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女子選手らしさに捉われない。下山田志帆選手がセクシュアリティを公表し吸水ショーツを開発した理由【スポーツと社会をつなぐアスリート】

従来の“女子サッカー選手らしさ”に捉われない下山田志帆さんの声がスポーツ界、ひいては日本社会を変えていく。

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下山田志帆
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女子サッカー・なでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCに所属している下山田志帆さん。サッカー選手として、そして2019年2月に自身のセクシュアリティをオープンにしたことで新たな活躍の幅を広げている。アスリートとしての活動や自身が立ち上げた株式会社Reboltで手掛けるプロダクト、そしてスポーツ界のジェンダーギャップについて話を聞いた。

Photo:217

女子サッカー界に存在する“メンズ”という特質な性

下山田志帆
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2019年に2月、同性のパートナーがいることを公表した下山田さん。公表前の大学時代からLGBTQアスリートに関する研究を行っており、そこには自分のジェンダーやセクシュアリティを知りたいという思いがあったという。

「大学のAO入試で“大学でやりたいこと”というテーマの小論文があったんですけど、私はそこで『性同一性障害について研究したい』と書いていて。当時は自分自身のジェンダーやセクシュアリティが固まっていなかったから、自分を知りたいという気持ちがあったんだと思います。実際に研究していくと、女子サッカー界で使われる“メンズ”というワード(女子サッカー界でセクシュアリティを表す言葉のひとつ)の特異さや女性同士でお付き合いすることが当たり前に認められているすごさを感じました。でもそのときは、『“メンズ”という言葉を外に出したら何か起きるかもしれない』ってすごく怖かったんですよね」

海外チームのジェンダーに対する寛容さに勇気づけられた

「大学卒業後にドイツのチームに所属したら、“メンズ”という言葉はなくても、女性同士でお付き合いする選手たちがチームメイトやコーチにはもちろん、ファンにもオープンで、そこで何も起きないじゃんと思って。私も『セクシュアリティを話しても大丈夫なんだ』と思えるようになったし、だんだんと『言ったほうが楽かも』という気持ちが勝っていったんです」

上の立場の人たちのジェンダー意識が大切

下山田志帆
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セクシュアリティをオープンにしてから約2年。今は「下山田志帆というひとりの人間として、自分の選択をしながら生きている」感覚があると話す。ここ数年ではこれまで以上にLGBTQの人への注目が集まり、今年の3月には札幌地方裁判所による同性婚訴訟の違憲判決が大きな話題に。下山田さんはジェンダーに関する取材や講演会などが増えていく中で、組織の上に立つ人々、スポーツでいえば指導者たちの意識の変化が必要だと感じている。

「オリンピックを皮切りに、企業がダイバーシティというワードに注目し始めたと感じています。ただ、スポーツチームも企業も『組織の中で権力を持っている人の声がすべて』という考え方がすごく強いんです。例えば上に立つ人たちがLGBTQの人たちを否定するような発言があれば、それが組織の空気になってしまう。その人たちの日々の言動がどうあるかが重要だし、もしそういう人が現れたときに『おかしい』と言える空気を作らなきゃいけないんだと改めて感じています」

組織は選手を制限するのではなく守るためのもの

スフィーダ世田谷fc
スフィーダ世田谷FC

チームごと、競技ごとにも大きく違うという性的マイノリティへの考え方。試合中にセクシュアリティが直接関わってくることはほとんどないが、その前後での関係性を作るためにも、チームメイトや指導者が当たり前に受け入れてくれるかどうかは、競技へ向き合う気持ちに大きく関係してくる。下山田さんはドイツから帰国し、スフィーダ世田谷に所属する前に自身のセクシュアリティや活動についてチームに話していた。

「一旦持ち帰られたんですけど、次の日には『好きにやって』と(笑)。最近はGMマネージャーも『新聞見たよ。どんどんチームの名前、出しちゃって!』と言ってくれるようになって、変わってきたなと思いますね。理解が深まったというよりも、チームにLGBTQアスリートがいても何も起きないんだと気づいてくれたんだと思います。女子スポーツ界では指導者などが選手の発言を制限するのはよくあることで、それは過激なファンが少なくない分、守らなきゃいけないという考えからなんです。でも私個人としてはどんな発言をしたとしてもちゃんと守って、その発信がスポーツ界にとってプラスだと考えられるクラブが増えればいいなと思ってます。今は選手を守ることと制限することがイコールになってしまっている気がするんですよね」

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引退後ではなく現役中に声をあげるために起業

下山田志帆
OPT

下山田さんは、2019年10月に元女子サッカー選手の内山穂南さんとともに株式会社Rebolt(レボルト)を設立。そのきっかけは、世間の女子アスリートへの考え方、そして引退後の人生を考えたことからだった。

「ドイツにいた頃はプロ契約をしていたので、『プロとしての責任を持ってね』とチームからも言われていました。でも日本に一時帰国したときに『まだ遊びでサッカーやってんの?』とか、特に『まだ親の脛かじってるの?』と言われたことにショックを受けました。世間一般的には女子サッカー選手ってその程度の価値なんだと感じ、そう言われたことで自分としても『引退したらどうなるんだろう』という不安が生まれました」

「こうした体験から、今までサッカーをしてきた時間を社会に貢献する形で残すために、アスリートとしての経験を生かしたビジネスをやってみたいなと思いました。カミングアウトをしてからLGBTQ当事者として、そして現役選手としてのリアルな声を届けることの意味に気づけたので、会社を立ち上げたことも現役中にやる意味が大きいんだと感じているところです」

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ビジネスパートナーの内山穂南さん(左)と。

アスリート目線で生理を考える

opt
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Reboltの企業理念は「ジェンダーのアタリマエを超えていく」。現在、最初のプロダクトとして吸水ショーツを開発中だ。アスリートに限らず生理について語られる機会が増え、最近ではGUから吸水ショーツが発売されたことも話題になった。

「私、アスリートの中で一番吸収ショーツを履いている人間だと自負しているのですが(笑)。自分が開発したもの以外の商品も人に勧めているんです。やっぱりナプキンってすごく蒸れるし、ズレなかったとしても水を吸って膨らんだり、結構弊害がある。吸収型ショーツを知ったときに、別にナプキンだけが当たり前じゃないんだと気づいたんです」
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Reboltからボクサー型の吸水型ショーツ「OPT(オプト)」をリリースした下山田さん。挑戦中のクラウドファンディングにはたくさんの支援が集まり、目標金額を達成!

これまでにない“かっこいい”吸水型ショーツ

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
OPT
OPT thumnail
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走り回り、汗をかくアスリートたちにとって、毎月訪れる生理を少しでも快適にすることはパフォーマンスに関わってくる。そしてそのデザインも気分やモチベーションを左右し、選択肢が広がればより自分らしく過ごせることに繋がっていく。

「いろんな吸水ショーツを使っているなかで、機能が優れていてもデザインがかわいらしくて、手に取りにくいと思うことが多かったんです。Reboltでリリースする吸水ショーツ『OPT』はボクサーパンツですけど、使う人のジェンダーやセクシャリティはこちらが決めたくないので、カッコいいものとして選んでもらえたら嬉しい。アスリート向けと限定もしたくないから、販路をどうするかも考え中です。アスリートが履いてよかったものはすべての人にとっていいものだというモット―があるので、私たちの声をお届けする中で、多くの人に自分も履きたいと思ってもらえたら」

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スポーツとビジネスの両面から“当たり前”をほどきたい

下山田志帆
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女子選手たちが快適に、自分らしくスポーツに向き合える環境を目指し、新たな道を開拓していく下山田さん。セクシュアリティをオープンにしてから当事者のアスリートから連絡がくるようになり、実際に悩んでいる人がいることに気付かされたという。特に海外では、セクシュアリティを公表することや男女間の賃金格差など、スポーツ界でのジェンダーギャップやLGBTQに関する話題が交わされる機会が増えているが、日本のスポーツ界はどういう状況にあるのだろうか。

「ジェンダーとセクシュアリティの問題って分けて考えられることが多いんですけど、私は地続きだと思っています。ジェンダーの枠組みが濃ければ濃いほど、そこに当てはまらない人が苦しくなっていくので、そう考えると日本のスポーツ界はまだまだセクシュアリティを語れる状況じゃないと思います」

“女子選手らしさ”を取り払う

「私はこれまで女の子はこうあるべき、女子選手はこうあるべきみたいな“当たり前”にがんじがらめにされて生きてきた感覚があって、だからこそそれを一旦なしにしたいなと思うんです。女子選手で株式会社をやっている人って今までにいなかったし、こうやってセクシュアリティをオープンにできているからこそ、“こうあるべき”という形をほどく作業をしていきたいなと思います」

女子選手のキャリア支援でジェンダーギャップを埋めていく

下山田志帆
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これからは選手として女子スポーツ界、そして女子サッカー界に感じてきたことを、ビジネスパーソンとしても向き合っていく下山田さん。

「根底に今まで選べなかったもの、選択肢がなかったものを作りたいという想いがあるので、Reboltではそれを軸に商品を展開していく予定です。そして今、動き始めていることとしてはアスリートのキャリアサポート。私は女子スポーツの社会的な見られ方にも問題があると考えています。まずは男子スポーツよりもお金が回らず興味を持たれづらいこと。そして、女子スポーツ界の多くはスポンサーのもとで働いて夜はサッカーをするという、根本的に他のことをする時間がないこと。私は現役時代のスタータイムにどれだけやりたいことができて、どれだけ女子サッカーにファンを連れてこられるかが重要だと思っているんです。現役アスリートのサッカーへの思いを邪魔したくないけど、もし他の世界を知らないだけであれば、それに気づくきっかけ作りたい。自分ひとりの体でできることは限られているけど、他のアスリートのかっこいい部分を引き出していきたいし、社会課題への気づきを一緒に形にしていけたらと思っています。キャリアサポートのプロジェクトは今は本リリースに向けて準備をしているところで、私自身めっちゃ楽しいし、みなさんにも楽しみにしてほしいです」
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下山田志帆

Twitter

吸水ショーツ「オプト」クラウドファンディングページ

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