いきなり自分に落ち度があると自分を責めてしまうのだ。ジャックマン氏とカプシチンスキ氏は、このような状況では「自分への思いやり」を実践して欲しい、と言う。
「私たちは心の中で厳しく自分を批判したり、非現実的な期待を自分に抱くことがあります」とジャックマン氏。「自分への思いやりがあれば、失敗してもいいし、破滅的でネガティブな感情や経験を受け流すことができます」
そのためにはどうすれば良いか? 基本的には、失敗したり、自分自身に厳しい態度をとっている子どもや親しい友人に対して接するのと同じ方法で自分自身に接するのだ。自分を休息させ、許し、その状況から自分が何を学べるかを考えることだ、とアストラカン=フレッチャー氏は語る。
許しはこの場合最も重要なことの一つだ。というのも、自責の念に駆られて自分を責めても、それがよりよい次の行動につながるとは限らないからだ。このメカニズムについてアストラカン=フレッチャー氏は以下のように説明する。「問題は自分を責めることで自己嫌悪に陥って身動きが取れなくなってしまうことです」「なぜなら、自分に腹を立てて自分を責めることは、繰り返し強化され、まれにしか報酬を得られない行為のため、ギャンブル同様にその報酬ーこの場合は行動の変化ーを求めるあまり最もやめにくい習慣になってしまうのです」
自分を許すことができれば、次に進むことができる。アストラカン=フレッチャー氏は、あなたがなぜ自分自身に怒っているのかを気にかけてくれる人と共有することを勧める。彼らの応援する態度が、自分が感じている恥じる気持ちを軽減することにつながるだろう。
自分は怒りの問題を抱えている?
怒りは健全な感情となりうる。なぜなら適切に対処することで、変えるべきことが何なのか理解でき、行動を起こす助けになるからだ。しかしあまりにも激しく(さらには理由なく)いつも怒っていて、人を怒らせたり、人や自分に暴力を振るったりする場合は、専門家への相談を検討しよう。怒りをコントロールするために助けを求めることは悪いことではないと覚えておいて欲しい。
そうすることで、人間関係が良くなるだけでははない。アストラカン=フレッチャー氏は以下のようにアドバイスしている。「怒りの問題は、依存症の問題、うつ病、双極性障害、不安、そのほかのメンタルヘルスの問題と関連していることがあり、その場合はメンタルヘルスの治療を求めることが最も有効です」
Translation & Text : Naoko Ogata