思いや悩んでもしようがない、前向きに捉えよう、と思っても、なかなか切り替わってくれないのが私たちの心。そんなネガティブにとらわれがちな心を、解放するための「小さな行動」や「魔法の言葉」を、松原さんが伝授!
≫思うようにいかなくても大丈夫! 「心の免疫力」を鍛えるコツ
Photo : Getty Images Text:Yurico Yoshino
【1】深呼吸をする
イライラすること、不安なことがあったら、まずは深呼吸をしましょう。とにかく深呼吸。私も大学の講義の準備などが進まずに焦っているとき、日に何度、深呼吸をしているかわかりません(笑)。深呼吸の効果は、なんといってもはぁーっと深く吐いたときの安堵感です。それによって心にちょうどいいスペースができるのです。私はそれを「心の床の間」と呼んでいます。パソコンでいえば、ソフトを立ち上げすぎてフリーズしたとき、一旦リブートするのにも似ています。目を閉じて大きく息を吸い、深ーく吐く。そして状況が好転した後の景色をイメージするのです。目を開けてもう一度現実に戻ったときには、数秒前とは違う気持ちで向き合えるはずです。
【2】イライラ、ムカッ、の感情にはクッションを
仕事相手やパートナーに腹の立つことを言われて、頭に血が上ることは誰にもありますが、感情に従って行動するのは百害あって一理なし。言ってはいけない決定的な言葉を言ってしまって後悔しても、あとで訂正することはできません。だから、まずは1で伝えたように深呼吸。息を吸って、ふーっと吐きながら気を下げ、心を落ち着けます。怒りの感情をぶつけ合う前に、相手と自分の間にクッションを置くのです。その場から離れて物理的にも距離を置くことで“彼があんな言葉を言った背景はなんだったのだろう”“彼女もいろいろ大変だったから、感情的になったのかもしれない”と相手を思いやる気持ちが湧いてくるはず。ここでも「心の床の間」をイメージして余裕を持ちましょう。
【3】漠然とした不安や心配を、明確にする
漠然とした大きな不安に包まれて、鬱っぽくなったり、前に進めなくなることがあります。そんなときは、不安の要因を整理しましょう。一番の心配事は何? お金? お金というのは収入が減ったこと?先々のこと? 収入減に対して何ができそう? 仕事を変える? などと自問してみます。頭がごちゃごちゃするなら、紙に書き出すのもおすすめ。心のもやもやの原因を洗い出して、それを分解します。そこから、「現実的に解決策があるもの」と「自分ではどうしようもないもの」に分け、前者は行動のリストを作り、少しずつ実行に移します。後者は悩んでもしようがないことを認めてすっぱり諦める。それだけでも問題がクリアになり、心が軽くなるはずです。
【4】ネガティブな思いにとらわれたら「レット・イット・ゴー」
感情を切り替えるのは簡単なことではありません。私だって日々揺らぎます。水の入ったグラスを勢いよくテーブルに置くと、水しぶきが立ちますね。そんなときは泡が消えるまで待ちましょう、と私は言うのですが、何のことはない、私の心など炭酸水のようにしょっちゅう泡立っています(笑)。そう、みんな同じ。住職だって同じです。だから心配事に悩まされているときや心がイライラしたときも「こんな感情消さなきゃ!」と焦る必要はないのです。まずは「みんな同じ。私だけじゃないんだ」と、レット・イット・ゴー(とらわれずに)でその感情を認めたうえで、そのじゃじゃ馬のような感情に流されることなく、自分を失わないよう騙し騙し、うまく手なずけていきましょう。
【5】今起きている問題のポジティブな面を探す
どんなに慎重に生きていても、必ず嫌なことは起きます。まして今のような状況下では、現在のことも将来のことも、ネガティブに捉えようと思えばいくらでも悲観的な見方ができるでしょう。けれどそれでは心の免疫力が低下してしまいます。できるだけ軽やかな、穏やかな気持ちで過ごすためには、ネガティブな感情を掘り下げず、「これをポジティブに転換してみよう」とチャレンジを。先に述べた家族の例のように、「ステイホームで友達とも彼氏とも会えないし、夜も休日も家族とばかり過ごしてうんざり」と思うのではなく、「普段すれ違いがちだった家族と過ごす時間が増えた! こんなことでもなければこんなに一緒に過ごすことはなかったはず」と前向きに捉えてみましょう。
【6】自分が自分の良き相談相手になる
身近に親身に話を聞いてくれる相談相手がいればいいのですが、いつもそうはいきませんね。そんなときは、自分が自分の相談相手になってみましょう。自分と対話するのです。自分の話をじっくり聞いた後は、その自分にアドバイスをする役になります。「今日上司に怒られて、落ち込んじゃったよ、もう私ダメかも」「でも怒られるってことは期待されてるってことじゃん? それにお客さんに出す前でよかったかもよ」「確かにそうかもね。明日は挽回できるように頑張ろうかな」などと話すのです。自分一人だとネガティブな感情に包まれてしまいそうなときも、「もう一人の自分」のちょっと離れた視点からのアドバイスで、思いがけず悩みのループから抜け出せるかもしれません。
【7】「〜しなきゃいけない」を捨てる
これまでいつも自分らしく生き生きと仕事や恋、趣味に励んでいた人ほど、今はそのギャップに参っているかもしれません。そして「こんな自分は嫌。前のように明るくポジティブでいなきゃ!」と焦っている方もいるでしょう。これを読みながら10のタスクのように感じているならもう、ページを閉じたほうがいいかもしれません(笑)。世の中にしなくてはいけないことなんてありません。「すべき」という思いはそれ自体がプレッシャーとなって負のループに迷い込んでしまいます。自分を「しなきゃいけない」「こうでなくてはいけない」と理想像で追い詰めるのではなく、「こんな私もいるんだなぁ」と新たな自分の発見を楽しみながらのんびり対応しましょう。
【8】1日5つ、その日感謝したことを書き出してみる
将来が不安になったり、焦りやいら立ちを感じたり、落ち込みやすいときにおすすめの心の免疫力の鍛え方は、毎日5つ、今日感謝したことをノートに書くという方法。スマホでもパソコンでもOK。朝、管理人さんが笑顔で挨拶をしてくれたとか、エレベーターのボタンを押して待っていてくれた人がいたとか、小さなことでいいのです。あるいは今日も元気に生きている、ということだっていいでしょう。毎日書き続けているうちに、自分の人生がどんなに幸せに満ちているか、どれだけ多くの人に応援されているか、そして自分が何に喜びを感じるかがわかるはず。人生に対する見方が変わると行動も変わり、気づいたときには、自分がすべきことも見えてくるのではないでしょうか。
【9】自分流の瞑想法をもつ
座禅や瞑想は心を落ち着かせる便利な方法です。いろいろな方法がありますが、気楽に取り入れられる自分なりのものをいくつか持っておくとよいでしょう。ヨガやランニング、料理、歩く、掃除をする、食べる、そのほかぼーっと専念できるものなら何だっていいのです。イライラしたときは、コップに入った泥水を想像し、それをじっと見つめて、徐々に水と土の層に分かれていく様を思い描くのも便利な瞑想のひとつで、「サマタ瞑想」と言います。ネガティブな感情に包まれそうになったとき、「そのことを考えるのはやめよう」と打ち消しても、余計にその感情にとらわれてしまうのが心の厄介なところ。だからこそ、そこから自然に離れられる方法を持っていると心強いです。
■こんなときが瞑想のチャンス!
・ウォーキング
・ストレッチ
・クッキング
・ヨガ
・ランニング
・スイミング
・華道
・茶道
・掃除
【10】寂しくても、辛くても、笑う!
笑うことは大切です。笑いがないと、寂しいじゃないですか(笑)。寂しいともっと寂しくなります。だから笑いましょう。辛いときも、失敗しても、笑いましょう。ものすごく腹の立つことが起きても、例えばそれによって相手にキレてヒステリックに怒鳴りつけたところで、決してスッキリはしないし、自己嫌悪に陥るかもしれません。しかも相手が行動を改めて同じトラブルが起きなくなるなんてことは滅多にないでしょう。だからこそ、嫌なことがあったときもとりあえず笑ってみる。「なんでこんなことが起きちゃったの〜(笑)」と笑っていると、怒鳴ったときよりはずっとポジティブな気持ちになって、感情をうまく操れるのではないでしょうか。心の声に「(笑)」をつける習慣を。
松原正樹/Masaki Matsubara
臨済宗妙心寺派佛母寺住職。コーネル大学東アジア研究所研究員。ブラウン大学宗教学部及び瞑想学研究所非常勤講師。1973年東京都生まれ。NY在住。名僧の家に生まれ、コーネル大学でアジア研究学修士号、宗教学博士号取得。現在は日米を行き来しながら禅仏教の伝道を行う。近著に『大丈夫!雲の向こうは、いつも青空。』(実業之日本社)など多数