環境保護や環境問題に関心のあるエココンシャスなハリウッドスターはレオナルド・ディカプリオだけじゃない。撮影で訪れた地でその問題に直面し団体を立ち上げたり、時間を見つけてデモやボランティアに参加し問題定義を続けてきた行動力のあるセレブをご紹介。
Text IZUMI MATSUURA
マット・デイモン(49歳/俳優、プロデューサー、脚本家)
撮影地での体験で学んだ水と衛生の大切さ
「最も急を要する課題をリサーチした結果、水と衛生を改善すれば、多くの問題が解決するとわかった。僕はザンビアで撮影したとき、地元の村で、ある家族と過ごしたことがある。彼らはきれいな水にもトイレにもアクセスできずに苦しんでいた。この体験がきっかけで、NGOを立ち上げようと決意した」
トップスターにして名プロデューサー、脚本家のマット・デイモンが、Water.org を設立したのは2009年。すでに2500万人以上に安全な水と衛生施設を届けた実績をもつ。
「6年前ハイチで、自宅に水道がないために、毎日3〜4時間かけて水を汲みに行く13歳の少女に出会った。Water.org の活動が実って、彼女の家には今水道が引かれている。余った時間で何がしたい? と聞いたら"遊びたい!"と答えた。子どもは本来、重労働なんてせずに遊ぶべきなんだ」
全人類がきれいな水とトイレを手に入れるには、2030年までに毎年1140億ドルが必要。現在、この問題に使われている予算の3倍だ。
「このギャップを埋めるには資金調達がカギになる。貧困のサイクルを断ち切るためにも、まず水と衛生の問題を解決しなければ。僕が地球の大統領に就任したら、それを最優先にするよ」
途上国の水と衛生問題に立ち向かう「Water.org」
Water.orgは、マットが2006年に創設した「H2O Africa」と、環境活動家ゲイリー・ホワイトの「WaterPartners」が合体したNGO。世界の9人に1人は水道に、3人に1人はトイレにアクセスがない現状を変えるミッション。「Water Credit」というマイクロファイナンスによる資金調達で成功を収めている。
シェイリーン・ウッドリー(28歳/女優)
ヒッピー女優の行動力が世の中を変える一歩に
HBOのヒットドラマ『ビッグ・リトル・ライズ」のジェーン・チャップマン役で知られる女優、シェイリーン・ウッドリー。彼女は2010年に母親のロリと若い世代のリーダーシップを育むプログラム「AII It Takes」を立ち上げ、最近は国際NGO、コンサベーション・インターナショナル(CI)の活動に積慣的に参加している。
「CIの行動力には驚かされるわ。彼らは世界中の国をまたいでネットワークを広げ、草の根のオーガナイザーと各国政府の懸け橋になっている。具体的な活動も、海洋の保護区域の拡張からマングローブ・森林保護まで幅広い。彼らのモットーは"自然を癒やすのは自然"。自らを癒やす時間と空間さえ与えれば、自然はおのずからよみがえるという思想なの」
彼女が最初の一歩としてリコメンドするのは、CIをはじめとする環境団体への寄付。シンプルだが、重要な第一歩だ。
「ここ数年、多くの人たちが環境の変化を身近に感じるようになって、環境破壊がもたらす影響を理解し始めた。特に若い世代が声を上げ始めたのが大きい。環境を改善するには、まず他者への共感を育むことが重要。他人に接する態度と環境に接する態度はつながっているのよ」
人間社会と自然の調和を目指す国際NGO「CI」
1987年創立のCIは、生物多様性を保全し、人間社会が自然と調和する道を具体的に示すことをミッションにしたNGO。アマゾンやサハラ以南、インドネシアなど、すでに原生生物の7割以上が破壊された「生物多様性ホットスポット」を優先的に取り組む。日本を含む世界31カ国に支部がある。
マデライン・ペッチ(25歳/女優)
TVドラマ界のスターは生粋のナチュラリスト
人気ドラマ『リバーデイル』のキャラクター、シェリル・ブロッサムは、執念深くて意地悪だ。だがこの役でブレークしたマデライン・ペッチの素顔はその正反対。両親は環境問題に意識的で、彼女も子どものころからビーガンだった。
「私は家庭菜園の野菜を食べて育ち、3歳のときに父から食品表示の読み方と、避けるべき添加物について教わったの」
ランチはプラスチックのバッグではなく、洗って何度も使える容器で持参したので、学校の同級生にからかわれた。今でも可能な限りプラスチックは避ける。「エコバッグを持ち歩けばいいだけ。ストローも不要。グラスから直接飲めばいい」
だが彼女は、自分のスタイルをファンに押し付けたくないとも考えている。2000万人近いインスタのフォロワーと500万人の YouTube 登録者がいるから、影響力は絶大だ。だから YouTube ではシナモンロールの作り方を紹介するなど、菜食を楽しんでもらう工夫を凝らす。娯楽産業におけるエコフレンドリーなアプローチを支援するNGO「環境メディア協会」 のボードメンバーでもある。
「まずはエコな生活を楽しそうだと思ってもらうこと。でも『リバーデイル』のシェリルを説得するのは難しそうね」
YouTubeで発信! 等身大で伝えるサステナライフ
インスタやYouTubeでサステナブルライフへのおしゃれなアプローチを紹介 しているマデライン。彼女が理事を務める環境メディア協会は1989年設立。制作過程やメッセージがエコ・フレンドリーな娯楽作品を「グリーン・シール」認定、環境メディア賞を開催するなどの活動を続けている。
ザック・エフロン(32歳/俳優)
自然を愛するスターが地球のために立ち上がる
『ハイスクール・ミュージカル』のトロイ役から大きく成長したザック・エフロン。32歳を迎え、圧倒的な演技力でシリアルキラー役に挑むなど俳優として領域を広げた彼は、最近、弟と共に前人未到の地でサバイバルする「Kill the Efrons」というリアリティシリーズを制作中だ。冒険好きのザックは今年、50周年を迎えたNGO「アース・ デイ・ネットワーク(EDN)」で活動を開始した。
「僕は旅に出て新しい場所を探検するのが好きなんだ。自然とのつながりや、その大切さは身に染みて感じているから、何か環境を守る活動ができないかと考えていた。EDNでは Great Global Cleanup Campaign に参加している。世界各国の都市ゴミを清掃するキャンペーンで、プラスチック廃棄物を減らし、過剰な消費を見直すきっかけにもなる」
旅先のハイキングトレイルにゴミが散乱し、プラスチックボトルが海に浮くのを見るたびに、心を痛めていたという。
「環境への取り組みは、誰でもいつでも始められる。新しいテクノロジーによって、世界はより緊密になり、可視化されるようになった。自分の行動がどういう結果につながるかを知れば、より多くの人がベターな選択をするようになると思う」
創立50周年の歴史ある「アース・デイ・ネットワーク」
EDNは、1970年から始まった「アース・ デイ」を主催する、世界で最も歴史ある環境NGOのひとつ。2020年は気候変動をテーマに、環境政策を重視する候補者への投票を呼びかける「Vote Earth」、年内に35億のグリーンな行動の達成を目標にした「Green Act」などのプログラムを設けている。
リリー・コール(32歳/モデル、女優、アクティビスト)
才色兼備が提案する政治的アジェンダとは?
16歳でモード誌のカバーを飾り、ケンブリッジ大学で2科目最優秀成績を達成した経歴を誇る、リリー・コール。モデル、女優、研究者、デザイナー、起業家、書店オーナー...数多くの肩書をもつ彼女。この15年ほどはEnvironmental Justice Foundation(EJF)やWorld Wildlife Fund (WWF)に協力する熱心な環境活動家でもある。
「私はファッション業界との結びつきが強いので、EJFがウズベキスタンの綿栽培の問題にフォーカスしたとき、ぜひ参加したいと思った。それ以来、地球温暖化の被害を受けた難民の苦境をメディアに伝えたり、フェイスクリームに使われるスクワランというオイルのためにサメが殺されている現状を訴えたり、EJFのさまざまな活動に協力してきたの」
ファッションに限らず、あらゆる産業は自社の製品が環境に与える影響に責任をもつべきだ、と彼女は考える。消費者が知らないところで、多くの商品とそのサプライチェーンが地球を汚染しているのだ。
「オーガニックコットンで作ったカーボン・ニュートラルなTシャツ、北ガーナの女性たちが手作りするシアバター製品など、環境に負担をかけない製品の成功例も多く見てきた。ヴィヴィアン・ウエストウッドがドレスを、私がジュエリーをデザインしたブランドを通じて、アマゾンの野生ゴムのプロジェクトに協力したこともあるわ」
環境問題を扱う「Who Cares Wins」という本をこの夏上梓するリリー。執筆していた3年の間にエコロジーに対する一般の認知は大きく変化した。
「以前は、環境は副次的な話題だった。でも最近は政治やビジネスが動き始めているのを感じるの。もう議論の時期は終わった。これからは行動あるのみ」
リリーが構想する政治的アジェンダの数々は、驚くほど具体的で説得力がある。
「まず、カーボン税の導入。それから企業が株主だけでなく、環境、コミュニティ、雇用者、 消費者すべてに法的に責任を負うように法律を改正する。さらに、エコシステムを尊重した再生可能な農業に補助金を出して、気候変動対策のために野生に戻す特別区域を指定する」
2019年上半期の統計では、気候変動による難民は、紛争による難民の2倍に上るという。
「環境への配慮はコストがかか るといわれてきた。でも私たちの生存は、いまや環境の保全にかかっている。自然を尊重しなければ、幸福な社会は作れない」
環境NGOや自著で世界の問題と向き合う
リリーがこの夏刊行する「Who Cares Wins」は、 自らの経験と、ステラ・マッカートニーやイーロン・ マスクなど起業家や活動家のインタビューで構成された、環境問題への提言の書。 協力するEJFはイギリス拠点のNGOで、不法漁業、農薬を大量に使う低賃金の総栽培など、多くの課題に取り組む。
往年のセレブは動物愛護アクティビスト
多くの人にとっては、ドラマ『ベイウォッチ』で有名な金髪グラマー女優としか認識されていないパメラ・アンダーソン。だが彼女は、実は25年前から活動する筋金入りの動物愛護家。現在は動物の倫理的扱いを求めるPETA(People for the Ethical Treatment of Animals) の名誉ディレクターを務める。PETAは1980年創立の世界最大規模の動物権利団体。動物を食物、衣類、娯楽、 研究対象として扱うことに反対し、種差別の撤廃を訴え続けている。パメラは自らの名前を冠した財団も立ち上げ、最近はテキサスA&M大学のラボからすべての実験用の犬を引き取った。彼女のメッセージはホワイトハウスにまで到達し、ついにはファーストレディに毛皮のコートをやめさせることに成功した。
「私は資金集めにかけては剛腕。自分の知名度をできるだけ利用して、あらゆる ツテをたどって寄付金を募り、意識改革をうながし、動物愛護を訴えている。とにかく前向きに行動していきたい。動物に対する残酷な態度は最悪だけど、受け身の状態で傍観しているのもNG。どんな人にでも、何かできることがあるはず」
人類は肉と魚を食べるのをやめて、すべての動物を艦から解放し、漁業を50年間禁止して、海の再生を待つ--これがパメラの究極の理想だ。
ホアキン・フェニックス(45歳/俳優)&ルーニー・マーラ(35歳/女優、起業家)
ハリウッドきってのグリーンカップル
ネオ・リベラリズムを代表するパワー・カップルがビヨンセとジェイZなら、グリーン世代を象徴するのはホアキン・フェニックスとルーニー・マーラだろう。昨年7月に婚約した2人は、共にビーガン。ジェシカ・チャステイン、アリアナ・グランデ、ジェニファー・ロペス、リアム・ヘムズワースやべネディクト・カンバーバッチなど、“ビーガン・ハリウッド"と呼ばれる意識の高いセレブリティの一員だ。
グルテン・アレルギーだったことも手伝い、子どもの頃から菜食だったルーニーは、2011年に厳格なビーガンになった。 '15年には自分のファッションから革製品だけでなく動物由来の素材を一切排除することに決め、友人とHiraethというブランドを立ち上げた。ミニマルなモノトーン中心のデザインで、人工皮革で作ったブーツを筆頭に、すべてエシカルでサステナブルな素材を使用している。
ヒッピーの両親のもとに育ったホアキンは、3歳でビーガンになって以来、菜食主義を広め、動物の権利を擁護するために活動を続けている。彼は動物愛護を訴えるドキュメンタリー『Earthlings』のナレーターを務め、『ジョーカー』のプロモーションではNYの屠畜場を指定して撮影、 ハリウッドのすべてのセレモニーをビーガンにするキャンペーンを展開する(ゴールデングローブ賞授賞式ではすでに実現)。
「感情をもつ生き物を苦しませたくない。生まれたばかりの子どもを取り上げたり、 監禁したり、殺すために太らせたりしたくないんだ。ばかげた、野蛮な行いだと思う」
2人は'17年からハリウッド・ヒルズで同居し、社交を避け、愛犬のオスカーとソーダと共に近所を散歩し、朝6時に起きて夜は9時に寝る生活をしている。セクシーで知的でスピリチュアル。まさに現代の夢を体現するスーパーカップルだ。
アニマル・ライツ・デーに2人で参加し話題に
動物の倫理的扱いを求めるホアキンとルーニーは、昨年6月2日、ロサンゼルスで開催された「ナショナル・アニマル・ライツ・デー (全国動物愛護デー)」のデモに参加。「われわれの地球は、彼らのものでもある」と書かれたTシャツに黒いジーンズ、コンバースというスタイルで、近郊の工場畜産で死んだ鶏の死骸を手に行進して話題になった。
アカデミー賞スピーチで訴えた“人間中心の世界”からの脱却
昨年『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン。お約束の受賞に対する謝辞はそこそこに、「ジェンダーの不平等、先住民や動物の権利を訴えるのは不正義に対する闘い」と主張、人間中心の世界観から脱却し、自然から強奪するのをやめようと訴えた。